恐るべし窓口業務

言い出したらきりがないネタのひとつがこれである。イタリア人の仕事ぶりがどんなに酷いか今まで何度となく書いてきたが、ここでは総決算してみたい。

先日飛行機のチケットを購入したいという友人と旅行代理店へ行った。50歳前後のシニョーラが二人。一人は電話でお喋りの最中、一人はプリンタと格闘している。「ちょっと待っててね、今電話中だから」どうやらチケット探しはこの電話中のシニョーラの担当であるらしい。しかし酷い。どう考えても仕事の電話とは思えない、どんどん続くお喋り。さらに電話の相手は複数であるらしく、次から次へと挨拶が続く。「チャオ〜!どう、元気?復活祭の準備は進んでる?何食べるの?」「チャオ、フランチェスコ〜!もう随分会ってないじゃないの!」

待たされること15分。ようやく我々の元にやってきたシニョーラは「さて、どこ行きのチケットがほしいの?トーキョー?ああ、それなら先日ANAの割引往復チケットの案内見たわ。ちょっと待っててね。資料がここにあるはず・・・あら?どこへ行ったのかしら?」と肝心の資料が紛失した模様。「昨日までここにあったのよ!確か税込みで700ユーロ前後だったと思うけど。今何時?18時過ぎか、ローマの支店に電話して確認したいけどそれじゃあもう閉まってるわね。」「あの・・・別に急いでませんから。大体の価格帯が知りたかっただけです」「そう?明日またきてくれたら、資料は絶対あること間違いないわ。探しとくから。」これは旅行代理店の仕事なのか、それとも旅行代理店ごっこなのか・・・

チェントロの郵便局へ行くと必ず嫌な思いをする。窓口のシニョーラたちの愛想の悪さにである。散々待った挙句、整理券をもって窓口へいく。「ボンジョルノ。」まず挨拶をする、のはわたくしであり、窓口のおばさんはこちらを見もせず挨拶も返さない。「日本に郵便を送りたいんですが」「・・・ここに名前書いて」「は?ここですか?」「・・・」当たり前でしょうと言わんばかりに無言でうなずくだけ。ニッポンの銀行や郵便局の窓口だったらまず「こんにちは、いらっしゃいませ。」で若いお姉さんが迎えてくれる。「お待たせして申し訳ありません」「またお越しくださいませ」「有難うございました」と深々と頭を下げて見送ってくれる。ま、少々サービス過剰なのかもしれないが、これに慣れて育ってしまったわたくしには一々ムカつくイタリアの仕事風景なのである。陽気で明るいラテンなイタリア人等と世の中では言われているが、こんなのは自分たちに有利な状況もしくは楽しいときだけである。
ペルージャ外国人大学内にあるウンブリア銀行支店も酷い。窓口はひとつだけだがそこのお姉さんの愛想の悪さといったらない。郵便局と同じで「グラッツィエ(有難う)」すら言わない。窓口には彼女の携帯が置かれ、私用の電話は何事にも優先される。いつだったか大学の授業料を4か月分納めに行った時、4か月分と言ったにもかかわらず3か月分の領収書を書いていた彼女に「3か月分ではなくて、4か月分払いたいんですが」と言うと「それなら先にそうと言いなさいよ」と怒られた。意味が分からない。そうそう、上記の郵便局もこの銀行も客に対して勿論タメ口である。

以前この銀行の窓口に年配の男性がいたことがある。今ではもう驚きもしないが彼も携帯でお喋りしながらの窓口業務であった。彼のお喋りに5分待たされた挙句、「何の用?(che vuoi?)」と仰ったのである。「大学の授業料と修了証書授与費を払いたいんですが」と言うと、彼は電話の相手に対して「ちょっと待ってて。今仕事はいっちゃった。すぐ済むから」といい、電話は切らずに急いで処理しようと試みた。結果彼は間違えた。勿論わたくしがそれを彼にいうはずもないが、お釣りを20ユーロ(4800円)も多く頂いてしまったのである。馬鹿なやつ。待たされ賃、不愉快な思いをさせられた賃としてこの20ユーロは有難く頂いた。イタリアのつり銭ミスは日常茶飯事であるから、イタリアを旅行される方は本当に気をつけてください。

