カリーナ、あんたケチャップ入れたの!?

barmariko2005-12-24

CARINA,HAI MESSO....KETCHUP!?
以前にも何度か登場した、ブラジル人のカリーナ。ペルージャでのわたくしの最後の同居人だ。(カリーナについてはこちら。カリーナの彼氏ロレンツォについてはこちら。)

お世辞にもスマートとはいえないカリーナ。年頃の女性が持つ悩みは世界共通で、彼女は毎日「ダイエットしなくちゃ・・・」と悲痛な叫びを上げていた。しかし。一緒に住んでいるわたくしとしては、何故彼女が太ってしまうのか、分かりすぎるくらい分かっている。原因の1つは食生活。間違いない。

冷蔵庫のカリーナの段(真ん中と野菜室がわたくし専用、上段がカリーナ用だった)に常備されているものは、バター、生クリーム、チーズ。仕事に勉強に忙しい彼女、その合間をぬって料理はするのだが、必ずといっていいほど加えるのが生クリーム。ああ、その生クリームのパスタ、クリームの替わりにシンプルなトマトソースにすれば、グンとカロリーが減るのに、とわたくしはいつも口をすっぱくして言っていた。

ある日わたくしがキッチンに入っていくと、そんなカリーナが歌を歌いながら(さすがブラジル)料理をしていた。「今日は何作ってるの?」「ミートソース!ロレンツォ(カリーナの彼氏)の家に持っていこうと思って♪」「へぇ〜、すごいじゃん!頑張ってるねぇ。ミートソース作れるなんて知らなかったよ〜。今度わたしにも食べさせて。」「もちろん!作り方、よくわかんないけど、いつもこれで大体美味くいくのよね。題してカリーナ風ボロネーゼソース!」

しかしその瞬間。わたくしは見た。カリーナが大量のケチャップを、グツグツ煮えたぎる鍋の中に投入しているのを。ケチャップ。これほどイタリア人が「アメリカ的」としてバカにする食材もない。とはいえ必ずどのスーパーでも販売されており、確かに用途はあるのだ。それは1にフライドポテト、2にハンバーガー。つまりパブやピッツェリアで出されるフライドポテト、そしてパニーノ屋さんやバールにあるハンバーガーのことである。ケチャップの存在価値は、イタリアでは未だこの2品目に対してしか認められていない。(といっても過言ではない)
パスタソースに入れるなど、とんでもない。もはや有名な話だが、スパゲティ・ナポリタンという戦後日本が生んだ喫茶店メニュー。パスタにたっぷり絡めたケチャップ。これはイタリアでは超超超NGであり、それを目にしたイタリア人は「今すぐ首を吊れ」と怒り狂うに違いない。そんなわけで、わたくしは鼻歌を歌い続けるカリーナを同情の眼差しでもって見つめた。食にうるさいロレンツォが、ケチャップ入りのスパゲティ・ボロネーゼを認めるはずがないからだ。

と、そこへ突如遊びにやってきた親友アンドレア。ドアを開けるなり(わたくしの家はドアを開けたらすぐそこがキッチンなので)「う〜ん、いい匂い♪何作ってるんだい?ボロネーゼソース?」「そうなの〜。美味しいに決まってるわよ。だってカリーナ風だもん♪」とカリーナ。しかし、やはりアンドレアはイタリア人であった。すかさず、鍋の横におかれたケチャップのボトルを見つけ、「カリーナ・・・。まさかとは思うけど、これは何に使ったの?何でここにあるの?」「何でって、ソースに入れたのよ。美味しいのよ。これがカリーナ風の秘訣♪」「・・・・・!」(アンドレア絶句)

アンドレアはカリーナを諭すように、傷つけないように、しかしイタリアでの掟は絶対だといわんばかりに、切り出した。「僕が思うに・・・イタリア人であるロレンツォにとって、ケチャップ入りのボロネーゼソースというのは、存在し得ないものだから・・・ありえないんだ。悪いことはいわない。もういれちゃったものは仕方ない。でもこれをロレンツォの家に持っていくだろ。で、食べるだろ。ロレンツォが『ああ、ハニー、美味しいよ。どうやって作ったのか説明してごらん』って言い出すとするだろ。君は絶対、『ケチャップを入れました』って言わないほうがいい。」

「ええー!?でもいつも美味しくできるのよ、これで。」「いやだから、もしかして美味しいのかもしれない。でも問題はロレンツォがイタリア人であるってことなんだ。イタリアで生まれ、イタリアで育っている僕たちにとって、ボロネーゼソースにケチャップを入れる、ってのは・・・本当にショッキングなことなんだ」わたくしは、噴出す笑いをこらえるのに必死だった。おかしい。おかしすぎる。

翌日カリーナに聞いてみた。「ボロネーゼソース、どうだった?ロレンツォ美味しいって言ってくれた?」「もちろん!大好評だったよ。アンドレアのアドバイス通り、ケチャップのことは言わなかった。ほんと、ウケるよ。もしケチャップの存在を明かしたらさ、その瞬間に『胃が痛い』とか『腹が痛い』とか具合悪くなるんだろうね(笑)。でも言わなきゃ全然わかんないし、美味しい美味しいって食べてんだもん。食わず嫌いなんじゃないの?」

一理ある。わたくしもさすがにボロネーゼソースにケチャップを入れようとは思わないし、黙ってたほうがいいとアドバイスしたアンドレアの気持ちも分かる。しかし、多くのイタリア人は食わず嫌いだし、食べ物に関しては本当にうるさい。そして保守的なのだ。