バール・アルベルトの人々3 教会工事のおじさんたち

barmariko2005-04-08


今まで何度と無く登場したバール・アルベルト前にある教会、ここで毎日修復工事を行っているのが写真のおじさんたちである。(彼らに初めて出会う方はまずこちらの前号をどうぞhttp://d.hatena.ne.jp/barmariko/20050118)彼らはイタリア中の教会や聖堂を修復する専門家でひとつのチームである。全員が南イタリアはプーリア州のレッチェという海に囲まれた街の出身だ。ただでさえ出身にこだわる郷土主義のイタリア人であるが、特にレッチェ出身の人間は誇り高く故郷を愛すると言われている。いやむしろ、ほかの地域出身のイタリア人からは「レッチェ出身のやつらは驕っている」「世界で一番美しく、食べ物の美味しい街はレッチェだと信じて疑わない」「レッチェ出身のやつらはレッチェの人間同士でいつも行動する」「レッチェ以外の街は認めない」などと皮肉られることが多い。とはいえ、わたくしにとっては彼らは皆温かい素晴らしいひとたちなのである。わたくしがバールで働くとき、さらに仕事以外でも何度助けてもらったか分からない。

確かに、このおじさんたちも(右からドメニコ、サルバトーレ、ジョルジョ、マテオ、ジョバンニ、ジュセッぺ)何においてもレッチェが一番である。全員が家族を持っていて、隔週ごとに全員でトラックを運転し郷里へ帰省する。そしてペルージャへ帰ってくるたびに美味しいレッチェの魚や肉やドルチェを持って帰ってくるのだ。わたくしなど何度彼らのお世話になったことか。写真右から3番目の白い帽子をかぶったジョルジョ、彼が常にグループの飯炊き担当である。その昔兵役をやった頃も、料理好きが買われて1年間まるまる調理場担当だったらしい。

彼らは毎日2回バールへやってくる。朝一番の仕事前、昼ご飯の後、カフェを飲みにだ。全員がカフェにスプーン1杯のリキュールをたらしたカフェ・コレットを好む。例えばドメニコはアニスの利いたイタリアの食後酒サンブーカ、ジョバンニはストラヴェッキオというイタリア産ブランデーを加える。ちなみにわたくしはどうもこのカフェ・コレットが苦手で、カフェとリキュールは分けて飲むほうが好きだ。
ある日タバコ屋のシモーネが(シモーネはこの修復工事のおじさんたちと友情を深め、いまや無類の友人となっているのだ)「マリコ、ジョバンニがとうとうレッチェから戻ってきたよ。あいつ、背中と腰を痛めてずっと療養してただろう?やっと回復して今日から仕事だよ。今教会の中にいるから、行って挨拶してきたら?久しぶりだろう?」という。早速教会の門を叩き、中に入れてもらった。教会は勿論修復中なので、日曜日のミサ以外、門は閉ざされているのだが、縁故の国イタリアでは、友人知人家族は何でもできるのだ。

マリコ!久しぶりだなあ!元気か?さあ入って、入って。」と真っ先に出てきたのはジョバンニ(左から2番目)。みんなランチがちょうど終わったところだった。というのも彼らは教会の中で昼ごはんを食べるのである。勿論教会にキッチンなどないから、パニーノやサラダや、出来合いのもの、もしくはジョルジョが家で作ってきたものを一緒に食べる。写真の中央には、オリーブオイルのボトル、野菜の酢漬けの瓶、さらに紙パックの白ワイン、ビールの大瓶が1本見える。典型的なイタリアの職人たちのランチ風景である。プラスチックの使い捨て皿やフォークでの簡素なランチだが、テーブルクロスだけは絶対敷く。これなしではご飯が食べられないという。

教会の中でこんなランチが繰り広げられているとは、外からは全く想像がつかないだろう。しかも喫煙OKで、彼らは教会の中で始終タバコを吸っている。しばしの写真撮影でみんなで大騒ぎした後、わたくしたちはバール・アルベルトへと向かった。そしていつものように一人ひとり好みの違う食後のカフェを飲むのである。