デルータのテラコッタ工房(やっぱりアンタはイタリアジン)

LA TERRACOTTA A DERUTA
テラコッタとはイタリアでいう「陶器」のこと。「テラ(TERRA)=土」、「コッタ(COTTA)=焼いた」の意味である。ウンブリア州の中でも古都アッシジに程近いデルータという街、ここはイタリアきってのテラコッタ産地として名高い。正直それ以外は何もないくらい小さな街なのだが、ヴィア(通り)というヴィアに建ち並ぶ工房は、どこかニッポンの古い焼き物の街を彷彿とさせる。

これまで幾度となく足を運びたいと思っていたのに、車なしではとても難しい場所にあるため機会がなかった。それが今回、我らがスーパースターのアレッハンドロさんが、車で馴染みの店に連れて行ってくれるというので、尻尾をふって便乗させてもらうことにした。

以前もご紹介したようにアレッハンドロさんは2年間住み慣れたペルージャから、車で30分ほど離れたベットーナという古都に昨年引越しをした。新しく購入した家を、夫妻好みの内装に全て作り変えるため、家具やランプやキッチン雑貨をここデルータのテラコッタで統一したのだ。(アレッハンドロさん夫妻の新居についてはこちら

アレッハンドロさんは、あの天性の人懐っこさでもって、このラボラトリー(工房)とも仲良しになっていた。「みんな良いひとたちばかりでね。新居のテラコッタはここで全部そろえたんだよ。ディスカウントもしてくれるし。マリコも好きなものを選ぶといいよ。僕がいれば割引してくれると思うから。」工房の人たちにしてみれば、ある日突然訪れた白髪ロンゲの正体不明なアレッハンドロさんに、興味津々だったに違いない。しかし顔はニッポン、喋ればスペイン語訛りのイタリア語で、あっという間に仲良しになってしまったのだろう。わたくしたちが到着するや否や、奥からオーナーが出てきて「オー、アレッハンドロー!元気にしてたかい?こちらは娘さん?」と言い出す。(そりゃそうだ、顔は同じ東洋人なのだから)

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オーナー自らわたくし達を工房中案内してくれた。「写真はダメだよ。中国人なんかの手に渡った日には、最悪なんだ。うちのこの伝統的絵柄が、全部盗作されちまうんだから。・・・いや冗談だよ!君はニッポンジンだからね、そんな心配はご無用さ。どんどん写真とって宣伝してくれよ!いやぁ、それにしてもタチが悪いんだよ、マーデ・イン・チーナは。」は?マーデ・イン・チーナ?ああ、メイド・イン・チャイナのことか。(おっちゃん、それくらい英語読みしてくれ)

工房で作業している絵付け職人の方々にもお会いした(写真上左)。イタリアジンはお喋りでいい加減と世間では(わたくしが?)言われているが、職人は違う。一心不乱に手を動かす寡黙なオトコたち・・・と、作業机の周りをついつい観察してしまう。何かイタリアらしいものはないかしら?あった。家族や孫や犬のスナップ写真が何枚も壁に貼られている。この壁の家族を見ながら、一日中作業をするのであろう。あ、そして余計なものもあった。家族写真の横に貼られている、ヌード写真。おい!


オーナーが(写真上のトレーを持って微笑むおっちゃん)古代より伝わる葡萄酒入れの壷(写真上の左。ランプの隣)の前で立ち止まり説明をしてくれた。「出来上がったワインをこうやってこの壷の中に入れておくと、熟成がすすんでよりおいしくなるんだ。貯蔵かつ熟成用だね。」ふむ、ニッポンの焼酎でも同じことが言えそうだ。一昨年から某ネットモールでも、焼酎を熟成させる甕がヒットしていたらしい。飲む一日前に甕に移し変えるだけでおいしさが増すとか何とか。原理は同じなのであろう。

ふとアレッハンドロさんがオーナーに質問をする。「このワイン壷の口のところなんだけど。大きなコルクで蓋をしているよね。僕が以前ここで買ったオリーブオイル入れも同じ作りなんだけど、あの口の部分がオイルで変色してしまうことってあるの?何だか微妙に色がくすんできたような気がしないでもないんだ。いや、気のせいかもしれないけど。」するとオーナーのおっちゃんは、「オリーブオイルは何を使っているんだい?ウンブリア産?それともまさかプーリアとかリグーリアとか?」(おっちゃん、それ何の関係があるんだ・・・ああ、もうわたくしには結論が見えてますわよ。ウンブリア産が一番って言いたいんでしょ。変色したのならそれはウンブリア産を使っていないせいだとでもおっしゃりたいんでしょ)

そこからゆうに30分は続く、おっちゃんのオリーブオイル談義。「俺達がウンブリア出身だから身びいきしてるってもあるんだけどさ、やっぱりオリーブオイルはウンブリアが断トツ旨いよ。プーリア産だってそりゃ悪くはないさ。ただ重いな。あれは使いすぎると胃にくるな。リグーリアトスカーナも同じ。まあだからといってテラコッタが変色するとは言わんが・・・」

最初の質問から遠く離れたところで話は続く。ああ、これがイタリアなのだ。工房のおっちゃんが、職人が、バールのバリスタが、つまり専門家じゃないひとがオリーブオイルについて語る。この率が異様に高い。オリーブオイルだけではない、それはワインでもバルサミコでもパスタでもいい。とにかく食に対するコダワリが明らかに高く、一般人が一人前に薀蓄を垂れてしまうのが、イタリアの風景。各自が地元産を愛してやまないため、決して他の産地のものを認めない。結果、終止符が打たれることのない談義。

オーナーが席をはずした隙にアレッハンドロさんがわたくしに目配せをする。「アンドレア(プーリア出身でもちろんオリーブオイルはプーリア産しか認めない)がここにいなくて助かったよ。30分の談義が1時間になるところだったな、危ない危ない。」