チッタ・デッラ・ピエーヴェの友達〜その3

barmariko2006-09-08


その1その2も是非お読みください。

招待された彼らの家(写真右)というのは、つまりホテル・バンヌッチのリストランテ従業員が一緒に住んでいるパラッツォのことである。ダブルルームが2つ、シングルルームが2つ、バス・トイレは2箇所でキッチンは共有。決して広くはないが、ホテルから歩いて2分、閑静な小道にあり、ロケーションは最高だ。

友人アレッハンドロとわたくしが到着すると「遅いぞ!ニッポンジンのくせにすっかりイタリアジンになっちまったな!」とウンベルトがからかう。た、確かに。1時半に到着する予定が、もう2時前。イタリアにいると本当に「約束」ごとがルーズになって困る。ま、バカンスなので許して頂こう。

「さぁさぁ、マリコもアレッハンドロも座って座って!」とテーブルを仕切るクリスティアン。手にはワイングラスとアペリティーボの白ワイン。「まずは乾杯用の白から。つまみはこれ、オリーブと・・・あとこれ、近所のピザ屋で買ってきたフォカッチャ。美味いよ。でもあんまり食べ過ぎないで、まだ色々食べてもらわなくちゃいけないものがあるから。」「ひぇ〜そうなの?あれ?クリスティアンの後ろにあるのはチーズとハム?美味しそう!」「これはまだ駄目!赤ワインに合わせる用だからね。」

ていうかアンタ、わたくしの知っているクリスティアンではない。以前の彼は、ワインは好きだがお金もないし質より量を優先して、家で飲むときは紙パックの料理用ワインまで飲んでしまうような奴だった。飲食業に携わるイタリアジンとしてもちろん最低限のワイン知識はあったが、薀蓄などを語る姿など見たこともない。「ちょっとちょっと!アンタすっごい成長したじゃないの!いい仕事してんのね〜」「いや本当にそうだよ。最初はカメリエレとして必要最低限の勉強をしようと思ってたにすぎないんだけどさ、今じゃすっかりはまってるよ。」素晴らしい。招待された甲斐があるというものである。

「さぁ、次はサラミとチーズね。こっちから、イノシシのサラミ、ウンブリア豚のサラミ、サルデーニャのペコリーノチーズ・・・」どんどん続くクリスティアンの説明。「このイノシシのサラミには是非ランブルスコ・ロッソ(微発泡の赤ワイン)を合わせてみて。絶品だから!」ほ、本当だ、美味しすぎる。ランブルスコ・ロッソは甘めのものが多いし、イノシシに合わせるなんて発想はこれまで持ったことがなかったが、いやいやどうして美味しいではないか。「偶然の産物だよ、この発見は。たまたま一緒に味わってみたらさ、結構いけるんだよね。」と涼しい顔のクリスティアン

と、そこにクリスティアンから更なる突込みが入る。「あ、ワインを変えるときはグラスを水で一度すすいでくれよ。味が混ざっちゃうからね。」「・・・。」ちょっとアンタ、本当にクリスティアンですか?ふと気づけばテーブルにはテラコッタ製の水差しと、水を捨てるためのボウルが置かれている。なるほど、わざわざシンクでグラスを洗うのではなく、スマートに全て食卓でやれということですね。はいはい。

続いてセコンド・ピアット(第2の皿)が始まる。「今日はせっかく皆で集まったからさ、奮発してビステッカ(ステーキ)にしたよ。」といって冷蔵庫から出してきたのは1枚200gはあろうかというビーフステーキ肉・・・イタリアのステーキというのはえてして固い。肉の質が和牛とは違うのである。1枚食べるのに苦労することが容易に予想されるため、わたくしは外で決してステーキを食べなかった。しかし今。この温かい友人たちの前で、ステーキを拒否することはできない。「あ、有難う。」が精一杯であった。

「ステーキにはこれ。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノね。うちの店でも使ってる、最上級品だよ。」といってボトルにキスをするクリスティアン。「あ、グラス、すすいでくれよ。」はいはい。それがどれほど美味しいワインだったかは・・・表現できるものではない。「これを飲めただけでもイタリアに帰ってきた意味があるよ〜」とわたくしが恍惚の表情でいると、「まあね。イタリアのワインは世界一だからね。何とどう合わせて飲むか、つまり食とのマリアージュでその良さは如何様にも引き出せるんだ。」とクリスティアン

するとウンベルトがこう言い出す。「しかし大事なのは、ブルネッロは毎日飲むワインではないということだ。確かに美味しい。しかしブルネッロやバローロ、サグランティーノを毎日飲みたいと思うか?思わないね。本物の味を知ることは大切だが、これらは大切な日、特別な日に味わうべきものであって、常飲すべきものではない。こんなワインを毎日飲んでいたら体が疲れてしまう。極上だが、体が喜ぶほっとする味ではないんだ。酸化防止剤や防腐剤だって入ってるしね。だから僕はデイリー用としては、地元の農家が作るフレッシュで添加物ゼロの体に優しいワインを飲むんだよ。」最もである。更にクリスティアンも賛同する。「そもそもワインを飲んで酔っ払うってさ、別にアルコールに酔ってるわけじゃないんだよ。酸化防止剤に悪酔いするわけ。だから農家が作るフレッシュな奴はさ、幾ら飲んでも酔わないし次の日に残らないんだ。」

結局この日のランチは4時には終了した。イタリアでは珍しい。人が集まっているのに2時間で終わるなんて。というのもクリスティアンは夕方6時には仕事に戻らねばならなかったからだ。休みだっていうからてっきり丸々一日休みなのかと思っていた。そんなたった数時間の休憩時間、本当ならゆっくり体を休めたかっただろうにわたくしたちの為に時間を割いてくれた彼に大感謝だ。

しかしあんなにワインを飲んでよく仕事に戻れるものである。やっぱりイタリアである。