シャムロックのヌードカレンダー事件

ある日アンドレアとジュセッペから電話がかかってきた。「面白いものを発見したよ。今すぐオーヴェルダン通りまで来てくれよ!」何が起こったのか想像もつかずにいるわたしを待ち受けていたものは、チェントロのオーヴェルダン通りにある写真屋のショーウィンドに飾られたヌードカレンダーであった。しかもよく見ると「え?わたしこの人たち知ってる?」さらに表紙には「シャムロック」とある。

シャムロックとはペルージャチェントロにあるアイリッシュパブで、ローマにも姉妹店を持つ小さいがなかなか雰囲気のよいパブである。ここのオーナーはグイドというイタリア人、マネージャーがマルティナというアイルランド人女性である。内輪ネタになるが、シャムロックで働いていたスタッフはみなこの管理職側のマルティナやグイドに批判的で、仕事のあとダウンタウン(わたくしが昔働いていたところ)へやってきてはカウンターで愚痴っていたのを思い出す。つまり、よくあることだが、内部揉めが常にあり、その様子は外部からもチラチラと想像できるものであった。

そのシャムロックが、何故かヌードカレンダー2005年というのを作成したのである。スタッフは全員無理矢理参加だったらしく、カレンダーには裸で勢ぞろいのスタッフ、それから常連客の姿もあった。さすがに全て丸見えなのではなく、大事なところは帽子や花束やビールを運ぶトレーで隠しているので、完全ヌードではない。写真屋のショーウィンドウに飾られていたのは表紙とほかに2,3枚であったので、ほかの写真がどうだったのかは分からないが大よそ予想がつくってもんである。意図はよくわからないが、シャムロックの誕生日とか創業10年とか、マルティナが結婚するとか、そういう遊び半分の(にしてはお金をかけすぎているが)企画だと思っていた。


わたくしの大事な友、トーマスとイヴァナはこのシャムロックの超常連なので、先日ディナーを共にしたとき聞いてみた。「シャムロックのカレンダー見た?」「おおマリコ、それについて僕に話をさせたらとまらないよ。15分は話し続けるけどそれでもよかったら説明するよ、いいかい?イヴァナ?」「トーマス、話しなさいよ。本当に呆れるったらないわ。」と失意のイヴァナ。どうやら何か、あったらしい。

「当然カレンダーここに一部あるから。見たかったら見てごらん。ああ、気色悪い。」興味心身のわたくしは早速カレンダーを一枚一枚めくってみたが、やはり想像通り、というか本当に気色悪いものだった。マルティナ一人のヌードが(当然大事なところは隠されている)2つ、スタッフ全員のヌードが2つ(しかも全員裸で店内の座席に座り、満面の笑みでビールをあおったり、各々がワザとらしいポーズをつけている)、スタッフの男の子の単独ヌードが1つ、はたまたオーナーのグイドが嫁さんと産まれたばかりの双子と当然全員裸で写っているものまであった。

「マルティナは僕らに、つまり僕とイヴァナにまでこのカレンダー写真に参加するように言ったんだよ!有り得ない。僕は舌を噛み切って死ぬね。」「でも何でこのカレンダー作ったの?誰かの誕生日?ただのおふざけ?」「それなら可愛いもんだよ。いや逆にそれなら楽しめたかもしれない。僕が気色悪いと思うのは、彼らはこのカレンダーを世界の貧しい子供たちのために作成したんだよ!」つまり、シャムロックの名でカレンダーを作成し、その売り上げをアフリカの貧しい子供たちへの救援基金として捧げましょう、というものである。

トーマスは続けた。「僕がある日シャムロックへいくと、カウンターで突然『トーマス!カレンダーを買ってよ!世界の子供たちのためよ!』とマルティナに言われたんだ。カレンダー一部10ユーロ(約1400円)だってさ。しかもその日、僕より先にイヴァナが来ていたんだけど、彼女は彼女で10ユーロ払って1部買わされていたんだよ。僕はお金のことを言ってるんじゃない。世界の子供のために僕とイヴァナが合わせて20ユーロ払うことが問題なんじゃない。しかも僕らは長年の常連だから、シャムロックが何か企画するというのなら、前もって説明されていたのなら、喜んで参加するよ。20ユーロどころか50ユーロだって払うさ。でもこの偽善にみちたカレンダー販売、これにはヘドが出るよ!」

「しかも、おお、これが一番問題なんだが、翌日のウンブリア新聞に『シャムロック、世界の子供を救う』と見出しがあったんだ。やつら、カレンダーを僕ら常連に売りつけてそのお金を、あたかも彼らが全額請け負ったかのように新聞記者に記事をかかせてるんだ。大体子供を救うことが第一の理由なら、新聞記者を呼んでインタビューさせることがなぜ必要なんだ?商業的すぎ、下心が見えすぎだ。さらにね。このカレンダーは僕が思うに100部も売れなかったんだよ。彼らがその売り上げをアフリカへ送金したと思うか?僕は信じて疑わないけどね、この僅かな売上金は、カレンダー作成資金として写真屋へ支払われただけだよ。馬鹿馬鹿しい!」

イヴァナも続ける。「本当にね、ここのところシャムロックも売り上げ低迷してるから、新規一発何かやりたかったんだろうけど、彼らがまず考えたのは多分商業的に名前を売ること、そこから出た案がアフリカ基金、そしてカレンダー作成に繋がって、じゃあ誰に払わせるか?常連。こういう流れがね、嫌なのよ。最初からみんなで何かやりましょう、ってきちんと企画するなら私たちも参画するけれど。常連客を馬鹿にしてるわ。」

ひょんなことから知ったこのシャムロック・ヌードカレンダー。裏にこんな流れが隠されていたとは。わたくし今回のコメントは控えさせて頂きます。トーマスとイヴァナが十分説明してくださったので。