イタリア人女性の基礎美学

イタリア人女性の化粧には度肝を抜かれる。昔は「イタリア人だから・・・気質に合っててラテンなメイクでありなんじゃない?」と非常に寛大なわたくしであったが、最近は公害扱いである。ブラウン管に映し出される女性キャスターたちの酷いメイクと衣装。(しかもあれは洋服ではない、ランジェリーである。)アンドレアやジュセッペとTVを見ていても「あいつら家に鏡ねーんだよ」と罵倒が飛びかう。

ニッポンでは「隠すメイク」が基本であるが、イタリアでは「色をのせるメイク」が基本であり、この差は大きい。ニッポンジンの「臭いものにはふたをする」哲学に基づくメイクは実は非常に時間がかかる、繊細なものである。例えばファンデーションを塗る前の下地の段階に時間を費やしたりする。イタリア人の場合は、それこそ下地などしない女性も多く、とにかく色をのせろ、のせろ、の一点張りである。

イタリア人メイクが特に際立つのが目元であろう。あれ、まぶたが赤いですよ、と注意したくなるくらい極端で、しかも分かりやすいほどに洋服の色と合わせたりするから、「あなた今日全身オレンジですけど」となる。元から目鼻立ちがはっきりしているイタリア人なのだから、そこへ下手に色をのせると非常に下品な売春婦メイクになってしまうのだ。

面白いのが「アイライン」である。ニッポンジンは「瞳を西洋人のように大きく見せる」ためにアイラインを引く。イタリア人は「瞳を切れ長に東洋人のように見せる」ためにアイラインを引くのである。お互い無いものネダリというやつである。そもそもイタリアでは東洋人の瞳を「アーモンドのような瞳」と呼ぶ。つまり切れ長と言いたいわけだが、わたくしたちからすればアーモンドが切れ長の象徴になっていることからして不思議である。何故ニッポンジンや中国人の女の子を見るたびに「君の瞳はアーモンドだね」と言われるのか正直よく分からない。

話を元に戻すが、イタリア人のアイラインの引き方は凄まじい。上にも下にも太くくっきり引くために、瞳全体が黒い線で覆われる。アンドレアなどはそういう女の子を目にするたびに「魔女・・・」と揶揄しているが、わたくしは100%賛成である。勿論アンドレアに、である。しかしどうもこのイケテないメイクは、ウンブリア州ペルージャが田舎であるためでもあるらしい。更に個人的見解としては、このイタリア人魔女メイクの基盤は「熟女に見せたい」願望であると思われる。そもそもニッポンジンがロリコン主義であるのに対し、イタリア人が完璧な熟女主義であることに根づくものである。イタリア人女性は「オンナ」であることを100%主張するメイクや衣装つまり外見を好む傾向にあるが、「オンナ」の定義がそもそも東洋人のそれと異なるのだからこれは非常に根深い国民性の違いであろう。「オンナであることをどう見せるか」これがイタリアの場合は、腹を出す、胸元のあいた服を着る、夏はノーブラにタンクトップ、熟女メイク、香水・・・となり、これは40歳になっても50歳になっても変わらない、人が多い。

それにしてもイタリア人女性の夜の変身ぶりは相当なものである。同居人のロセッラ、昼間はスッピンなのに夜20時くらいになると化粧を始める。その変身は何というか、同じ人間とは思えない。遊びにきていたアンドレアが言葉を失っていたのを覚えている。ロセッラが化粧を終えて出かけた後「やりすぎだよ」とぼそっと言っていた。わたくしもそう思う。皆さん目鼻立ちがくっきりしていてそれだけで十分可愛いのに非常に勿体無いのである。

更にペルージャが田舎であることを物語るのは、この完璧なお化けメイクにこれまた極端な衣装を合わせてしまったりする点である。例えば白いブーツにプリーツスカート(これは完全にセーラームーンの世界である)といったプリプリな格好をこのアイメイクに合わせてしまうのだから、その凄まじさはご想像頂けるであろう。これがスウェーデン等北欧の女の子たちになると非常に洗練される、気がする。アイメイクは同様にばっちり施したとしても下はジーパンTシャツでノーアクセサリーだったりするのである。イタリア人の場合は目元に100%の力を注ぐだけでなく、洋服にもかばんにもブーツにも気合を入れすぎてしまう為に全体のバランスが完全に崩れてしまうのだ。

イタリア人はよく「東洋人は何でそんなに若く見えるの?秘訣を教えて」などとおっしゃる。勿論それは体系の差であることが大きい。凹凸の少ない東洋人は欧米人から見れば完璧に幼児体系であるし、年をとっても太らない贅肉の付き方が遥かに少ないことにも起因する。がしかし、明らかに若く見せることが可能な方法を彼女たちは自ら放棄しているではないか。「どうすれば、ってあんたそのメイクやめたらいいのよ」である。

いかに素肌に近づけるかを徹底的に追求するニッポンジンのスーパーナチュナルメイクとイタリアのお化けメイク。今度ニッポンに帰るとき周囲から変な目で見られないように絶対にイタリアンメイクに染まってはならない、見るだけなら構わないが自分の手で施すようになってはお終いと強く言い聞かせる毎日である。