アンドレアのパスタとオリーブ・オイル

barmariko2005-02-26


アンドレアが作る簡単・お手軽・野菜たっぷりパスタは今日も健在である。わたくしが大好きなのは前回ご紹介した「赤インゲン豆とタマネギのオレキエッテ(耳たぶ型のショートパスタ)ローズマリー風味」であるが、シンプルを更に極めた野菜の甘みだけで食べるパスタは他にもたくさんある。その一つが「山盛りブロッコリーのパスタ」。何と鍋一つでできる、南イタリアの家庭の味である。

ブロッコリーもパスタも一つの鍋で茹で、味付けも同じ鍋でするため、独り暮しの皆さんにも単身赴任のお父さんにも誰にでも簡単に出来る。ブロッコリーは一人に対し一房が丁度よい。多すぎると思われるかもしれないが、茹でたブロッコリーにパスタを和えるくらいのイメージが美味しさの秘訣である。むしろブロッコリーを食べるための一皿と思って頂ければよい。ちなみにカリフラワーで作っても抜群の美味しさである。アンドレア曰くこの茹でた野菜とパスタをオリーブオイルで和える食べ方は「プーリア州らしさ」が最も表れる一皿だそうだ。初夏がくれば茹でたそら豆のパスタを合わせるとまた最高である。

  1. まず鍋にたっぷりの湯を沸かし塩を加えてブロッコリーを固めに茹でる。
  2. ブロッコリーはそのまま茹で続けながら同じ鍋にパスタを入れる。(フッシッリ、ペンネ、オレッキエッテ、コンキリエ・・・ショートパスタなら何でも合う。)パスタがアルデンテに茹で上がる頃にはブロッコリーはちょっと触れば崩れるほどクタクタになっているはず。
  3. パスタとブロッコリーを同時にざるに上げてよく水分を切り、使用した同じ鍋に戻し入れる。
  4. 冷めないうちにオリーブオイルを加えてよく和える。ここでブロッコリーは見事にくずれてソースのようになり、パスタによく絡む。
  5. 更に盛ってオリーブオイルを食べる直前に一滴らしする。(お好みで黒胡椒を挽いても美味しい)

さてポイントはブロッコリーとパスタを茹でるお湯に塩をたっぷり入れることである。この塩味だけが味付けになるのだから。イタリア人はよく「いくら塩気が足りないからといって出来上がったパスタに塩をふるのだけは駄目だ!!」と言う。アンドレアもそうである。出来上がったパスタに加えることが許されるのは上質のオリーブオイルだけ。イタリア語では「FILO D’OLIO フィーロ・ドーリオ」と言う。FILOは糸という意味、つまりほんの一滴らしのオリーブ・オイルというわけだ。

オリーブオイルと言えばアンドレアの家のコダワリは凄い。男4人の共同生活にも関わらず、それぞれが自分の故郷のオリーブ・オイルを持参している。シチリア人のジュセッペはシチリアのオリーブオイル。但しアンドレアはこのオリーブ・オイルを心底馬鹿にしていて「香りも何もない代物」と全く認めない。アンドレア含む残り3人は南イタリアはプーリア州サン・セヴェーロという同じ街の出身なのだが、その彼らですらそれぞれ異なる故郷のオリーブオイルを使用している。というのもイタリアの田舎では、それぞれの家庭が農園でオリーブの実を1キロ単位で購入し、オリーブオイルに精製してもらうことが多いからである。特にプーリア州と言えばトスカーナ州ウンブリア州と並んで上質なオリーブオイルの産地として有名である為、自分達の舌に合った信用のおける農園で作られたものしか使わない家庭が多い。しかもスーパーで販売されているものよりはるかに安いのである。

アンドレアの家の男4人は、それぞれ実家へ帰る度に数リットルのオリーブオイルを運んでくる。車で実家へ帰るのならまだしも、彼らは何と電車で7時間かけて帰省する。その都度あの量のオリーブ・オイルを手荷物で運んでくるというのでは、そこに彼らのコダワリを感じずにはいられない。「コダワリとかじゃなくてさ、自分が慣れ親しんだ味がやっぱり安心なんだよ。それにオリーブ・オイルは料理の味を変えるから。添加物一杯のインチキオイルを使った日には、一日胃が痛むんだ。リストランテだってオステリアだって、オリーブ・オイルに気を遣わないところは駄目だよ。」いやいや、立派なコダワリである。

しかし実際イタリア人全員が彼らのようなコダワリを持っているかと言えばそんなことはない。ペルージャのように実家から離れて暮らす学生が多い街では、市販のオリーブオイルのほうがむしろポピュラーである。しかしわたくしはアンドレアから実家のオリーブオイルをおすそ分けしてもらっている為、我が家は上質なプーリアの味を重んじている?わけである。


(アンドレア家の4種のオリーブオイルたち)

ところでオリーブ・オイルというのはニッポンでもヘルシーなオイルとして昨今注目を集めている。低温絞りのため温度による変化を受けない、酸化しにくい、リノール酸オレイン酸など体に良い不飽和脂肪酸を多く含む、等の理由から他の油に比べて非常にナチュナルとされている。にも関わらず何故イタリアには、豊満で迫力のある体型の方が多いのか。ニッポンジンが歳をとるごとに痩せていく傾向にあるのに比べて、イタリア人がどんどん太っていくのは目に明らかである。南イタリアに一歩足を踏み入れれば、街には太ったおばちゃんばかりである。しかし決してオリーブオイルのせいではない。極端な甘いもの好き、一日何杯も飲むエスプレッソにはたっぷり砂糖を入れ、朝からドルチェを食べる。昼のドカ食い、その後は夕方までお昼休みが続き、基本的に遅い夕飯。更にどう考えても多い間食。ニッポンよりはるかに多いチーズやバターの摂取量・・・。上質のオリーブオイルだけを見ればそこに太る原因はなく、むしろそれは生活習慣からくるものであろう。

いつもの如く話が大変それたように思うが、騙されたと思って皆さんも一度是非試してください。鍋一つでできる冬こそ美味しいブロッコリー(またはカリフラワー)のパスタ。その前に上質のオリーブオイルが必須であるが。