ノーブラは当たり前?

夏だ。夏全開である。イタリア人女性がノーブラを発揮する季節がやってきた。わたくしがペルージャにきて初めての夏、親友のニッポンジン女性がこう息巻いていた。「聞いてくれる?昨日ね、同居人の女の子(シチリア出身のイタリア人)に『こう暑くっちゃタンクトップ1枚でいたいけど、ブラジャーのストラップが見えちゃうなあ』って言ったら『何でブラジャーするの?夏なのに』って普通に切り返されたの!そう言えば確かにノーブラの子多いよね、街中でも。でもわたしやっぱり抵抗あるよ〜」

ノーブラというのは夏ともなれば至って普通である。わたくしの同居人、南イタリアカラブリア州出身のロセッラも、夏の間は常にノーブラである。それどころか、TVのニュースキャスターや娯楽番組の司会が普通にノーブラで登場したりもする。その反面、ノーブラでは落ち着かない、支えがないと形も崩れるし、というイタリア人女性も多い。彼女達の場合、ブラジャーはするものの、その肩紐は当たり前のように丸見えである。

ブラジャーの肩紐が見えないよう、そこに細心の注意を払うニッポンジン女性の心意気(?)は恐らくイタリアでは理解されない。例えばニッポンでは、キャミソールやタンクトップを1枚で着たときにブラジャーの紐が見えないよう、「肩紐が取り外し可能なタイプ」というのが夏の定番である。しかしイタリアでわたくしはそんなブラジャーを見たことが無い。

ニッポンの場合、一昔前までは「ブラジャーの紐が見えている」はすなわち「パンツが見えている」と同様くらいのレヴェルでもって敬遠されていた。今は「見せブラ」などの商品も確かに流通してはいるし、概念としては理解されているかもしれないが、実際まだまだごく一部の若い女性にしか受け入れられていない。しかしイタリアでは、赤や青や紫のカラフルなブラジャーの紐を、思いっきり見せてタンクトップを着こなす40歳や50歳のオバチャンというのが、至って普通の存在である。

例えば数年前、ニッポンで開発された「肩紐が透明なブラジャー」というのがある。イタリア人は「はぁ?」という顔をなさるに違いない。肩紐なしのブラジャーは不安定で頼りない、とはいえ肩紐が見えるのは困る、そんなニッポンジン女性の我がままをもとに実現したのが、この「クリアストラップブラジャー」である。しかし断固として言うが、この商品開発はニッポンだからこそ成功したのであって、イタリアでは有り得ない。むしろ、そんな着眼点は存在しないだろう。

以前働いていた東京の会社で、仕事の最中に「ちょっと、ブラジャーの紐が見えてるよ」とそっとメールで教えてくれた同僚がいた。そんな心遣いが通用したり有難かったりするのも、ニッポンならでは、である。冒頭で述べたように、イタリアなら「なんでブラジャーするの?」で終わりである。

この状況はイタリアだけで見られるのではなく、むしろスペインやフランスでも同じであろう。2年前の夏スペインにバカンスへ行ったとき、ノーブラ人口の多さにはさすがに驚いた。イタリアどころではない。海へ行くと3分の1くらいの女性が、ノーブラどころか、トップレスでウロウロ海岸を散歩している。トップレスのまま海へ入り(ちょっとお風呂じゃないんだから)と突っ込みたくなるくらい、みんな心地よさそうに波に揺れていたのである。しかもカラダのラインに自信のある若い女性だけでない。どう見ても自分の母親くらいの歳格好のオバチャンが、トップレスで砂浜に突っ伏している。

さすがに2週間毎日、朝から晩まで海で過ごし、大小さまざまなオッパイを見せ付けられた日には、「ブラジャーなんてどうでもいい」と洗脳されかけたような気もする。まあ有難いことに、そんなバカンスも終わり、ニッポンジンがたくさんいるペルージャへ戻ったと同時に目が覚めたのであるが。やれやれ。