パニーノ大作戦(中編)

「パニーノ大作戦(前編)」はこちら→id:barmariko:20050923
バール・アルベルトのパニーノの仕入れ単価は1個あたり1.0ユーロ(約130円)である。売値が1.5ユーロであることを考えると、1個あたりの儲けはたったの70円ほど。しかもパニーノとトラメツィーノを合わせてもたったの6個しか発注していないわけだから、全部売れたとしても雀の涙ほどの儲けしかない。毎日発生するレジ誤差用に当てはめれば、それで終しまいである。しかも数少ないそのパニーノのうち、1個はわたくしが仕事中に賄いとして、1個はアルベルトが小腹抑えに夕方食べてしまうのであるから、客がお金を払って買うパニーノはたったの4個なのだ。しかも4個全て売れたことなど一度もない。まるで趣味でやっているような発注である。

さらにこの問屋から仕入れてくるパニーノは、どうひいき目に見ても美味しそうとはお世辞にも言えない代物なのである。このパニーノを1ユーロも出して仕入れてくるなんて・・・!と外国人のわたくしですら、言葉を失うほどの出来栄えなのだ。干からびた生ハムにトマト、水っぽいツナ、色の変わったレタス。

毎日毎日バールで働きながらもわたくしの頭の中は「パニーノ」のことで一杯だった。「あたしが作ったほうが絶対美味しいし、儲けもある!」ある日とうとうアルベルトに思い切って言ってみた。
「一つ提案があるんだけど。毎日総額20ユーロ(約2600円)近くも払ってパニーノや菓子パンを仕入れてるけど・・・儲けは300円〜400円くらいじゃない?でもこの問屋のパニーノ、どう見ても1ユーロで仕入れるべきものじゃないよ。手作りすればそれこそ3分の1の原価で済みそうな代物だよ。どう?今問屋に毎日支払っている20ユーロをあたしに託してみない?パニーノ4個どころか、その5倍くらいの量作ってこれるから。それくらいパニーノの原価なんてたいしたことないのよ。ちょっと早起きして具をはさめばいいだけなんだから。あの問屋に払ってる同じお金で、いつもの5倍の量の、いつもより遥かに美味しい手作りのパニーノを提供できるんだよ。お客さんも喜ぶ、利益も上がってあなたも嬉しい、パニーノ作り手間賃としてわたしも時間外に給料がもらえて嬉しい。ほらみてよ、3者が喜ぶ企画なのよ。作らせてよ、パニーノ!」

アルベルトはポカンとしていた。今思えばよく理解していなかったのだろう。しかしわたくしの頭の中には山積みされたパニーノや美味しいドルチェの図が既に出来上がっていた。「バール・アルベルトもやればできるじゃないか」とお客さんに言わしめる、そんな絵が既に描かれていた。「こいつ、よく分かってないな」と思いながらも「じゃ、明日の朝からは手作りパニーノが並ぶから!」と無理やりわたくしは言い放ち、納得させた。「いい企画だと思うよ。よろしく頼むよ」とよく分かってないくせにアルベルトは賛成し、何となく、しかしとても情熱的にそのマイ企画は進行したのである。

既に手作りするものは原価を考えてピックアップしてあった。手作りするとなると、材料費というのは本当に安く上がるものである。最初こそインパクトが肝心と、わたくしはパニーノだけでなく、手作りのハンバーガーや(イタリアでも若者を中心に人気があるので)、手作りティラミスやマチェドニア・フルッタなども作ることにした。

  • 生ハムとレタスとトマトのパニーノ
  • ツナとレタスのパニーノ
  • ズッキーニのフリッタータ(卵焼き)とレタスのパニーノ
  • 生ハムとストラッキーノ(クリームチーズ)のパニーノ
  • 卵とモルタデッラハムのパニーノ
  • 手作りハンバーガー(ハンバーグは勿論手作り)
  • ティラミス
  • マチェドニア・ディ・フルッタ(フルーツ・ポンチ)

作るのも買出しに行くのも勿論わたくしであるが、いくら何でもタダで働く気は全くないので、人間1人×1.5時間分の人件費を事前に算出し、毎日アルベルトが問屋に発注する20ユーロを、この材料費と人件費に当てるようにした。