ある日の午後。

全くもって素晴らしい晴天である。ペルージャにも春がついにやってきた。この時期イタリアでも暗い影を落としているのが、花粉症である。あっちこっちでその被害者を見る。幸にもわたくしは花粉症にかかったことがないのだが、あのラ・ルムエラのオーナー、グラウコも目に涙をためて仕事をしている。

この天気に伴い、チェントロの聖堂前の階段は昼も夜もビールを飲む人や日光浴をするひとで満員御礼、とみに騒がしくなってきた。チェントロにある「マニア」というテイクアウト専用種類販売の店の前は一日中大行列である。ここでビールや食後酒のアマーロやグラッパを買って外でチビチビやるのである。当然パブやバールへ行くより、テイクアウトであるから値段も安い。グラッパやアマーロは均一1ユーロ(140円)、生ビールは3ユーロ(420円)前後である。

わたくしの家はペルージャ外国人大学の真裏、さらにチェントロへと続くアッピア通りという長い階段の麓、そしてペルージャイタリア人大学の法学部や教育学部、学生食堂へ向かう途中に位置するため、常に人通りがある。暖かかさが急激に増してきた最近、この騒々しさは夜中いや明け方まで続くことがあり、前にも言ったように防音ガラスや雨戸に無縁なペルージャチェントロの家において、この騒音は見事に筒抜けなのである。さすがに朝4時にサッカーのペルージャ応援歌など歌われるとウンザリする。

昼の12時、洗濯物を干そうとバルコニーへ出ると、プーンと漂う例のお薬のにおい。誰?上の階を見上げると窓は閉まっている。ということは下か?下を見ると大きく開かれた窓、見れば犬が昼寝の真っ最中である。まさか犬がマリファナを吸うわけでもあるまい。ということは、この部屋の主の2人のイタリア人女性か。この春の陽気で外の空気を吸いながらマリファナも満喫してらっしゃるのだろう。彼女たちの玄関ドアには「いつでも大歓迎!」という走り書きと彼女たちの写真が貼ってある。いつか「マリファナもあるよ」と追記してあげたくなる。

インターネットポイントへやってきた。ここは国際電話センターも併設しており、いわずもがな常に大声で電話をする外国人でいっぱいである。できることなら電話の側のパソコンは使いたくないのだが、残念ながら空きパソコンが1台しかなく、7台の電話の真裏に座る。悪夢である。まず大声で怒鳴り散らしているのは明らかにアルバニア人の女の子。アルバニア語だけはもう一生忘れることができない。まるで喧嘩ごしで叫んでいるが、彼女にとっては間違いなく普通のトーンなのであろう。更に上を行くのが、わたくしの真裏で泣き叫ぶフランス語を喋る女の子。最初は啜り泣きだったが今では(まさにこれを書いている今)号泣である。いくら電話センターだからといって、いくら違う言語だからといって、ニッポンジンにとって人前でこのように号泣することは非常に難しいに違いない。

こういう風景はニッポンへ帰ったらもう見ることがないのだろう。この煩わしさがニッポンには全く存在しないのだろう。そしてまず間違いなく、それはノスタルジーとして心に残るのであろう。