ドーピングあれこれ

昨日アンドレアが「レッジーナ中村俊介が土曜日いいゴール決めたねえ。」と突然言い出したことからジュセッペを含め3人で珍しくサッカーの話になった。「ところで彼はまだイタリア語話せないのかな?まだ聞いたことないね、記者会見で。」とアンドレア。「どうだろうね?まだ数年しか経ってないしね。それにしても中田はペラペラだよねえ。彼は本当に凄い!」とわたくし。「いやでも彼がイタリアにきてペルージャでプレーし始めたのは1998年だから。もう7年だよ。そりゃ話せるよ。」とジュセッペ。「それはそうだけど、彼は外国でプレーするためには、まず語学習得が一番って最初から言ってたんだよ。コミュニケーションがとれて始めてチームプレーができるって。学校にも通ったみたいだし、意識が高かったからきちんと文法から学んだんだと思うよ。」

「そう言えばさ、中田が始めて公式記者会見でイタリア語話したのいつか知ってる?」とアンドレアが話し出した。「2000年にユベントスとの試合で中田が大活躍したときだよ。途中出場でさ。」「覚えてる!それニッポンでも勿論映像公開されたもん。2000年のセリエAは結局ローマが優勝してさ、中田サマサマだったよね!」「その記者会見で中田はなかなかスパイスの効いた冗談で会場をいきなり笑わせたんだよ。あれは忘れられないよ。」

何だ何だ?気になる展開になってきたではないか。記者会見の模様はニッポンでも公開されたが、その気の効いたジョークというのは間違いなく知られていない。説明しよう。中田は記者会見場に現れて席につくなり「水ください」といった。そして運ばれてきたコップ1杯の水。中田は「グラッツィエ。ところでこれ、中にドーピング入ってないっすよね?」と言ったのだ。

これには訳がある。実は数日前にドーピング検査で3人の選手が出場停止処分をくらったばかりだったのだ。イタリアではこのドーピングネタが日常茶飯事である。
数年前もローマのチームにいた2人の選手(当時中田はいなかったが)がドーピング検査でひっかかり、数ヶ月の出場停止となったことがある。しかしこの2人に関して最終的に「ドーピング」を裏付ける証拠、つまりいつ、どこで、誰の手によって薬を服用したのか、が全く解明できなかった。彼ら2人は「僕らはみなローマのチーム。チーム全員が同じメディカル担当についているのに、僕ら2人だけにドーピングにひっかかるようなものを服用させるなんて不可能だ。他の選手がシロなら僕らもシロだ。」と言い張った。結局検査前日に彼ら2人だけが他の選手と異なる行動をとったのは、夜リストランテへ行き、パッパルデッラ(パスタの一種)を食べたことだけ、ではパッパルデッラのソースに何か含まれていたのか?しかしもうその当日のパッパルデッラは存在しないから調べることはできない、と謎のまま幕を閉じたのである。ドーピング検査でパスタのソースが原因かもしれないという結論、聞いたこともないがこれがイタリアである。


更に昔、カフェが原因で出場停止になったサッカー選手もいたそうだ。前日カフェを飲みすぎてカフェインにより血液に多大な興奮値が見られ、これがドーピング検査で引っかかってしまったのである。冗談のようだが本当の話である。「イタリアのドーピング検査は本当に厳しくて、例外は殆ど認められないんだよ。カフェをたくさん飲んだのなら前もって申告しなくちゃいけない。これは選手の義務で、それをしなかったのだから結局彼の責任なんだ」

「イタリアでは常に誰かがドーピング検査でしょっ引かれてるんだよ。酷いのがサッカー選手と競輪選手。しかもドーピングとドラッグは表裏一体なんだ。ドーピング検査でドラッグ常用が発見されることも多いから。」とアンドレア。イタリア(恐らくヨーロッパでは共通のはず)のドーピング検査は血液検査と尿検査からなる。この検査を受けないだけでも出場停止が言い渡される。記憶に新しいのがイギリス・マンチェスターユナイテッドのDFリオ・フェルディナンド。彼はたまたま息子が生まれた直ぐ後に家の引越しがあったこともあって、ドーピング検査をすっぽかしたのである。結果彼に言い渡されたのは「8ヶ月の出場停止」。このため2004年6月ポルトガルで行われたヨーロッパチャンピオンズリーグに彼の姿がなかったのである。また現在セリエAユベントスに在籍のルーマニア人選手アドリアン・ムートゥ。彼はドーピング検査でコカインが検出され、7ヶ月の出場停止をくらった。「マリコわかる?検査を受けなかった選手が8ヶ月の出場停止、コカインが検出された人が7ヶ月の出場停止なんだよ。おかしくないか?イタリアの物差し。」

そう言えば昨年2004年2月14日、競輪選手マルコ・パンターニがコカイン中毒で亡くなった。彼の場合も酷かった。過去ドーピング検査で2度ひっかかった為、報道人が毎日家に押し寄せるようになり、警察もマルコを重要監視下に置いた。ちょっとジョギングへ行くにも買い物へ行くにも、彼らの目を意識しなければならなかった(当たり前だと思うが)。結果ストレスが溜り精神的に圧迫され、当時付き合っていた彼女がディスコなどで仕入れてきたコカインを常用するようになったのである。生活は見事に崩れ、当然この彼女とも別れ、どんどん薬漬けになる一方。彼の最期は典型的なコカイン中毒患者であった。

「そう言えば今から3年ほど前にサッカー選手が40歳代で一人亡くなったんだ。70年代にセリエAで活躍してたんだよ。彼は当時ドーピング常用しすぎた為に、30年後に現れた後遺症で亡くなったんだよ。勿論当時は彼がドーピング常用者だったなんて全く知られてなかったけど。」とアンドレアが言った。ドーピングは常用し過ぎると大脳が犯される。徐々に徐々にゆっくり時間をかけて細胞が壊れていく。大脳が破壊される為に、腕が持ち上がらない、歩けない、口がきけない、などの症状が20年後、30年後に顕れるのだそうだ。この後遺症に関して60年代70年代は全く解明されていなかったのである。

「じゃあ分かんないよね、もしかしたら20年後にトッティに突然この症状が顕れるかもしれないしね。」「そういうこと。でもドーピングに関しては選手もドクターを信じて、出されるものをそのまま服用していることもあるからね。ドラッグと違って自己責任だけが問われるものでもないと思うよ。」それにしてもニッポンではドーピングの話題は殆ど持ち上がらない。ドーピングといえばオリンピック開催時に誰それが試合直前にしょっ引かれたとか、メダルが剥奪されたとか、そういう記憶しかない。

とにもかくも、中田は凄い。会場笑わせるだけのイタリアン・ジョーク、しっかりモノにしてるではないか。しかし何故ニッポンのマスコミはここをカットしたのだろう。