サラダはいつ食べる?

ニッポンのイタリアンはレヴェルが高い。ちょっと高いのが玉に瑕だが、ニッポン在住イタリア人も味については認めているらしい。しかしどんなにイタリアンがニッポンで流行っても、一般化されても、OLがランチで1000円パスタランチを食べる時代になっても、絶対にイタリア流になりきれない点がひとつだけある。それが「サラダの順番」である。

ニッポンのイタリアンの場合、例えばランチタイムを考えてみよう。多くのイタリアンレストランは、ランチタイムを設けてパスタセットやお肉の皿がついたセットなど、夜は高くなってしまうメニューを気軽な価格で提供する。そのランチタイムだけのメニューに、必ずといっていいほどついてくるのが「サラダ」。そして必ず、ええもうそりゃあ必ずパスタの前もしくはお肉の前、つまりメインのお皿を待っている間に、友達と喋りながらつつくものが「サラダ」なわけである。

もしこれをイタリア人対象にやったら、目が飛び出るくらいに驚き、一論議かますだろう。何故なら彼らにとって「サラダ」というのは、食後に食べるものなのだ。食後というと多少大袈裟かもしれないが(まさかデザートの後というわけでもないので)、つまりパスタや肉料理や魚料理の後、ということだ。そもそもイタリア料理の食べ方というのは①前菜②パスタ③肉か魚④野菜(サラダ、温野菜など)⑤ドルチェ、である。わたくしたちニッポンジンにとって、どうしても違和感があるのはこの「野菜」の順番である。やっぱり肉やパスタと一緒に食べたいではないか。そもそも和食のマナーにおいては「全てを少しずつ円をかくように食べる」が大切であり、一つずつ皿を片付けていくのは行儀が悪いとされて、わたくしたちは育ってきたのであるから。

しかし。郷に入っては郷に従えということで(決して無理矢理というわけではなく、ごく自然に)最終的にわたくしもサラダは最後、という流れに100%慣れてしまった。まずパスタの前に食べるもの、すなわち前菜であるが、これがサラダになることは絶対にない。例えば生ハムやサラミなどのハム類などは、非常にポピュラーである。またイタリアではメロンが非常に安いので、ニッポンだと高くてなかなか手が出ない「生ハムとメロン」という崇高な組み合わせも、とても家庭的な前菜となる。それからブルスケッタ、チーズ、オリーブ・・・なんでもござれなのだが、残念ながらサラダはそこに含まれない。

さてイタリア人が食べるサラダ、わたくしは非常に納得がいかない。リストランテで食べる高級サラダはともかく、一般家庭で彼らが言う「サラダ」とは、非常に質素なただの「菜っ葉盛り合わせ」であることが多い。いわゆる「レタスやサラダ菜やサニーレタス等の葉っぱ系」のみである。初めてそれを目にしたとき、むしろそれはそれでインパクトが強かったが、「ちょっとウサギの餌さじゃないんだからさ」と突っ込みたくなるような、まさにシンプルとしかいいようのない一皿なのである。

ローマに住む家族に招待されたときも、そう言えば3ヶ月前にシモーネの家で大宴会があったときも、最後に出てきたサラダは「材料:サラダ菜、オリーブオイル、塩」としかいいようのない、どう頑張ってもレシピをこれ以上膨らませることのできないものだった。前菜もパスタも全部美味しいのに、何故か最後のサラダはこうなのである。まあそれまでにたくさん食べているわけで、最後のサラダはもうこれくらいでいいんじゃない?と思う方がいらっしゃるかもしれないが、そうではない。たとえご飯が「肉を塩・胡椒で焼いたものとパン」だけであったとしても、野菜はこのシンプルイズムを全うするようなサラダなのである。たとえトマトソースパスタだけだったとしても、サラダはやっぱり「菜っ葉系」だけなのである。

これを不甲斐なく思うのは、わたくしだけではない。同様の悲鳴を他のニッポンジン@イタリーからも聞く。根本的に「一日30品目摂取」を叩き込まれているニッポンジンにとって、「菜っ葉だけのサラダ」というのは反射的に物足りなさを感じてしまう対象である。そんなわけで、わたくしの家ではたとえ客人がイタリア人であろうとも、サラダは具沢山であることが必須である。名づけて「Inalata Ricca(リッチなサラダ)」

定番の具は「サラダ菜、ルッコラ、プチトマト、生マッシュルーム、ニンジン、玉ねぎ」やはりこれくらいいれないと納得がいかない。そもそもイタリアの野菜は甘くて旨いのである。ニンジンやマッシュルームの甘さなど、目から鱗である。それを食べない手はないではないか。これだけではない。余ったものは何でもいれてしまう。例えばオリーブの実を入れても旨い。

わたくしの家にご飯を食べに来るイタリア人の友達は、みんなこのサラダにすっかり慣れてしまったようである。アンドレアも「マッシュルームを生で食べたことって実はなかったんだけどさ、ウマいよね!いやあサラダといえば、ルッコラとプチトマトとマッシュルーム!これさえあれば完璧だね!」とすっかり洗脳され、barmarikoによる「ニッポンの一日30品目説」などを素直に聞いている。(良い傾向である)

一。サラダを最後に食べるのは受け入れる。二。サラダの具については条件あり。ということで、双方歩み寄りの結果、一件落着とするか。