役に立たないタバコの自販機

barmariko2005-11-20


イタリアのタバコ屋(TABACCHI)には、店前にタバコ自販機があるところとそうでないところがある。自販機を持たない店は、営業時間内しかタバコを販売することはできない。ガリバルディ通りのタバコ屋シモーネのところなどがそうである。一方、自販機を持つタバコ屋では、店を閉めたあとも当然タバコを販売することができる。しかし、ややこしいのがその自販機の稼動時間だ。ペルージャのような田舎だと24時間フル稼働する自販機は非常に少ないのだ。例えば平日の夜21時から明け方までのみだったり、休日は1秒だって稼動しなかったり。

そしてさらに、喫煙者をいつも悩ませる(怒らせる)のが、その自販機の誤作動ぶりである。「FUORI SERVIZIO(故障中)」という張り紙が貼ってある場合はまだ良心的である。困るのは、いかにも稼動してますというような顔をしていながら、実は全く機能していないヤツだ。例えばコインを入れる。普通ならガチャンという音がして「ああ、コインがちゃんと入って下へ落ちたな」というのが分かり、同時に投入金額が表示される。しかし、このガチャンという音が聞こえず、ウンともスンとも言わない場合が往々にしてある。「あれ?コインちゃんと入ったのかな?」と不安に思うユーザーは、さらにもう1コイン入れてみる。無反応。さらにもう1コイン。またまた無反応。

最終的に数ユーロも入れたのに、全く稼動してくれない自販機というのが、イタリアには結構存在する。我がダウンタウンペルージャ外国人大学すぐ脇のパブ)の目と鼻の先にも1件タバコ屋があるのだが、ここの自販機がまたすごい。パブの近くであり、またチェントロ(中心地)へ向かう通過点であり、さらに比較的大きな車道もあり、大学の目の前でもあり、ということで、週末の夜中ともなればタバコを買いにやってくる人が後を絶たない。

ある日ダウンタウンでの仕事を終えて(つまり明け方である)わたくしは、家路へと急いでいた。ふと自販機のところを見るとこんな時間に人だかり。と思ったら知り合いだった。というかさっきまでダウンタウンで飲んでいた客たちだ。「何してんの?」とわたくし。「こいつ、ちっとも動かないんだよ!」と自販機を叩いたり、蹴っ飛ばしたりする彼ら。
「小銭なら持ってるから両替してあげるよ?」「違うんだよ、マリコ。俺たちはマルボロを2箱買うためにぴったり7ユーロ入れてるんだよ!それなのにそのコイン、このマシーンのどっか途中で引っかかってんだ!チャリンて中へ落ちていく音がしないんだから!ああ、全然動かねえ!」そうわめき散らす彼らの中に、コジモという1人の歯医者さん(47歳)がいた。彼はおもむろにライターを取り出しカチッと火をつけると、「こんな自販機こうしてくれる!」と火をかざすではないか。「駄目駄目駄目っ!何やってんの!明日の新聞の一面飾っちゃうよ!?」とわたくしとコジモの友人たちが止めにはいる。

ちなみにこの入れちまったけど戻ってこないコイン、翌日タバコ屋がオープンすると同時に店のオーナーに交渉すると戻ってきたりする。「○○を買うのに○○ユーロいれたのに、戻ってこなかった」するとオーナーはこう聞いてくる。「コインはちゃんと下まで落ちた?ガチャンて音聞こえた?それとも途中で止まってしまったのかな?」問題はここから。「下まで落ちました」と答えると「じゃ、しょうがないね」といって全額返してくれる。しかし「多分下まで落ちてない。音しなかったし。」とバカ正直に答えると「じゃ、駄目だな。仕方ない、あきらめて。」と言われる。なぜだかさっぱり分からない。ペルージャ7不思議の1つだが、これで成り立っている。

全くどうしてこうイタリアには、壊れてるものが多いんだろう。わたくしが思うにTOP3に入るのがタバコ自販機。それから駅の自動券売機。そしてもう1つ忘れてはならないのが公衆電話。使えないのが本当に多い。そういえばわたくしの友人が「3と7の位置が反対だったよ!」と恐ろしい証言をしていた。「実家にかけようと何度も試みたんだけどさぁ、全然かかんないんだよ。よく見たら番号の位置が違ってるんだ。ほら実家の番号って手がもう覚えてるから、実際番号見ずに感覚でかけちゃうじゃん?まさか3と7が入れ替わってるとは思わないし。」想定の範囲外。これがイタリアである。いや、想定の範囲外であるようなことが平気で起こる、それが当たり前になっているのだから、もはや想定内か。

ところで、大学の目の前にある例のタバコ屋、今から1年前に何と強盗にあってしまった。朝6時、店を開けようとオーナーがシャッターに手を伸ばしたその瞬間。ほんの数秒横に置いた黒い大きなカバンが、後ろからやってきたバイクの男に持ち逃げされたのである。この黒いカバン、実はその日のレジ金が入っていた。ほんの一瞬カバンから手を離したその隙に、あっという間に持っていかれてしまったのである。「かわいそうになぁ」とみんなは温厚なタバコ屋のオヤジをねぎらっていた。

しかし。もしかしたら自販機でタバコを買おうとしてお金だけもっていかれてしまった、不幸なヤツが怒りくるっての犯行だったのかもしれない。いつかのコジモのように。それくらい、ここの自販機は動かないのだ。