イタリアジンのネクタイ

barmariko2006-05-12

LE CRAVATTE ITALIANE
今年の冬ペルージャに帰省したときのこと。妹の旦那様からお土産にネクタイを頼まれた。いつの時代も男性のネクタイ選びほど女性にとって難しいものはない。しかも本人がいない、外国の地・・・うーん、どうしたものか。イタリアへ一歩足を踏み入れると、ショッピングにはいつも危険が付きまとうことを皆様ご存知か。(いや、一般論ではなく、わたくしだけの事情かもしれないが)つまり。ニッポンへ帰国したら到底使うことができないようなド派手なもの、奇抜なものをついついチョイスしてしまう傾向にあるのだ。

それは全てイタリアジンのせいである。入国と同時に目に付くのは、ピンクのシャツを着こなすオヤジども、茶色の(勿論トゥーはスクエアカット)のビジネスシューズ、ピチピチなワンダフルレディを気取るオバチャンたち、胸が半分くらい見えてるんじゃないかと不安になる過激Vカットのワンピース、30代を過ぎても迷わずヘソ出し(いや、腹出しといったほうが的確か)ルック・・・赤いジーパンを普通の一般人がはきこなす国、イタリア。そんな国に滞在すると、ついついニッポンでの美的センス&常識を大きく失いながら買い物をしてしまうのである。

つまりわたくしが心配していたのは、かたぎのサラリーマンである妹の旦那様にぴったりなネクタイというものを、果たしてここイタリアでたったひとりで購入できるかということである。いやそんな大袈裟なと思われるだろうが、なんのなんの真剣そのものである。しかも、妹の旦那様は大胆にも「イタリアっぽいデザインのものがいいなぁ。日本じゃあまり見かけないようなやつ」とおっしゃるではないか。

という流れでもって、わたくしは友人アンドレアを連れてペルージャの古いネクタイ屋へと足を運んだ。何故アンドレア?勿論男性もののネクタイを選ぶわけだから、ヘルパーとしては少なくともオトコであればよいのだが、それ以外にもう一つ理由がある。妹の旦那様は頭がきれいに剥げている。極端な話、超ロンゲと剥げの方では、着こなしにも違いが出てくるというかオリジナリティが出てくるだろうという想定の元で、「アンドレアくん、ちょっと付き合ってもらえるかしら。ネクタイ見たいんだけど」と相成ったのである。
そのネクタイ屋の店主は、見た目は超ダンディで、来日すれば間違いなくLEONの表紙を飾れるだろう人物だった。(口を開けばただのナポリ訛丸出しのおっちゃんだったが)「ボンジョルノ。ネクタイを探してるの。妹の旦那にプレゼントしようと思ってね。出来ればイタリアっぽいのがいいんだけど。」「お安い御用さ。これぞイタリアっていうのはさ、やっぱり斜めにラインが入ったあのシンプルなタイプだよ。」「うーん、でもそれはねぇ、ニッポンでも既にお馴染みだから、もっと珍しいのがいいなぁ」

「妹の旦那さんてのはどんな人物なんだい?」「細くてね、背は普通。色は白めかな。営業マンだけど金融じゃないから多少派手なものでも大丈夫だと思う。・・・ここにいるアンドレアね、彼の顔はアジア的って言われてるから、彼に合わせてみたらいいかも。(もう一点の大事な共通点については勿論触れない)」

そこで店主が選んでくれたのが、ツヤツヤと光るオレンジのネクタイ。ベースがオレンジで、ホワイトとブルーのチェックが入っている。「・・・これちょっと派手じゃない?」「派手なもんかい!仕事だろ?第一印象が大事だからな、これくらい明るい色がいいよ。」「マリコ、これはイタリア的に言えば全く派手じゃないよ。爽やかでいい色じゃないか。イタリアジンはオレンジ色が大好きだよ。これいいなぁ、僕も欲しいくらい」とアンドレアも大賛成である。

「うーん、でも彼の顔立ちはねぇ、何と言うか陽性ではないのよ。ちょっと寂しげで日本人にしては色も白いから、ネクタイが浮いちゃうかも」「シニョリーナ、君は分かってないね。寂しげな顔立ちだからこそ、明るいネクタイを持ってこなくちゃいけないんだ。これで黒やブルーのしみったれたネクタイを合わせてごらんよ、仕事もうまくいかないさ。」「でもこんなオレンジのネクタイどうやって合わせるの?難しいんじゃない?」

「難しいことないよ。例えば白いシャツに合わせるとオレンジが目立ちすぎるっていうんならね、ブルーのシャツに合わせてごらん。こんな風にね。ブルーが濃ければ濃いほどぴったりくるんだ。」なるほど、店のダンガリーシャツにお勧めのネクタイを合わせるおっちゃんを見ると、超ハイセンスな仕上がりである。あ。しかしこのネクタイの上にはナポリ人の濃い顔が乗っかっているわけだから当然か。「まさかニッポンジンは白いシャツしか着ちゃいけないってんじゃないだろうね?」とからかい半分でわたくしの顔を覗き込むおっちゃん。

ふう。結局わたくしはこのネクタイに絶対的な自信を持つナポリ人のおっちゃんとアンドレアに説き伏せられ、最後にはこのオレンジを購入することになったのである。さて今回わたくしは2本のネクタイをプレゼントしようと思っていたため、あと1本、今度こそ自分の趣味で(受動的ではなく能動的に)選ぶぞと意気込んだ。

数ある中からわたくしが直感的にセレクトしたのは、こげ茶ベースにパープルのラインが入った、何ともセクシーなタイプ。わたくしのこのチョイスにおっちゃんもアンドレアも「おお、いいね〜。これはエレガントでパーティにも着けられるしね。君、分かってるじゃないか。」うーん、わたくしが「セクシー」と思うこのネクタイが、彼らには「エレガント」に映るのか。これも重要な日伊間における美的感覚に違いない。

さてこの2本を妹の旦那様は受け入れてくださるのか。答え。たいそうお気に召したようで、早速写真を撮って送ってくれた(写真上)。