ゲームに群がるひとたちⅢ

barmariko2005-06-09

I RAGAZZI CHE GIOCANO OGNI GIORNO AL BAR Ⅲ

前号、前々号を先に読まれることをお勧めします。
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バール・アルベルトのゲーマーのひとりに、ニコスというギリシャ人がいる。彼はお医者さんで(しかし具体的に何が専門なのかとか、詳しいことは何も知らない)、他の客からは「ドットーレ(医者や博士に対して使う呼び名、敬称)」と呼ばれている。しかしそれは彼が医者であるからだけではない。彼が、バール・アルベルトにおいて最も強いギャンブラーだからである。

ニコスはハッキリ言ってデブである。突き出た腹を見るたびに「医者の不養生」という言葉を思い出す。そして不思議なのは、毎日毎日よくまあこれだけゲームに費やす時間があるものだ、ということだ。勿論、彼の仕事が医者、という前提のもとである。しかしいつも温厚で悪い奴ではない。スロットでわたくしの家賃と同じくらいのお金をすってしまっても、逆切れなど絶対しないし、飲み代はツケにせずすぐ払ってくれるから、店主アルベルトからも信頼されている。

まあ「ゲームに強いドットーレ」というだけで、田舎のバールでは間違いなく客同士でも一目置かれる。そんなことより患者から信頼されるように努力しろよ、と突っ込みたくもなるが。

もうひとり、バール・アルベルトのゲーマーたちが絶対に逆らわない男、それがゲーム会社のディエゴだ。多分40歳くらいだが見た目よりも若く見える。彼はバールにえらそうに構えているこのゲーム、スロットマシーンの会社の人間なのだ。ゲームが壊れた、動かない、両替機の小銭が切れた、そう言っては「アルベルト、ディエゴを呼んでくれ」と彼の登場をせがむ。
彼らが心をまいらせているスロットマシーンの会社で働く男、その肩書きだけでディエゴは人望を勝ち取ることができるのだ。それだけで、羨望の眼差しで見られるのだ。実際ディエゴの仕事と言えば、ペルージャ中のバールにあるスロットマシーンを管理する、で終わり、それ以上も以下もない。毎日バールを回って「チャオ!スロット動いてる?」「両替機の小銭補充しとくよ」の繰り返しである。

わたくしが店番をしていると、ディエゴは「チャオ〜、アモーレ・ミオ(僕の愛しいひと)、ベレッツァ・オリエンターレ(東洋の美)!」などと調子の言いことをいい、勝手にわたくしの手をとり挨拶のキッスをする。「いつ僕とディナーの約束をしてくれるんだい?」「いつ僕に寿司を食べさせてくれるの?」「欲しい魚があったらいつでも言って。僕は知り合いが多いから直ぐに調達できるよ、獲れたて新鮮なのを」うざすぎる。

わたくしがどれだけあのゲームを疎ましく思っているか、ディエゴどころか誰にも分かるまい。そのゲームの会社で働き、ゲーマーから慕われ敬われ、本人もそれをしっかり認識していてこともあろうに自分が「必殺仕事人!」であると勘違いしている。ピカピカのBMWワゴンをキキーッとバールの前に乗り付けてさっそうとやってくる、その姿だけでも妙にわざとらしくて白けてしまう。そんなディエゴにディナーに誘われて、誰がノコノコついていくというのか?

しかも去年の夏、バールに毎日入り浸ってゲームに興味津々だったマテオという12歳の男の子を説き伏せて、わたくしが何とかディナーに来るよう仕向けた。「ねぇねぇ、お姉ちゃん。ディエゴのディナーに行こうよ。ディエゴがさ、僕がマリコをディナーに連れてきたら、あのスロットマシーンを1台くれるっていうんだよ。大丈夫だよ、ディナーには僕も一緒に行くから。」おい、小僧。いざと言うときに、君は絶対役に立たないからお姉ちゃんは断固ディナーには行きません。

全くペルージャのいちバールにあるスロットマシーン一つのことで、こんなに書くことがあるとは思ってもみなかった。そこに関わる登場人物の紹介だけでも、結構な量になるではないか。