夏の甘〜い人気者

barmariko2006-06-04


ニッポンでもお馴染みの、いわゆるイタリアンジェラートは全てのバールにあるわけではない。冷凍庫がないバールもあるし、売り場スペースを確保するのが難しいバールもある。ジェラートを扱えるバールというのは実は一部なのだ。しかしながら、どんなに狭いバールにも必ずあるのがニッポンでいうアイスクリーム。ちなみにイタリアではアイスクリーム=ジェラートであり、言葉的にこの差はない。つまり、とろとろのイタリアンジェラートも、森永アイスクリームも全部ひっくるめて「ジェラート」となる。

甘いものにうるさいイタリアジンたちは、このアイスクリームにも目がない。バールで働き始めた頃結構悩まされたのが、このアイスクリームの名称である。「コルネットある?」「(コルネットはあの甘いパンのことだよな)いえ、もう全部売り切れましたけど」「ええ?もうないの?夏なのに」「やはりコルネットは朝売り切れてしまいますから・・・」「違う違う、僕が欲しいのはアイスのコルネット!」「はぁ?」

そう、「コルネット」とはイタリアで最もポピュラーなアイスクリームメーカーALGIDA(アルジダ社)が世に送る、アイスクリームの名前なのだ。形はニッポンで言えばジャイアントコーン(写真上)。カカオ風味、ナッツ入り、ダブルチョコレート・・・と種類も多い。値段も手ごろでコルネットのクラシックなら確か約150円。

それから最近特に人気なのがMAGNUMという濃厚チョコレートをウリにしたちょっと高級ライン(写真下左)。この名前がまたややこしい。MAGNUMは英語読みすれば当然マグナムであり、ニッポンジンとしてはやっぱり「マグナム」と発音してしまう。しかしローマ字発音を徹底するイタリアジンは、「マニュム」とかなりゴーイングマイウェイ的な読み方をされるのである。バールで「マニュムある?」と聞かれた日には、何のこっちゃさっぱり分からない。


ある夏、野外映画場の横に設置されたキオスクスタンドでバイトしていたときのこと。ここは夕方18時からオープンし、毎日2本の映画を上映する。その間はキオスク兼バールとして、映画上映後は野外パブとして営業していた。オーナーは夕飯を食べてから20時から21時頃ゆっくり出勤してくるため、それまでわたくしはたった一人で店番をしなくてはならなかった。まあ好き勝手できるし楽しいと言えば楽しいのだが、やはり一度に人が訪れる映画の休憩時間は恐怖である。

「赤生ビール」「瓶ビールはある?」「ワイン」「食後酒何があるの?」「食前酒は?」このレベルの対応ならパブ&バールで慣れているから問題はない。最も困るのはアイスクリームの注文である。「クッチョローネ!」「・・・は?」「だからクッチョローネ!」「えーっとクッチョローネって何ですか?」「アイスだよ、アイス。あのクッキーサンドみたいなやつ」「!!ちょっとお待ち頂けますか?」慌てて奥の冷凍庫をガサゴソ探しにいく。しかし夜のしかも野外の営業であるから、暗がりの中でどれがそのお目当ての「クッチョローネ」なのか全然分からない。(写真上右)

先ほどの「マニュム」も同じ。何のことやらさっぱり分からない。しかも「あのナッツが付いてるヤツある?」「最近出た新シリーズのヤツは?ほら、チョコレートがダブルの」等と質問を重ねるのだ、やつらイタリアジンは。何が問題ってわたくし、夏でもアイスクリームを滅多に食べないので、アイスの名前なんぞ覚えているわけないのである。

それにしても一応バールでずっと働いていたのだから、いくら自分が食べないからといってある程度の名前は覚えていてもよいはず。あ。思い当たる節がある。わたくしが働いていたバールにアイスはあったか?そう、愛すべきガリバルディ通りのバール・アルベルトには、夏の間中アイスが欠品しているという信じられない光景があるのだ。来るお客来るお客に「申し訳ありません、ただいまアイスは欠品してまして・・・」と頭を下げなくてはならない。「欠品って1個もないの?」「はい・・・」「ってさ、夏が終わっちゃうよ!?」

