イタリアンジンはブルスケッタがお好き

AGLI ITALIANI PIACCIONO LE BRUSCHETTE
表題の通り、イタリアジンはブルスケッタが大好きである。ちょっと小腹が空くとパチッとオーブンのスイッチを入れ、パンを切る。オーブンが温まりきらないうちに待ちきれずパンを入れ、カリカリになるまで待つこと数分。うっかり焼きすぎて黒こげになっても焦らずべからず。ナイフで表面のおこげをガリガリこそげ取れば、十分食べられる。焦げても固くなってもパンをすぐに捨てないというのは、この国の特徴である。

さてブルスケッタというと何か具がのっていなければならない、そう思っている方いらっしゃるに違いない。しかし実は、スライスしたパンが焼いてありさえすれば、それはもう立派なブルスケッタなのである。トマトやバジルやモッツァレッラが冷蔵庫になくとも、イタリアのキッチンに必ずある「エクストラバージン・オリーブオイル」これとひとつまみの塩だけで、シンプル・イズ・ベストのブルスケッタが出来上がる。特に秋、摘みたて出来立てのオリーブオイルが出回る頃、このピュアオイルだけをたらしたブルスケッタは唸るほどの美味しさなのだ。


イタリアジンが作るブルスケッタはとにかく大きい。ニッポンのブルスケッタは(わたくしの勝手な思い込みかもしれないが)、リストランテやカフェで出されるものを見る限りではフランスパンを使うことが多いようで、長細いあの形状では小さく薄くなるのが当たり前。そしてフランスパンというのはその名の通りフランスのものであり、イタリアではこの手のパンを使ってブルスケッタを作ることは考えられない。まん丸でもっとゴワゴワした、きめの粗い田舎パン(例えばパーネ・プリエーゼやパーネ・ナポレターノなど)、表面は固く小麦粉がうっすら残るあの固まりを分厚く切って、まるで草履のような大きさのブルスケッタにするのだ。

イタリアでレストランへ食べに行くと、必ずメニューの「前菜」の欄にブルスケッタは位置している。そして前菜であるにも関らず、パンを食べなれていないニッポンジンにとっては、「ゲ、でかい!」とこの後待っているパスタを間食できるかどうか、さらにデザートまで行き着くことができるかどうか、先行き不安な大きさで登場する。

ところでこのブルスケッタ、前菜としてメインの前に食べなければならないのかといえば、そんなことはない。例えばアンドレアの同居人ジェラルドは、ほぼ毎日夕飯にブルスケッタを用意する。パスタを食べている間にオーブンでパンを温め、最後はこのパンに生ハムやモルタデッラ、サラミなどをのせブルスケッタにする。夕飯はブルスケッタで締めるというわけだ。

ちょっと話がそれるが、この生ハムやサラミ類を食べるとき、ニッポンジンとイタリアジンでは大きく異なる点がある。それはパンを必要とするかどうかということ。わたくしを含めニッポンジンの場合、生ハムやサラミだけで味わうのがごく一般的である。(だって高価だし、なかなか食べられないし、やっぱりそれだけで味わいたい)しかしイタリアジンの場合、生ハムサラミ類を食べるとき、そこにパンがないなんて有り得ないのである。

いつだったかガリバルディ通りのスーパーで、わたくしが「生ハムが100gと、モルタデッラが100g、それから・・・」と注文していると、友達のジョバンニがやってきた。「チャオ!おっと今日は豪勢だね!生ハムにモルタデッラに・・・すごいな。あとはパンを買えば完璧だね」「いやパンは買わないんだけど・・・」「おいおい、パンなしでハム類を食べるなんて冗談だろう?」うるさい。わたくしは生ハムは生ハムだけで至福の時間を味わいたいのだ。パンでお腹が膨れたら勿体無いではないか。そう思うのはわたくしだけじゃないはず。

スカモルツァとプチトマトのブルスケッタこちら