ニンニクのあり方

イタリアへ来てまず思ったことは、日本とイタリアにおける「ニンニクの使い方」の相違である。ご存知ニンニクというのは、細かく切れば切るほどその香りが増す。ニンニクを効かせたいときは微塵切り、ほんわか優しい味にしたいときは欠片のまま使用する。当然ながら最も香りがキツくなるのは「おろしニンニク」であろう。

ニッポンのイタリアン、例えばパスタを見てみよう。料理雑誌や料理番組でも、今やパスタというのは我々にとって家庭料理の一部といっても過言ではない。そしてその中に必ず登場するニンニクは必ずといっていいほど「微塵切り」である。

しかしイタリアでは、こと家庭料理において、「ニンニク」というのは効きすぎてはいけない、小さなスパイスのような存在なのである。微塵切りで使う頻度は非常に低く、パスタや肉量に限って言えば殆どの場合「ごろっとした欠片」で使用される。つまり一房を2,3個にカットするだけのものだ。微塵切りどころか、薄くスライスなどと言うのも、正直わたしはイタリアで見たことが無い。

例えば基本中の基本、トマトソースだけのシンプルパスタ。このとき使用するニンニクはやっぱり「欠片」である。さらにソースが出来上がる直前に、この欠片を全て取り出してしまう。「煮込みすぎはよくない」「苦味が出る」「最後に皿に盛り分けるときに邪魔」などその理由はいろいろであるが、わたくしの母のように最後にそのニンニクの欠片をパクッとやったりはしない。

いずれも共通するのは「ニンニクが効きすぎているのは駄目」ということである。ペルージャに到着して半年目、シェアメイトだったエミリアーノ(当時21歳)は、料理好きで毎日試行錯誤していたのだが、その彼の得意メニューが「ポテトのオーブン焼きローズマリー風味」だった。当初彼はそこに加えるニンニクを微塵切りにしていたのだが、ある日突然わたしにこういった。「僕は間違ってたよ。今日モルラッキ広場の片隅にある高級レストラン『カラバッジョ』のオーナーと話したんだけどさ。イタリア料理でもっとも大事なことは、ニンニクは決して微塵切りにしないことだって!」それからというもの彼のオーブン焼きから、確実に微塵切りニンニクの姿は消えた。

親友アンドレアやジュセッペはパスタソースを作るとき、「ニンニクか玉ねぎ」のどちらかしか入れない。イタリアで「玉ねぎ」は野菜というよりも「香草」としての扱いを受けることが多い。パスタソースやミネストローネやリゾットにちょっと加えると、コクと風味がぐんと増す。と同時に「匂いがキツイ」「匂いが残る」といって敬遠するイタリア人が多いのもまた事実である。玉ねぎが食べられないイタリア人(特に生玉ねぎ)は結構いるのである。話がそれたが、そんなわけでアンドレアにしてもジュセッペにしても「パスタソースに玉ねぎを入れたらニンニクはいらない。どちらかひとつでいい」派なのである。

また別の知人、南イタリアのプーリア州出身で現在はペルージャで歯科医を営むコジモは、こう言い放つ。「地中海料理の味はオリーブオイル、ニンニク、赤唐辛子、この3つが織り成すハーモニーで決まるんだ!どれがかけても駄目。ニンニク臭過ぎても駄目。辛すぎても駄目。弱火でじわじわとこの3つを熱していって、ちょうどいい香りが漂った瞬間に、やっと料理は始まるんだ!」

わたくしの回りにはどうも料理にうるさいというか、コダワリがあるというか・・・1秒後にいつでも料理論議を開始できるひとが多い。ニンニク一つについて、今ふと思い返してみただけでも、こんなに名言が残っているとは。(さすがイタリア。っていう締めにしておくか?)