全ては夏場アイスが1個もないイタリアで唯一のバールで働いていたせいである。

お詫びと反省

barmariko2006-06-03


すっかりご無沙汰しておりますm(_ _)m
どうにもこうにも仕事が忙しくて、5月はなんと3回しか日記の更新ができませんでした。いつも読んでくださっている皆様、本当にすみません。それから心配のお便りをくださった方、本当に有難うございます。書きたいことは山ほどあるのに思うように時間がとれず、もどかしい毎日(/TДT)/
イタリアに住んでいた頃、山ほどあるのは時間くらいでしたが、東京ライフの時間はまるで別世界ですね。ちょびちょびした更新ですが、なんとか時間を作って書きたいと思っていますので、また遊びにきてください。

ソラマメの季節がやってきた!

barmariko2006-05-20

E' ARRIVATA LA STAGIONE DELLA FAVA
5月。イタリアでは瑞々しいソラマメが市場に出回り、家庭の食卓にお目見えする季節である。ニッポンでソラマメと言えばやっぱり「塩茹で」。夏のビールのつまみとして、枝豆とともに外せないニッポンの顔である。さてこのソラマメをイタリアジンはどうやって食すのか。人気なのはやっぱりパスタ。たっぷりのお湯にたっぷりの塩を加えてソラマメを茹で、そのまま同じ鍋にパスタもぶち込んで一緒に茹で上げる。同時に引き上げる頃にはソラマメはクタクタに柔らかくなっていて、そのままソースになってしまうほど。

パスタソースもそりゃあいろいろあるだろうが、個人的にはやっぱりソラマメを味わいたいから、いわゆるトマトソースではちょっと勿体無く思ってしまう。とはいえ例外もあり、プチトマト(←わたくし無類のプチトマト好きなので、リゾットにもパスタにも何にでも入れてしまうのだ)を合わせれば爽やかで彩りもきれいな初夏のパスタが味わえるので、これはお勧め。またソラマメ自体はあっさりしているため、パンチェッタ(イタリアのベーコン)を加えて少しコクを加えるのも最高。

しかし。実はパスタに加えるよりも何よりも、この時期になるとイタリアジンがどうしてもその衝動にかられる食べ方があるのだ。ずばり、「生」。そして生のソラマメに、ペコリーノチーズ(ヤギのハードチーズ)を合わせてポリポリ食べるのがイタリア流なのである。初夏の風に吹かれながら、きゅっと冷やされた白ワインのおつまみに「生のソラマメ&ペコリーノチーズ」があればそれだけで幸せになれる、そんな季節の到来なのである。(ちょっと言い過ぎ)

ペルージャで初めての5月、当時わたくしの同居人はローマ出身の21歳エミリアーノ、ナポリ出身の45歳ガブリエレだった。ある日わたくしがキッチンでお昼の用意をしていると、そのエミリアーノが帰ってきて満面の笑みでこう言い出す。「すっごいいいもの買ってきたよ!マリコにこれぞイタリアっていう5月の食べ物、今から見せてあげるから!」と、袋いっぱいに詰め込んだソラマメを取り出した。「これをね、生で食べるのが一番イキなんだよ。旬だからね。それからペコリーノチーズね、これをひとかけら千切って、こうやってソラマメと一緒に口の中へ放り込む!」ぱくり。「うーん、ボニッシモ(美味しい)!」そうやってわたくしにも食べろ食べろと勧めるエミリアーノ。

はて。我々ニッポンジンにとって、ソラマメを生で食べるなど信じられない光景である。当然塩味などついておらず、その実は瑞々しいというより青々しくて、野菜を食べるというよりは「植物を食べる」ほうに近いのでは、とついつい勘ぐってしまう。とはいえ保守的で自分達の食べ物しか認めないイタリアジン(いや全員がそうなのではございませんが統計上)と違って、わたくしは仮にも「食べること」「外国のもの」が大好きなニッポンジンの端くれである。断るわけにもいかず、「イタリアのソラマメさんはきっとニッポンのそれと味が異なるのだ」と信じ込み、エミリアーノに教えられた通りパクッと口に放り込んだ。

