ZERBINO ゼルビーノ

ゼルビーノ」は正真正銘イタリア語である。どういう意味なのか説明する前に、ニッポンでこの言葉は果たして使われているのか検証してみたい。ゼルビーノをキーワード検索するといくつか該当結果が出てくる。

  1. リストランテゼルビー

どうやら京都市東山区には「ゼルビーノ」というイタリアンレストラン・カフェがあるらしい。オープンテラスもあってなかなか居心地の良さそうなお店である。

  1. アイテック株式会社(服飾メーカー)がゼルビーノの新型発売

大胆なデザインが特徴の「ゼルビーノ」は、遊び心をもったセクシーなミドルエイジに向けて新しいアイウエアを提案している、とある。どうやら「ゼルビーノ」とはスタイリッシュさを表現する言葉であることは間違いない。

  1. ヘアドライヤー・ゼルビー

何やらお洒落な匂いのするヘアドライヤーがその昔発売されたそうである。わたくしが想像するヘアドライヤーなど「温風くん」とか「マイナスイオンくん」もしくは単に「HD-S1284」と型番だけのシンプルなものである。説明を読むと「ゼルビーノ=伊達男(伊語)」と書いてある。ふんふん、そうなのか。伊達男になるために必須のヘアドライヤーであるわけか。

・・・であるわけないだろう。「ゼルビーノ」とはイタリア語で「玄関マット」である。イタリアの家は他の欧米諸国と同様当然玄関で靴を脱ぐ習慣はない。そのため靴の泥を落とすための玄関マットが必ず家のドアの外に敷かれている。(ペルージャの貧乏学生の家はこのとおりではないが)しかしここで注目したいのは「ゼルビーノ」の持つ隠された意味である。玄関マットが正規の意味であるのに対し、俗語としての意味合いが「アッシーくん」なのである。

「アッシー」というのは適切ではないかもしれない。そもそも「ゼルビーノ」は玄関マットの意、玄関マットとは常に踏まれる存在な訳である。従って常に女性の言いなりで、頼まれたら決してノーと言えない情けない男の代名詞として使われるのが常なのである。日本語だと昔流行った「アッシー」「メッシー」がこれに相当するのであろうが、アッシーは車で女性を送り迎えする男のこと、メッシーは飯炊き男のことというように細分化された意味を持つのに対し、「ゼルビーノ」とはこれら全てを含む「スーパー情けない男」なのである。

「伊達男」という意訳は一体どこからきたのだろう。確かに伊達男とは常に女性を追いかける意味合いを含むがどちらかといえば光源氏に代表される男性像であり、もっと粋なイメージになる。少なくとも否定的な意味合いはない。ゼルビーノがもつ本来の「駄目男」の意とは180度異なる。イタリアで「お前セルビーノだよな」と言われたら、それが非常に親しい友人間であれば冗談として成り立ち笑いをも誘うが、全く知らない人から言われたらそれは立派な中傷である。まあ自然とイタリアでは相手をからかうのに使用されることが多いのだが。

話を元に戻すと、「駄目男」という名のヘアドライヤー、「駄目男」という名のカフェレストラン、「駄目男」という名の紳士服メーカーというのはわたくしには面白すぎる。そのうち車メーカーから新車「ゼルビーノ」が発売される日も近い気がする。どうか誰もゼルビーノの持つ本来の意味に気づきませんように。