ついに。

barmariko2005-03-16


朗報である。ついにバール・アルベルトのカフェ・マシーン、プレスが完全にいかれていたあのポンコツマシーンが新しくなったのである。来る日も来る日も客から馬鹿にされ、イタリアで一番カフェが不味いと言われながらもあの重い腰をなかなか上げなかったアルベルトが、ついに世紀の大決心をしたのである。ちなみにあのポンコツくんは(いや、イタリア語だとカフェ・マシーンは女性名詞だからポンコツさんか)現在修復中で、数日後店内に過去の栄光を称えて飾られるらしい。(写真右>教会工事のジョルジョ 中央>アルベルト 左>教会工事のドメニコ。アルベルトの愛車ドゥカーティを囲んで)

それにしても驚いたのは常連客のほうである。何だ何だ、何が起こったんだ、トトカルチョでも勝ったんじゃないか、一体どういう心境の変化だ・・・そう思うのも無理はない。「特に何が起こったってわけじゃないんだけど、やっぱり客からクレームが絶えなくてね。もう寿命だったんだよ、あのマシーンは。何度修理に頼んでももう動かなかったし」とアルベルトは言う。アルベルト以上に喜んでいるのは朝のバリスタ、イタリア人のマウリッツィオである。「いやあ、朝からあのくそ不味いカフェをいれてたあのブルーな時代が嘘のようだよ。これで朝一美味しいカプチーノで一日を始められるよ。本当に酷かったんだから!知ってる?一度ね、カフェ入れてる途中に突然抽出口から水が溢れ出してさ、止まんなかったんだよ。カフェ入れるどころか大洪水でさ。客の目の前で恥ずかしいったらないんだよ。」

今年に入ってからわたくしはもうバール・アルベルトでは働いていないのだが、この新しいカフェ・マシーンでカプチーノを入れてみたかった、何でもう2,3ヶ月前に入れ替えてくれなかったのかと悔しくてならない。昨日ガリバルディ通りを歩いていると向こうからやってきたのはあの教会工事のおじさんドメニコ。「おう、どこ行くんだ?バール・アルベルトに寄りなよ、カフェおごるから。今なら皆に笑顔で言えるよ。カフェおごるって。昔は恥ずかしかったからなあ、あの泥水みたいなカフェじゃなあ、ハッハッハ!」

喜んでカフェをご馳走してもらいにドメニコとバールへ寄った。とそこで待ち構えてたのはアルベルトのご自慢バイク、イタリアのドゥカーティ。真黄色な車体が太陽に眩しく店先で光っている。アルベルトは店内に客がいないのをいいことにこのドゥカーティと一緒に外で日向ぼっこをしていた。そこへ犬を連れてやってきたのが常連客ギリシャ人の女の子。しかしなんとこの彼女の犬がアルベルトの宝物のひとつドゥカーティのタイヤにオシッコを引っ掛けようとしたのである。手を振りかざして慌てて追い払うアルベルト。「コラ!コラ!あっちいけ!タイヤに酸性のものは良くないんだよ!一体いくらすると思ってるんだ、このタイヤ。ドゥカーティの部品は驚異の高さなんだぞ。」と真顔で犬に向かって叫びだした。「カフェ・マシーンは買えるけどドゥカーティの部品は本当に手に入れるのも大変なんだから!」全くそれなら何でもっと早くカフェ・マシーン入れ替えなかったんだ。
「しかしね、カフェ・マシーン入れ替えたくらいじゃ客足は増えないねえ。最近本当に暇で暇で、マリコも働かせたいけど何しろ仕事がないもんだから。」と素晴らしい天気とは裏腹に暗い面持ちのアルベルトだった。「去年の夏サンタンジェロ公園に夏季限定の野外バールをパトリックと共同出店しただろう?あれ、今年は買い取りたがっているやつらが沢山いてね。注目物件になってるんだよ。まずダウンタウン(わたくしが2年近く働いていたところ)だろ、それからペルージャ郊外のディスコテカのオーナーだろ・・・皆僕のところに共同経営しないかって話持ちかけるんだよね。分かるかい?皆僕がリッチマンだと思っているからさ、金の話ばっかりだよ、僕のところに来るのは。」そりゃあピカピカのホンダにドゥカーティ、アルファ・ロメオのクラシックカー、カヌーを積むためのワゴン車・・・こんなに懐の寂しいバール経営でこれだけのお宝を見せ付けられれば誰だってそう思うはずである。

「まあでもサンタンジェロ公園はさ、チェントロからちょっと離れすぎてるし、公園内もまだまだ整備されてないし足元は危ないし、昨年だってパトリックと試して全然だめだったじゃないの。止めたほうがいいと思うけどなあ。」「いやマリコ、今年の状況はちょっと違うんだ。何しろ禁煙法の法律施行で店内は絶対禁煙だろう?野外パブやバールの必要性が昨年よりも断然高いんだよ。それに今年は園内も整備されるし、今このガリバルディ通りからの近道も工事されてるから。問題はパトリックだよ、皆あいつを追い出したがってるんだ。あいつさえいなければ上手くいくって皆言ってるよ」「追い出せばいいじゃない、あんなやつ。」「いやそれがそう簡単な話じゃないんだ。あいつは黒人だろう?僕たちが意図的にあいつを外すとあいつは絶対人種差別ネタを持ち出して訴えるんだよ。」そんな弱弱しいことでどうするんだ、アルベルト。「難しいことないよ!あいつは昨年仕事をしなかった、だから追い出すで完璧じゃないの、そこに人種差別がなんで入ってくるわけ?」「いやあ、そういうもんなんだよ・・・」

個人的にはアルベルトがパトリックとであれ、ダウンタウンとであれ、ディスコテカのオーナーとであれ、サンタンジェロ公園野外パブ企画に足を踏み入れるのに大反対である。そんなお金があるなら自分のバール・アルベルトを改装したほうがいいに決まっている。バールにキッチンを作りたいなあといつか言っていたではないか。サンタンジェロ・プロジェクトのお金で十分できるはずである。カフェ・マシーンをついに買い換えた今、バール・アルベルトはまさに転換期を迎えられるはずなのに、ここでサンタンジェロ・プロジェクトにお金を捨ててはならない。みんな、アルベルトがお人よしで金持ちのボンボンで、更に仕事の出来ない人間だと分かっている。みんな、アルベルトを利用したいだけなのである。バール・アルベルト・プロジェクト、わたくしに資金があれば絶対やりたいことである。