続きを読む

イタリアジンのネクタイ

barmariko2006-05-12

LE CRAVATTE ITALIANE
今年の冬ペルージャに帰省したときのこと。妹の旦那様からお土産にネクタイを頼まれた。いつの時代も男性のネクタイ選びほど女性にとって難しいものはない。しかも本人がいない、外国の地・・・うーん、どうしたものか。イタリアへ一歩足を踏み入れると、ショッピングにはいつも危険が付きまとうことを皆様ご存知か。(いや、一般論ではなく、わたくしだけの事情かもしれないが)つまり。ニッポンへ帰国したら到底使うことができないようなド派手なもの、奇抜なものをついついチョイスしてしまう傾向にあるのだ。

それは全てイタリアジンのせいである。入国と同時に目に付くのは、ピンクのシャツを着こなすオヤジども、茶色の(勿論トゥーはスクエアカット)のビジネスシューズ、ピチピチなワンダフルレディを気取るオバチャンたち、胸が半分くらい見えてるんじゃないかと不安になる過激Vカットのワンピース、30代を過ぎても迷わずヘソ出し(いや、腹出しといったほうが的確か)ルック・・・赤いジーパンを普通の一般人がはきこなす国、イタリア。そんな国に滞在すると、ついついニッポンでの美的センス&常識を大きく失いながら買い物をしてしまうのである。

つまりわたくしが心配していたのは、かたぎのサラリーマンである妹の旦那様にぴったりなネクタイというものを、果たしてここイタリアでたったひとりで購入できるかということである。いやそんな大袈裟なと思われるだろうが、なんのなんの真剣そのものである。しかも、妹の旦那様は大胆にも「イタリアっぽいデザインのものがいいなぁ。日本じゃあまり見かけないようなやつ」とおっしゃるではないか。

という流れでもって、わたくしは友人アンドレアを連れてペルージャの古いネクタイ屋へと足を運んだ。何故アンドレア?勿論男性もののネクタイを選ぶわけだから、ヘルパーとしては少なくともオトコであればよいのだが、それ以外にもう一つ理由がある。妹の旦那様は頭がきれいに剥げている。極端な話、超ロンゲと剥げの方では、着こなしにも違いが出てくるというかオリジナリティが出てくるだろうという想定の元で、「アンドレアくん、ちょっと付き合ってもらえるかしら。ネクタイ見たいんだけど」と相成ったのである。

続きを読む

イタリアンジンはブルスケッタがお好き

AGLI ITALIANI PIACCIONO LE BRUSCHETTE
表題の通り、イタリアジンはブルスケッタが大好きである。ちょっと小腹が空くとパチッとオーブンのスイッチを入れ、パンを切る。オーブンが温まりきらないうちに待ちきれずパンを入れ、カリカリになるまで待つこと数分。うっかり焼きすぎて黒こげになっても焦らずべからず。ナイフで表面のおこげをガリガリこそげ取れば、十分食べられる。焦げても固くなってもパンをすぐに捨てないというのは、この国の特徴である。

さてブルスケッタというと何か具がのっていなければならない、そう思っている方いらっしゃるに違いない。しかし実は、スライスしたパンが焼いてありさえすれば、それはもう立派なブルスケッタなのである。トマトやバジルやモッツァレッラが冷蔵庫になくとも、イタリアのキッチンに必ずある「エクストラバージン・オリーブオイル」これとひとつまみの塩だけで、シンプル・イズ・ベストのブルスケッタが出来上がる。特に秋、摘みたて出来立てのオリーブオイルが出回る頃、このピュアオイルだけをたらしたブルスケッタは唸るほどの美味しさなのだ。


イタリアジンが作るブルスケッタはとにかく大きい。ニッポンのブルスケッタは(わたくしの勝手な思い込みかもしれないが)、リストランテやカフェで出されるものを見る限りではフランスパンを使うことが多いようで、長細いあの形状では小さく薄くなるのが当たり前。そしてフランスパンというのはその名の通りフランスのものであり、イタリアではこの手のパンを使ってブルスケッタを作ることは考えられない。まん丸でもっとゴワゴワした、きめの粗い田舎パン(例えばパーネ・プリエーゼやパーネ・ナポレターノなど)、表面は固く小麦粉がうっすら残るあの固まりを分厚く切って、まるで草履のような大きさのブルスケッタにするのだ。

イタリアでレストランへ食べに行くと、必ずメニューの「前菜」の欄にブルスケッタは位置している。そして前菜であるにも関らず、パンを食べなれていないニッポンジンにとっては、「ゲ、でかい!」とこの後待っているパスタを間食できるかどうか、さらにデザートまで行き着くことができるかどうか、先行き不安な大きさで登場する。

