重い重いって・・・何がさ!

PESANTE,PESANTE....CHE VUOI DIRE!!!
先日のコメント欄でYUKIKOさんと盛り上がった「イタリア式”重い(ペザンテ)”」について、せっかくだから触れてみたい。あいつら、本当にうるさいのである。もちろん、食べ物に関してである。「これはちょっと・・・重いから食べられない」という理由で、食卓のご飯を敬遠するひとを、ニッポンでは殆ど見たことがない。そりゃ例えば夜中にトンコツラーメン食べれば「うっ、こってりし過ぎて胃に悪いかも」と思ったりするし、中華料理やでラーメン+餃子+レバニラ等油たっぷりのフルコースを食べれば「明日は粗食にしよう」と反省したりもする。しかしっ!あいつらの根拠のない「重い(ペザンテ)」は、食卓をともに囲む者にとって、結構腹が立つものなのだ。

「重い(ペザンテ)」を口にする頻度が高い、過去最高の人物は、わたくしの2番目のルームメイト、エミリアーノ(ローマ近郊ラティーナ出身イタリア人男子、23歳)である。彼にはまいった。朝から晩まで体の不調を訴え、食べるものに極端なまでのコダワリ(何度もいうがそこに根拠はない)を持ち、何と言うか・・・「男ならガタガタ言うな!」とどつきたくなるやつだった。

幾つか例を挙げてみよう。ある朝、キッチンの棚に、溢れんばかりの古いパンが詰まっているのを発見したわたくし。エミリアーノに「これ古いよ!?食べないなら全部捨てるよ!」と聞くと「駄目だよ!イタリアでは”パンを捨てる”って宗教的によくないんだよ。パンは神聖なものだから」という。(じゃあ残すなよ・・・)「あっそう。じゃあフレンチトーストにでもする?やわらかくなるし。」「フレンチトースト!?そんな重いもの食べられないよ!朝からフレンチトーストだなんて。」「・・・。捨てるか使うか決めてよ!」

まったく朝から甘いブリオッシュを2個食べるやつに、朝からクッキー300gを一気食いするヤツに言われたくない。もちろん、これは序の口である。

ある日たまには和食をと思い、キッチンで肉じゃがを作っているとエミリアーノがやってきた。「ちょっと・・・もしかして今鍋に入れたの砂糖!?」「そうだよ。和食の特徴は出汁、醤油、酒、砂糖なんだから。後で味見する?美味しいよ」「遠慮しておくよ。砂糖を使う料理なんて、そんな重いもの食べたら後で胃がおかしくなるよ。」ブチ。

またあくる日は野菜たっぷりの味噌汁を作った。「エミリアーノ、食べる?これ凄いのよ。味噌って発酵食品なんだけど、体にすごくいいの。油も一切使ってないし、ほんとヘルシーだから。」「発酵って・・・腐ってるってことだよね?せっかくだけど、食べたことのないものを口にして、体がどう反応するか怖いからね。慣れてないだろうから。僕っていうか僕の体がだよ。(同じだよ!)」「発酵食品て、あんたヨーグルト食べたことないの!?平気でしょ?」「うん、でも日本の発酵食品はまた別でしょ。分かったよ、じゃあ野菜だけ食べるよ。あっ、スープは絶対入れないで!」

さらに別の日。今度は和食ではなく、牛肩肉の赤ワイン煮込みを作ったわたくし。はっきり言ってこれは美味いのである。3時間煮込んだ牛肉は香味野菜とワインでほろほろに柔らかくなり、コクも増してご飯にもパンにも合う逸品なのである。幾らなんでもこれは食べるだろうと思って、聞いてみると、イエスとのこと。(やっぱりコイツはイタリア料理から一生抜けられない)

しかしあくる朝、エミリアーノはわたくしにこう言い放った。「今朝はずっとお腹の調子が悪くてね。朝から何回もトイレに行ったよ。やっぱり夕べの赤ワイン煮込み・・・実は僕、3時間以上煮込んだソースは苦手なんだ。美味しいのは分かるよ。でも重くなるからね。」「二度とわたしの作るものを食べないで。」「いやだから、僕の胃が他の人のよりデリケートってことが問題なんだよ。美味しいのは美味しいんだけど、体が拒否しちゃうんだよ。」「この前アンタが作っていたミートソース、あれ3時間煮込んだって自慢してなかった?」「あれは違うんだよ!ミートソースはひき肉だからね。今回の肩肉はちょっと・・・」

全てがこんな調子で、疲れるといったらない。さらにレンズ豆、ピーマン、この2つは「重い」という理由で、昼は食べるのに夜は絶対食べないと言い張る。「豆のどこが重いの!?体にいいんだから豆類は絶対どこかで食べなくちゃ」「分かってないな。重いって一口で言ってもいろいろあってね。普通に重いのと、それからどっちかっていうと消化によくないものとあるんだ。ピーマンや豆は消化に悪いって僕だけじゃないだろ、そう言うのは。イタリアでは一般常識だよ。」

確かに、アンドレアの親友ジュセッペも、昼のピーマンは食べるが夜は絶対食べない。ほんの一口であっても皿の外に追いやってしまう。はっ。そういえば別の友達のフランチェスコ。彼もこの前チェントロであったときに「ちょっと胃の調子が悪くてね。昨日の夜ピーマンのグリルを食べちゃったからね。美味しかったけどやっぱり駄目だね。」って君たち何が駄目なんだよ!

まったくエミリアーノのおかしな思い込みはどうしたら治るのだろう。彼の場合完全にただの勘違いなのだ。木枯らしがふくある寒い夕方だって、一緒にバールへ行って彼が注文したものは「生クリームのせココア」「生クリーム入りコッペパン」。イタリアへこられた方はお分かりかと思うが、バールで生クリームのせのココアを頼むと、驚異の量が盛られてくるのだ。生クリームでココアが窒息死するくらいの量である。それをエミリアーノは美味しそうに飲み、挙句の果てにコッペパンまで平らげた。

先ほども言ったが、甘いものには目がなく、そこにどれほどの糖分や乳脂肪が使われているのかについては、まるで無視。朝からキットカット1袋を平らげたり、新聞を読みながらついついクッキー300gを食べちゃったり。お前、3歳児か?というくらい甘いものに関しては抑制が効かないようである。

そんな彼が愚痴り続ける体の不調は、同居人にとってたまらない。当時20歳でありながら、近所に主治医がいて、何かあるとすぐ駆け込んでいた。(決まっていつも、何もない)「胃が痛い」だけならカワイイものだ。ある日は「膵臓が痛い」「腎臓が痛い」「背骨から腰にかけてジワジワ痛みが増す」・・・うるさい。これじゃあ老人介護である。若くて健康なだけにタチが悪い。「ねえ、そんなに気になるならCTスキャンでもとってくれば?」「ナイス・アイディア!」結果は何もなし。不満に思った彼はまた別の病院で検査をしたが、結果はまたもや何もなし。ある日彼に言ってみた。「”病は気から”ってことわざ、イタリアにはないの?」