BAILEY'S(ベイリーズ)

barmariko2005-10-15


3年前ペルージャへ到着した頃、ベイリーズが何のことだか全く知らなかった。多分、野球チームの名前だと言われてもそう信じたであろう。これを知ったのは・・・いつものオチで申し訳ないが、近所のパブ「ダウンタウン」で働き出してから。(イタリアでは17時以降にしか学べないのか・・・)ベイリーズとはつまり、アイルランド産リキュールの名前で、ヨーロッパ全土で非常にポピュラーなものだ。最近なんとニッポンでもCMに登場したというから、その名前をご存知の方もいらっしゃるだろう。

イタリア到着3ヵ月後に、ベイリーズという名前などわたくしが知る由もない。しかも、「ベイリーズ」「クレマ・ディ・ウィスキー(=ウイスキー・クリーム)」などと、客によって言い方が違うのである。「何のこっちゃ」訝しげなわたくしを見た、オーナーのステファノは「飲んでごらんよ、美味しいから」そう言って味見をさせてくれた。

見ればどろっと濃厚な白茶色のリキュールである。香りは・・・甘く艶っぽい、カカオが混じったようなクリームの香り。実はこれ、成分の10%はウイスキーなのだ。例えば我がダウンタウンのメニューでは、各種リキュール欄ではなく、ウイスキー欄の一番下に名前を連ねている。とはいえ、ウイスキーの味は殆ど感じないから、「ウィスキーはちょっと...」と敬遠がちな女性だって、問題なく楽しめる。その他の成分は、クリーム、バター、ミルク、カカオ、フレーバー・・・そう、ベイリーズとは限りなく甘い大人のリキュールなのである。

イタリア人はこのベイリーズをどう飲むのか?一番多いのは、ロックである。アルコール度数は17%と低めであるが、何しろ甘ったるいので、ぬるいのを飲むと非常にもったりして味がぼやけてしまう。きりっと冷たいほうが、断然美味しいし、氷で少し薄まるくらいが丁度よい。量的には普通のウイスキーと同じで、ロックグラスに適量を注ぐだけなのだが、その甘さから言ってもこれはたくさん飲むものではない。チビチビと、グラスを揺らしながら氷が静かに溶けるのを待つ・・・こんなイメージ?というよりも、明らかに高カロリーなリキュールなので、たくさん飲む勇気はない。
そういえばイタリアで見た、ベイリーズのテレビCMは、とあるバーが舞台。超格好いい男が、これまた超セクシーな女に「何飲む?」と聞き、女が「ベイリーズ・・・」とお色気ムンムンで答える。たったこれだけのCMなのだが、まあメーカー側も女性層を狙っているのだろうな、という下心が伺え知れる。

さてお次はショット。多くの酒好きイタリア人はパブで飲んだ後、「ファッチャーモ・ショッティーノ?(=ショットいっとく?)」でシメたがる。このとき頻繁に登場するのがベイリーズのショットである。何でこんな甘ったるいものでしめたがるのか、口の中に甘さが残って気持ち悪くないのかとイタリア人に聞いてみると、こんな答えが返ってくる。「ディナーだってさ、散々食べて飲んだら、最後は甘いドルチェでシメるだろ?それと同じでさ、酒だって最後は甘いものでシメるんだよ」

さて最後の、ちょっと粋な飲み方はパブではなくバール編。淹れたてのエスプレッソにほんのチョッピリたらすのである。そもそもベイリーズにはミルクやカカオの成分やチョコレートフレーバーが入っている(らしい)ので、イタリアのカッフェ(エスプレッソ)に、合わないわけがない。

これを最初に教えてくれたのは、大学前バール・フランコバリスタ、ジュセッペであるが、あのバール・アルベルトですら、ベイリーズをちょっとたらしたカフェを飲む客がたまにいる。風邪を引いたときや、木枯らしが吹く寒い真冬の日、「これ飲んであったまりな」的な飲み方をするのだ。

そもそもエスプレッソにリキュールをたらしたもの全般を「カッフェ・コレット」と呼ぶのだが、お客の大半はグラッパやアマーロを加える。この飲み方は、口の中に苦味が残ってしまうような気がして、実はわたくしはあまり好きではない。しかし。ベイリーズをたらしたカフェの何と美味しいことか。わたくしの「イタリア旨いもの」パーソナルデータに、堂々とランキング入りである。