ところでこのブルスケッタ、前菜としてメインの前に食べなければならないのかといえば、そんなことはない。例えばアンドレアの同居人ジェラルドは、ほぼ毎日夕飯にブルスケッタを用意する。パスタを食べている間にオーブンでパンを温め、最後はこのパンに生ハムやモルタデッラ、サラミなどをのせブルスケッタにする。夕飯はブルスケッタで締めるというわけだ。

ちょっと話がそれるが、この生ハムやサラミ類を食べるとき、ニッポンジンとイタリアジンでは大きく異なる点がある。それはパンを必要とするかどうかということ。わたくしを含めニッポンジンの場合、生ハムやサラミだけで味わうのがごく一般的である。(だって高価だし、なかなか食べられないし、やっぱりそれだけで味わいたい)しかしイタリアジンの場合、生ハムサラミ類を食べるとき、そこにパンがないなんて有り得ないのである。

いつだったかガリバルディ通りのスーパーで、わたくしが「生ハムが100gと、モルタデッラが100g、それから・・・」と注文していると、友達のジョバンニがやってきた。「チャオ!おっと今日は豪勢だね!生ハムにモルタデッラに・・・すごいな。あとはパンを買えば完璧だね」「いやパンは買わないんだけど・・・」「おいおい、パンなしでハム類を食べるなんて冗談だろう?」うるさい。わたくしは生ハムは生ハムだけで至福の時間を味わいたいのだ。パンでお腹が膨れたら勿体無いではないか。そう思うのはわたくしだけじゃないはず。

スカモルツァとプチトマトのブルスケッタこちら

おまけ・アレッハンドロさん宅のランプ

barmariko2006-05-02


先日ご紹介したデルータ産の陶器の大ファンである、友人アレッハンドロさん。新居を購入した際、あのオリーブオイル談義についつい熱が入ったおっちゃんの工房で、いろいろ買い揃えている。今日はおまけでその中の一つをちょっと見せていただこう。

写真右は、アレッハンドロさん宅のキッチンに飾られた白熱灯の傘。かわいいじゃございませんか、このフォーム。しかしこういうランプはニッポンの家にはなかなか馴染まないのが悲しいところ。もともとスペインを経由して伝わったとされるマヨリカ焼きは、デルータだけでなくイタリア随所に名産地が点在し、世界中へ輸出している。この太陽の国を思わせる色使いや柄、これがあるだけで部屋の雰囲気がまるでバカンスへと変貌する。

デルータのテラコッタ工房(やっぱりアンタはイタリアジン)

LA TERRACOTTA A DERUTA
テラコッタとはイタリアでいう「陶器」のこと。「テラ(TERRA)=土」、「コッタ(COTTA)=焼いた」の意味である。ウンブリア州の中でも古都アッシジに程近いデルータという街、ここはイタリアきってのテラコッタ産地として名高い。正直それ以外は何もないくらい小さな街なのだが、ヴィア(通り)というヴィアに建ち並ぶ工房は、どこかニッポンの古い焼き物の街を彷彿とさせる。

これまで幾度となく足を運びたいと思っていたのに、車なしではとても難しい場所にあるため機会がなかった。それが今回、我らがスーパースターのアレッハンドロさんが、車で馴染みの店に連れて行ってくれるというので、尻尾をふって便乗させてもらうことにした。

以前もご紹介したようにアレッハンドロさんは2年間住み慣れたペルージャから、車で30分ほど離れたベットーナという古都に昨年引越しをした。新しく購入した家を、夫妻好みの内装に全て作り変えるため、家具やランプやキッチン雑貨をここデルータのテラコッタで統一したのだ。(アレッハンドロさん夫妻の新居についてはこちら

