ローマ法王

いい加減嫌になる。昨日の午前中は7局がローマ法王追悼式を同時中継していた。どのチャンネルをつけても全く同じ内容、映像に1,2秒の差があるだけで7局が同時中継することに何の意味があるのか。ここ数日イタリアのTVはこんな感じであるが、昨日はさすがにマックスを迎えていたようだ。

しかも報道内容に間違いなく誇張がある。泣き崩れる信者たち、十字架を胸に祈り続けるグループ。わたしの友人など「ほとんどはポーランド人だ」などと言っていたが(ヨハネ・パウロⅡはポーランド人)こんな大袈裟なシーンを演じている人たちは、イタリア人であろうがポーランド人であろうが少なくともわたくしの周囲では見たことがない。

バチカンへ並ぶ人たちに、ジャーナリストがインタビューしている。「君は何でローマ法王に祈りを捧げたいと思ったの?」「えー、だって友達が行こうって。」「ローマ法王のことはよく分かりませんが、偉大なひとだったのでしょう。」「ローマ法王イエ〜イ!!!」と大騒ぎの若者たち。そう笑顔で答える彼らの傍らには涙で顔を埋め尽くしたポーランド人の姿。

勿論敬虔なカトリック信者もいるだろう。しかしバチカンに並ぶ長蛇の列には、どう見てもお祭り気分のひとも多い。さながらローマ法王ツアーである。昨日友人のアンドレアとジュセッペが言っていた。「ローマ法王がなくなったために、イタリア全土から、海外からはるばるローマへ祈りを捧げにやってくる。ポーランドなんか今流通も商業も全部ストップしてるよ、きっと。何よりもローマ法王追悼式が優先されてるんだからな。しかも真面目な信者かどうかも疑わしい。」「そもそもカトリック信者であることと、教会(ローマ法王)に賛成であることとは無関係なんだ。教会というのは一つの政治組織なんだから。」

さらにグッドタイミングで、アンドレアのドイツ人友達が携帯にメールを送ってきた。「明日仕事でドイツからボローニャへ行くから、ペルージャにも寄るよ」アンドレアは早速返事を書いた。「おお、いつでもこいよ!何ならついでにローマ法王にも会いに行ってきたら?」このドイツ人の友達は1行で返信してきた。「僕はポーランド人じゃありませんから」わたくしは決して、決してポーランド人を馬鹿にしているわけではない。イタリアの現状を説明しているだけ、である。

次の法王はいつ決まるのだろう。ジュセッペは笑ってこう言った。「政治選挙と一緒でさ、どうせすぐ決まるよ。政治的な力で。」またローマ法王はある意味犠牲者かもしれない、という人もいる。特にヨハネ・パオロⅡは晩年パーキンソン病を患っていただけではなく、心臓も弱く、体中病が蝕んでいたという。早く業務から開放してあげればよかったのに、という人も多い。なぜ今の今まで全く機能しない精神と体でローマ法王という立場についていなければならなかったかというと「政治」以外の原因は見つからない、とわたくしの友人は言う。

昨日アルゼンチン人の友達に会った。彼はカトリック信者であるが、わたくしにこう言った。「商業的、政治的すぎて馬鹿らしいよ。僕は神を信じるけど、教会には無関係だから。ローマ法王は偉大なひとだったかもしれない。でも彼が神なわけじゃないだろ?あんなに神経がやられるほどに泣き崩れて、生活を乱すなんておかしいよ。カトリックってそんな大袈裟なもんじゃない。自分で信じてればいいだけのことなんだ」

大学前のバール・フランコのカウンターでもこんな会話が繰り広げられていた。「今年は100万人がバチカンに訪れたんだって。27年前の前ローマ法王崩御の時は10万人だったから、10倍だよ。ローマは全く機能してないだろうな。」「いやでも27年前の10倍儲けてんだよ、今ローマに行ったらホテルも倍額、パニーノとカフェで1000円くらいとられるよ。」「いやらしいなあ、おい。」

ああ、今日の夜も明日の朝も毎日洗脳活動のようにローマ法王特集だけか。