ソラマメの季節がやってきた!

barmariko2006-05-20

E' ARRIVATA LA STAGIONE DELLA FAVA
5月。イタリアでは瑞々しいソラマメが市場に出回り、家庭の食卓にお目見えする季節である。ニッポンでソラマメと言えばやっぱり「塩茹で」。夏のビールのつまみとして、枝豆とともに外せないニッポンの顔である。さてこのソラマメをイタリアジンはどうやって食すのか。人気なのはやっぱりパスタ。たっぷりのお湯にたっぷりの塩を加えてソラマメを茹で、そのまま同じ鍋にパスタもぶち込んで一緒に茹で上げる。同時に引き上げる頃にはソラマメはクタクタに柔らかくなっていて、そのままソースになってしまうほど。

パスタソースもそりゃあいろいろあるだろうが、個人的にはやっぱりソラマメを味わいたいから、いわゆるトマトソースではちょっと勿体無く思ってしまう。とはいえ例外もあり、プチトマト(←わたくし無類のプチトマト好きなので、リゾットにもパスタにも何にでも入れてしまうのだ)を合わせれば爽やかで彩りもきれいな初夏のパスタが味わえるので、これはお勧め。またソラマメ自体はあっさりしているため、パンチェッタ(イタリアのベーコン)を加えて少しコクを加えるのも最高。

しかし。実はパスタに加えるよりも何よりも、この時期になるとイタリアジンがどうしてもその衝動にかられる食べ方があるのだ。ずばり、「生」。そして生のソラマメに、ペコリーノチーズ(ヤギのハードチーズ)を合わせてポリポリ食べるのがイタリア流なのである。初夏の風に吹かれながら、きゅっと冷やされた白ワインのおつまみに「生のソラマメ&ペコリーノチーズ」があればそれだけで幸せになれる、そんな季節の到来なのである。(ちょっと言い過ぎ)

ペルージャで初めての5月、当時わたくしの同居人はローマ出身の21歳エミリアーノ、ナポリ出身の45歳ガブリエレだった。ある日わたくしがキッチンでお昼の用意をしていると、そのエミリアーノが帰ってきて満面の笑みでこう言い出す。「すっごいいいもの買ってきたよ!マリコにこれぞイタリアっていう5月の食べ物、今から見せてあげるから!」と、袋いっぱいに詰め込んだソラマメを取り出した。「これをね、生で食べるのが一番イキなんだよ。旬だからね。それからペコリーノチーズね、これをひとかけら千切って、こうやってソラマメと一緒に口の中へ放り込む!」ぱくり。「うーん、ボニッシモ(美味しい)!」そうやってわたくしにも食べろ食べろと勧めるエミリアーノ。

はて。我々ニッポンジンにとって、ソラマメを生で食べるなど信じられない光景である。当然塩味などついておらず、その実は瑞々しいというより青々しくて、野菜を食べるというよりは「植物を食べる」ほうに近いのでは、とついつい勘ぐってしまう。とはいえ保守的で自分達の食べ物しか認めないイタリアジン(いや全員がそうなのではございませんが統計上)と違って、わたくしは仮にも「食べること」「外国のもの」が大好きなニッポンジンの端くれである。断るわけにもいかず、「イタリアのソラマメさんはきっとニッポンのそれと味が異なるのだ」と信じ込み、エミリアーノに教えられた通りパクッと口に放り込んだ。
塩気をペコリーノチーズで補う、その食べ方は道理にかなっている。しかし。どうあがいても、ソラマメはソラマメ。海を越え、地中海性気候で育ったソラマメも、やっぱりソラマメなのである。あまりに幸せそうに食べ続けるエミリアーノを見ていると、吐き出すわけにもいかず1粒2粒嫌そうに食べ続けるわたくしであった。

しかし翌年、その「ソラマメ事件」をくつがえす体験をすることになる。ジャーナリストかつソムリエであるトーマスが、カンティーナ・アペルタというウンブリア州のワイン祭りに連れて行ってくれたときのことだ。ウンブリアの各カンティーナ(醸造所)が一斉開放され、普段は法人相手にしか販売しないところでも、一般人の出入りが自由となり1本単位で購入できるようになるのである。勿論全て試飲可能で、驚くことなかれ試飲用のつまみまで用意されているのだ。ワイン農家&醸造所は想像通り田舎にあるわけで、美味しい農産物やチーズ・ハム・サラミが豊富という簡単な図式が成り立つところ。地元のつまみで地元のワインを飲むことが、どれほど至福の時か、しみじみと感じるお祭りである。

トーマスが連れて行ってくれたとあるカンティーナで、わたくしは見た。一昨年のあの日断念した「生ソラマメ」が大量に盛られているのを。勿論横には地元産のペコリーノチーズ。「わたし生ソラマメってダメなんだよね」とトーマスに言うと「まあね、ドイツでも生じゃ食べないよ。でもここのソラマメは採れたて新鮮だからちょっと食べてごらんよ。」

驚くってこういうことだ。美味しい。そして甘い。わたくしが拒絶したのはエミリアーノがペルージャ駅前のコープで買ってきたソラマメであり、新鮮な地場産ソラマメだったら生で食べられるということである。結局そこでわたくしは5種類の白ワインを試飲し、その間ソラマメとペコリーノチーズ、オリーブやサラミを食べ続けた。お祭りだからとはいえこれが全てタダなんて、イタリアはスゴイ国である。