そしてイタリアで最も酷いといわれるのが、警察であろう。ペルージャ外国人大学の中には、外国人学生だけを対象に滞在許可証発行業務を行う警察の支部がある。しかしここは警察本部に比べたらまだまだまともらしい。イタリア国内においては、である。滞在許可証を取得するためには、いろいろ提出しなければならないものがある。基本はパスポートのコピー、クレジットカードのコピー、大学への授業料振込み領収書、INA保険振込み領収書、顔写真4枚、13ユーロの収入印紙、である。しかし時々、気まぐれでほかにも要求されることがある。

例えば昨年、この滞在許可証更新のために警察を訪れたとき、すでに何度も更新業務を経験していたわたくしはこの全ての提出書類を完璧に用意していった。当然問題なしと信じていたわたくしに、窓口の女性はこう言った。「どうやって生活してるの?」「は?」「生活費はどうしてるの?」「おっしゃる意味がよく分かりませんが。」まさか生活は苦しいですと言えば援助金がもらえるわけでもあるまい。契約なしでアルバイトをして稼いでいることなどとんでもないが言えない。「日本からどうやってお金を引き落としてるかってことよ。銀行のカード?クレジットカード?」「両方です。クレジットカードのコピーはもう提出したはずですけど」「それが有効だってどうしてわかるの?」「有効期限が書いてありますから」「でも壊れているかもしれないでしょう。あなたが普段使っている銀行のカードで今すぐお金をおろしてきて。そしてその領収書を一緒に提出して、このカードが使えることを証明して」「あのう、今までそんなことは言われたことがありません。しかも今銀行からお金を引き出す必要はないんです、手元にまだ余裕がありますから。銀行からお金を引き出すためには当然手数料がかかりますが、そのカードの有効性を証明するためだけに、手数料を支払ってまでお金をおろさなくちゃいけないんですか?」「そうでないと滞在許可証発行できないわ」「この銀行カードを使用した際の領収書がいつから、滞在許可証を更新するための必要書類になったんですか?」「随分前からよ」

長い列を待った挙句、その日は無念にも更新ができなかった。さらに今この窓口は月・水・金の午前中しか開いていないので今日は無理だから明日というわけにもいかない。ちなみに2年半前は毎日開いていたのに。そもそも滞在許可証を更新するのに必要な書類一覧など、張り紙一枚しておいてくれれば問題はないのである。酷いのはこの必要書類一覧をもらう為にも列を作って並ばねばならないことだ。悪用される情報でもないのだから、インターネット上に公開するか、もしくは警察の入り口に張っておくかすれば、間違いなく列は半分に減る。前もって規定されたものを用意して学生はやってくるわけだから、警察側の仕事も激減するだろうに。情報提供、公開の術がここイタリアはまさに発展途上国そのものである。

こんなのは序の口である。警察の窓口は特に、人によって言うことが千も万も違う。例えば大学からほかの私立の語学学校に変えたいのだが、と警察で申告すると「一度日本へ帰ってイタリア大使館で申請しなおして」と言われる。しかし申告せずに何食わぬ顔をして、授業料振込み領収書など全ての書類を持って警察へ行くと普通に滞在許可証を発行してくれることが多い。少なくともわたくしの友人トルコ人やブラジル人はそうだった。「日本人みたいに馬鹿正直に申告するからだめなんだよ。あいつらイタリア人は馬鹿だからさ、何にも言わなきゃ気づかないんだ。」だそうである。この警察の窓口、タバコを吸いながらの業務は日常茶飯事である。窓口がいつも煙でモクモクしていたのを覚えている。「わたしたちはあんたたちの為に滞在許可証を発行してやっている」という態度が丸見えで警察ほど嫌いな場所はない。

しかし、何度もいうがこの警察支部はまだましである。ペルージャ駅の近くにある本部では、滞在許可証を更新するために朝の5時から長い列を作って待たねばならない。整理券が配られることもなく、ただひたすら待つのである。雨が降っても雪が降っても。更にその結果目の前で「本日の業務は終了」と追い返されることもある。外国人大学ではなくイタリア人大学へ通う外国人や、労働許可証の更新をするひとはみなこちらへ行かねばならないのだが、「人を動物以下に扱う」ところとして有名である。

ま、イタリアだから。