ニッポン大好き!なブラジル?

ルームメイトのカリーナはイタリア人の父とブラジル人の母を持つサンパウロ出身のハーフである。23歳でサンパウロの大学を卒業し、イタリアはペルージャへとやってきた。父親はサンパウロで開業医、つまりブラジルにおいて相当な裕福層といえる彼ら。サンパウロの実家には当然ながらお手伝いさんやプールといった、ニッポン人の我々からするとまるで映画の世界のようなアイテムが全て揃う。

わたくしはカリーナが大好きである。頭の良い女性で自分の意見をしっかり持ち、裕福層出身であるにも関らず「親に迷惑をかけたくない」と生活費は全てアルバイトで賄っている。両家のお嬢さんがバッソイオ(お盆)にビールをのせて毎日パブやバールを走り回る。正直見た目はお嬢さんとは言いがたい。ラテンのリズムで生まれ育った彼女は、おっぱいが半分見えるんじゃないかと心配したくなるような腹出しキャミソールを愛し、お肉がはみ出ようがパンツが見えようがお構いなし。あそこまでいくともう何も言えない。そういうものかと妙に納得してしまう。根本的に楽観主義でとにかく明るいし、同居人としては満点な女性だった。

カリーナは和食が大好きで、わたくしが家で海苔巻きを作るというと毎度毎度大喜びし、ペルージャに住むほかのブラジル人友達を呼んでくる。「マリコが寿司作るから、うち来ない?」その電話で集まってくるブラジル人、というのも凄い。そんなに寿司好きなのか・・・「世界で一番寿司が好き!ワサビの香りがたまらないのよ〜」「和食はヘルシーだしね!サンパウロで寿司屋が何軒あるのか、もはや誰も把握してないよね。ほんと、凄い数よ!」「ペルージャで寿司が食べられるなんて幸せ〜♪」「しかもニッポン人が作るなんて!」「持つべきものはニッポン人の同居人ね!」そ、そうなんすか?

カリーナの親友のある女の子は、わたくしが寿司を作るというと「準備が見たいから早めに行ってもいいか」と聞いてくる。すごい情熱である。メモを片手に酢飯の作り方を凝視し、「せっかくだから自分で海苔巻きやってみたら?」と言うと「え、えええええっ!本当に!わたしが巻いてもいいの!?信じられない、人生初のわたしの寿司よ〜!」と大騒ぎ。泣き出さんばかりの大興奮である。「こうやって具をおいて・・・一気にたたみかけるの。ゆっくりやると崩れるから気をつけてね。」「わ、わかった」あたかも神聖な儀式かのようにふるまう彼女は、もはや寿司の信者だった。当然ながら自分で巻いた作品を、何枚も写真におさめ、「マリコ、有難う!本当に有難う!」と手を握る。サンパウロに残っている彼女のお姉さんも和食にほれ込んでいて、なんとカルチャースクール「和食教室」へ通っているらしい。

ところでサンパウロ和食屋さんで彼女達は一体何を食べるのだろう?「やっぱり寿司。これは絶対。それからテンプーラね。あの天ツユがたまらない〜。あとはお魚のホイル包み焼き。」ホイル包み焼き・・・?わたくしたちにとっては特に基本の和食というわけでもないが、ある意味どの国でもできる便利な調理法かもしれない。カリーナ曰く、最近のサンパウロ和食屋さんではテーブルに醤油の壷がどんと置かれ、とにかく何にでもこれをかけて食べるらしい。しかもニッポンのさらさらした醤油と違い、甘くて濃厚なまるでソースのような醤油だとか。

さて、彼女たちが寿司と同じくらい好きなもの、それが「SAKE」つまり「日本酒」である。和食屋や寿司屋へ行ったら必ず日本酒を飲むらしい。「アルコール度が低くて女性向きなのよ。甘くて美味しいし、お米から出来ているっていうのが何となくヘルシーよね。」「SAKEを使ったカクテルがすごい人気でね、クラブやディスコへ行くと女の子はみんなそれを飲んでる」へぇぇ。SAKEカクテルですか。

ブラジルのカクテルとして知られるのが「カシャーサさとうきび蒸留酒)」を使った「カピリーニャ」。潰したライムを汁ごとグラスに入れ、そこにカシャーサを注ぐ。もはや国際的に有名なこの飲み方は、当然イタリアでもポピュラーで、ライム味だけでなく、イチゴ味やらレモン味やらいろいろバージョンがある。
ただカシャーサは40度前後もある強いリキュールであり、飲みすぎると悪酔いすること間違いない。このカシャーサの替わりに「SAKE」を入れて作るのが「サケリーニャ」で、カリーナ曰く「もはやオリジナルのカピリーニャより、大人気」らしい。(※保守的なイタリアにこのサケリーニャはまだ到達していない)

我々の知らないところで、酒がこのような進化を遂げているとは、驚きである。