アレッハンドロさんは、あの天性の人懐っこさでもって、このラボラトリー(工房)とも仲良しになっていた。「みんな良いひとたちばかりでね。新居のテラコッタはここで全部そろえたんだよ。ディスカウントもしてくれるし。マリコも好きなものを選ぶといいよ。僕がいれば割引してくれると思うから。」工房の人たちにしてみれば、ある日突然訪れた白髪ロンゲの正体不明なアレッハンドロさんに、興味津々だったに違いない。しかし顔はニッポン、喋ればスペイン語訛りのイタリア語で、あっという間に仲良しになってしまったのだろう。わたくしたちが到着するや否や、奥からオーナーが出てきて「オー、アレッハンドロー!元気にしてたかい?こちらは娘さん?」と言い出す。(そりゃそうだ、顔は同じ東洋人なのだから)

:H200 :H200

オーナー自らわたくし達を工房中案内してくれた。「写真はダメだよ。中国人なんかの手に渡った日には、最悪なんだ。うちのこの伝統的絵柄が、全部盗作されちまうんだから。・・・いや冗談だよ!君はニッポンジンだからね、そんな心配はご無用さ。どんどん写真とって宣伝してくれよ!いやぁ、それにしてもタチが悪いんだよ、マーデ・イン・チーナは。」は?マーデ・イン・チーナ?ああ、メイド・イン・チャイナのことか。(おっちゃん、それくらい英語読みしてくれ)

工房で作業している絵付け職人の方々にもお会いした(写真上左)。イタリアジンはお喋りでいい加減と世間では(わたくしが?)言われているが、職人は違う。一心不乱に手を動かす寡黙なオトコたち・・・と、作業机の周りをついつい観察してしまう。何かイタリアらしいものはないかしら?あった。家族や孫や犬のスナップ写真が何枚も壁に貼られている。この壁の家族を見ながら、一日中作業をするのであろう。あ、そして余計なものもあった。家族写真の横に貼られている、ヌード写真。おい!


オーナーが(写真上のトレーを持って微笑むおっちゃん)古代より伝わる葡萄酒入れの壷(写真上の左。ランプの隣)の前で立ち止まり説明をしてくれた。「出来上がったワインをこうやってこの壷の中に入れておくと、熟成がすすんでよりおいしくなるんだ。貯蔵かつ熟成用だね。」ふむ、ニッポンの焼酎でも同じことが言えそうだ。一昨年から某ネットモールでも、焼酎を熟成させる甕がヒットしていたらしい。飲む一日前に甕に移し変えるだけでおいしさが増すとか何とか。原理は同じなのであろう。

ふとアレッハンドロさんがオーナーに質問をする。「このワイン壷の口のところなんだけど。大きなコルクで蓋をしているよね。僕が以前ここで買ったオリーブオイル入れも同じ作りなんだけど、あの口の部分がオイルで変色してしまうことってあるの?何だか微妙に色がくすんできたような気がしないでもないんだ。いや、気のせいかもしれないけど。」するとオーナーのおっちゃんは、「オリーブオイルは何を使っているんだい?ウンブリア産?それともまさかプーリアとかリグーリアとか?」(おっちゃん、それ何の関係があるんだ・・・ああ、もうわたくしには結論が見えてますわよ。ウンブリア産が一番って言いたいんでしょ。変色したのならそれはウンブリア産を使っていないせいだとでもおっしゃりたいんでしょ)

そこからゆうに30分は続く、おっちゃんのオリーブオイル談義。「俺達がウンブリア出身だから身びいきしてるってもあるんだけどさ、やっぱりオリーブオイルはウンブリアが断トツ旨いよ。プーリア産だってそりゃ悪くはないさ。ただ重いな。あれは使いすぎると胃にくるな。リグーリアトスカーナも同じ。まあだからといってテラコッタが変色するとは言わんが・・・」

最初の質問から遠く離れたところで話は続く。ああ、これがイタリアなのだ。工房のおっちゃんが、職人が、バールのバリスタが、つまり専門家じゃないひとがオリーブオイルについて語る。この率が異様に高い。オリーブオイルだけではない、それはワインでもバルサミコでもパスタでもいい。とにかく食に対するコダワリが明らかに高く、一般人が一人前に薀蓄を垂れてしまうのが、イタリアの風景。各自が地元産を愛してやまないため、決して他の産地のものを認めない。結果、終止符が打たれることのない談義。

オーナーが席をはずした隙にアレッハンドロさんがわたくしに目配せをする。「アンドレア(プーリア出身でもちろんオリーブオイルはプーリア産しか認めない)がここにいなくて助かったよ。30分の談義が1時間になるところだったな、危ない危ない。」