牛肉のカルパッチョ 南イタリア風

barmariko2006-02-11

IL CARPACCIO DI MANZO
カルパッチョ”の名を聞いたことのないひとはいないだろう。実はこれ、正真正銘のイタリアンである。今から半世紀以上も前の1950年、ヴェネツィアのハリーズバー経営者ジュセッペ・チプリアーニが、とある女性客のために考案した逸品だ(意外とどころか、完全に戦後の近代料理である)。

チプリアーニは大変な絵画愛好家だったようだ。16世紀ルネッサンス時代におけるヴェネツィア派絵画の巨匠”ヴィットーレ・カルパッチョ”の1枚の絵を鑑賞しているとき、その色使いと自分の考案した牛肉料理が非常に似ているとインスピレーションを受け、「カルパッチョ」と命名したそうである。ちなみにこれまた有名なカクテル「ベリーニ」も同じくチプリーアニが編み出したもので、やはり”ジョバンニ・ベリーニ”という画家の名前からとったものだとか。

カルパッチョの味の決め手はソース(イタリア語ではSALSA=サルサ)であるが、チプリアーニのオリジナルレシピを紐解くと「マヨネーズ、生クリーム、ウスターソースマスタード、トマトソースをあわせたもの」となっている。そう、イタリア料理といいながらも、大変アメリカンな材料である。
そもそも店に英語の名前を付け、カクテルを広め、マヨネーズやマスタードを使う・・・常に画期的な試みを成功させるチプリアーノ氏は、当時とても新進的な人間だったはずだ。とてもじゃないがあの保守的なイタリアジンと同人類だとは思えない。

そんなわけで、意外と新しい料理「牛肉のカルパッチョ」だが、チプリアーニ氏のオリジナルレシピを尊重しながらも、イタリア全土で次々に新しい食べ方が登場した。「オリーブオイル+削ったパルミジャーノチーズ」「ハーブで味付けしたマヨネーズ」「ガーリックマヨネーズ」・・・今回はこの中でも特にシンプルな「オリーブオイル+レモン」バージョンをご紹介したい。これ以上はない、シンプルさである。

牛肉のカルパッチョ 南イタリア風(2人分)
材料:カルパッチョ用に薄くスライスした牛肉200g、レモン1個、オリーブオイル、塩、胡椒、ルッコラ、プチトマト

  1. トレイに牛肉を並べ、レモン1個分の果汁とオリーブオイル適量、塩、胡椒でマリネする。
  2. 冷蔵庫で半日寝かせる。
  3. 食べる直前にルッコラとプチトマトは適当な大きさに切り、塩とオリーブオイルで和える。
  4. お皿にマリネした牛肉を盛り合わせ、3をのせて出来上がり!

これはイタリア南部出身のアンドレアに教えてもらったレシピである。「ニッポンでカルパッチョっていうと、どうもあのマヨネーズ系のソースを思い出しちゃうんだよね」とわたくしが言うと「そうなの?でも僕ら南部の人間にとって、少なくとも僕の実家では、カルパッチョといえばこれだよ。他は全く考えられない。そもそも僕は、完全に生の肉はやっぱり食べられないんだ。これだとしっかりマリネされるだろう?」

その日の気分で、アンドレアは牛肉をマリネするとき、刻んだルッコラも一緒に漬け込んだりする。ちなみに彼はカルパッチョを作るとき、写真のようにプチトマトを使ったことがなかった。いつも牛肉+ルッコラのみのシンプルさにこだわっていた。それがこの日は「色がきれいだから。ルッコラとトマトなら絶対合うし!美味しいからやってみようよ」というわたくしたっての強い希望で、初めて(いや無理矢理)試みたのである。

わたくしは好きである。何よりフレッシュだし、「野菜を摂らなきゃ」と栄養のバランスや彩をついつい考えてしまうニッポンジンとしては、そう思うのが普通である。しかしアンドレアは「うーん・・・僕的にはカルパッチョにこのプチトマトは必ずしも必要じゃないね」と控えめながらもあまり賛成ではない心境を明らかにしていた。しつこいようだが、わたくし的にはOKである。

おっと、この日の夕食に合わせたワインを書き忘れていた。牛肉料理といってもレモンとオリーブオイルだけでマリネした非常に淡白な一品であるから、あまりヘヴィーなワインは邪魔になるだけ。ということでアンドレアが選んできたのは、サルデーニャ島のカンノナウ。きれいなルビー色、ベリーのような果実味とちょっぴりスパイシーな芳香が、複雑な余韻をもたらす”安くて美味しいワイン”の代表格である。