ニッポンジンについての質問あれこれ

イタリア生活の中で、イタリア人から受けた「ニッポンジン」についての質問は我々の想像の域を遥かに超えるものである。一つ一つあげてみよう。

「犬の肉食べるって本当?」今まで何回聞かれたか分からない。そのうちの半数はご丁寧にも「TVで特集やってたのよ。絶対犬の肉食べてるって。田舎っぽかかったけど。」と真顔でおっしゃるのだ。大変申し訳ございませんが、田舎でも都会でも犬の肉は食べません。数年前に世界で出版されたワイルド・スワンには、中国共産党毛時代は地域によって犬の肉を食べることもあったと書かれているが、ニッポンでは聞いたことがない。ちなみにラ・ルムエラ(地元で人気のオステリア)のニコリーナが「ねえ、知ってる?昨年ローマで50件もの中華レストランが閉店になったのよ。何でだと思う?抜き打ち検査でね、冷蔵庫から犬の肉が発見されたのよ!」とおっしゃったことがある。ここまでくると何が本当か分からない。ああ、真実はどこに。

「女性は足を成長させちゃいけないんでしょ」「足の骨を潰して成長を止めるんでしょ」これも何度聞かれたことか。1940年くらいまで中国では女性の結婚良縁の条件として存在していたはずだし、幼少時代から足の骨を叩いて痛みを堪えながらも成長を止める、という話は聞いたことがある。しかし、このご時世にイタリアで、実際わたくしの足を見ながらそのような質問をされると言葉を失う。どうやら中国もニッポンも東洋の国は全て一緒にされているらしい。確かに東洋人は西洋人から見ると、外見は殆ど一緒で誰が中国人で誰が韓国人かなんて区別できるものではない。しかし歴史は明らかに違うのだ。

「まだ着物きて生活してるの?」これもよくされる質問だ。あのですな、ペルージャにいるニッポンジンで着物着て生活してるひとがどこにいるんだ?「西洋にいるから洋服着てて、ニッポンへ帰ったら着物に戻るんじゃないの?」有難うございます。違います。イタリアではイラン・イラク戦争ネタを除き、外国のしかも遠く離れた東洋の文化が紹介されるようなTV番組は非常に少ない。海外ネタや旅行番組が多いニッポンとは全くもって異なる。ただ、ニッポンの皇室ネタ、例えば正月の天皇皇后ご挨拶または皇室の結婚式等については必ず報道される。ブラウン管に映し出されるのは十二単を纏った雅子様、更にそこへ仕えるひとたちも(西洋人から見れば)皆着物をまとっているわけだ。この強烈なイメージが現代の誤った認識をもたらすのかもしれない。

ちなみにイタリアでは剣道や柔道を始めとする武術が大変人気で、コースに通うものも多い。そこで着る胴着のこともイタリアでは「着物」と言う。「僕、着物持ってるよ」というイタリア人がたまにいるが、必ず「胴着」か海外旅行で手に入れた「甚平」である。

「食事中に人前で鼻をかむのは絶対やってはいけないこと、スーパーマナー違反なんだろう?」うーん、何故「鼻をかむ」行為だけがこのようにピックアップされるのか分からないが、勿論西洋人のように「チーン」と大きな音をたてて人前で鼻をかむニッポンジンはいないだろう。しかし以前TVのクイズ番組で、「ニッポンで食事中に絶対してはいけないことは何?」という質問を見たときは流石に驚いた。しかも回答は4択制で、一つが「鼻をかむ」もう一つが「途中で席をたつ」、もう一つが「大声で笑う」とかだったような・・・答えは当然「鼻をかむ」だった。

とにかくニッポンでは大きな音を立てることをマナー違反とみなすことが多い。例えば「女性トイレの防音ボタン」、あの小川のせせらぎが流れるやつである。あれこそ超ニッポン的な開発品である。鼻をかむことより「トイレの音」について言及するイタリア人がいたら、「あんた、よく知ってるわねー」と拍手を送るのに。

ゲイシャはまだいるの?」ゲイシャ、ゲイシャ、もううんざりするがニッポンといえばまだまだ「ゲイシャ」のイメージが強いのである。「ゲイシャ」という本もたくさん出版されているし、これはイタリアに限ったことではない。2年前にスペインへ行ったときも友達のスペイン人の女の子が同様に「ゲイシャ」という分厚い本を持っていた。イタリアにも(いつか紹介するが)「ジャッポーネ」というインチキニッポン雑誌があり、いつだったが「最後の女神、ゲイシャ」という記事が載っていた。「西洋男性の永遠の夢、ゲイシャ。教養の高い彼女たちの棲家、仕事場は東京のど真ん中ガラス張りのビルが立ち並ぶメトロポリタンの片隅にある。ここで彼女たち、彼女たちが奏でる楽器や舞踊、そして人力車は歴史を語り継ぐ。ニッポンの政治家や大企業の社長幹部は彼女たちの繰り出すこの音楽や踊りに囲まれて何億の決済や承認を下すのである。」すみません、どなたかコメント頂けますか。

西洋で「ゲイシャ」はもはや絶対的な神秘の女神なのである。ニッポンでは全く言及されないのに海外で異様な人気を博している、その代表例であろう。

思い出した、非常にレアな質問だが2、3回ほどうけたことがあるのが、「ニッポンでは使用後のパンツが売れるんでしょ?」それでは超変態大国ではないか。これに返答するためには、ニッポンのピンク産業について忠実に説明することが必須になるから、非常に難易度の高い質問なのだ。これからイタリアに留学されるニッポンジンの方は少なくとも今回あげたネタに対する返答対策をしておけば、イタリアでそこそこ人気者になれるはずである。