いつからチョコレート嫌いになったの、ジュセッペ!?(後編)

barmariko2006-01-25

UN UOMO A CUI NON PIACE PIU' IL CIOCCOLATO
前編をどうぞ先にお読みください)
待ちに待った、ランチタイム。「今日のメニューはなに?」「あんまり特別なものはないんだけど・・・ラザニア・ビアンカ(ホワイトソースのラザニア)と、レンズ豆の煮込みと、サラダと・・・君ら飲むでしょ?じゃあつまみに少しサラミを切ろうか。干しイチジクもあるよ。」「おいおい、ジュセッペ!まだ昼だよ!?僕ら3人で一体どれだけ食べようってんだよ(笑)僕らダイエットしなくちゃいけないっていつも言ってるのに!」とアンドレア。

「ワイン、その棚にあるから飲んで!それさ、先週ニコラが持ってきたんだよ。自家製だってさ。なかなか旨かったよ。少なくともアルコールを飲まない僕がグラス1杯飲んだんだからね。」とジュセッペ。「・・・一つ聞いていいか?何日前に開けたんだ?自家製だろ?旨かったのは分かるよ。でも防腐剤とか何にも入れてないわけだから、そう長持ちしないよ!」と疑心暗鬼のアンドレア。「そう?ま、味見してみて。」と相変わらずマイペースのジュセッペ。「・・・駄目だ。完全にイッてるよ、これ。お前ほんとにイタリアジンかよ(笑)ワインは開けたらすぐ飲めって。」

それにしても、甲斐甲斐しく働いてくれるオトコたちを前に、ほんの少し優越感を感じる。何にもしないで座って待っていることが、イタリアに来たばかりの頃は気まずくて出来なかったのを思い出す。とりあえず立って、キッチンに立つ人の傍へ行ったり、話かけたり、見守ったり、お皿を出したり。その度に「マリコ、ニッポンジンにならなくていいよ」とよくからかわれたものである。時がたつのは早いもので、この空気にいつのまにか慣れてしまった自分がいる。

ところでイタリアジン男性全員が料理を知っているわけではない。パスタ一つ作れないひとだっている。(フランチェスコ参照)しかし「料理をする男性」の絶対数が、ニッポンに比べると非常に多いのは事実である。さらに「料理はできないがウンチクはたれる」絶対数となると総人口の9割くらいにまで上るような気がする。(そう思うのはわたくしだけ?)
さてラザニア・ビアンカを一口。「・・・美味しいよぉ」と言ってみる。しかし。重い。間違いなく、ジュセッペ風である。「どうやって作ったの?レモンの香りがするね」「まあ、普通の作り方なんだけどね。リコッタチーズとほうれん草にレモン果汁と皮を少し入れて、ベシャメルソースと重ねたんだ。あとはラザニアと同じ。オーブンに入れてさ。パルミジャーノチーズをかけてね。」(しまった聞くんじゃなかった・・・)アンドレアを見ると「美味しいなぁ!」とぱくぱく食べている。さらに何とおかわりまでしているではないか。(つぅかあんたら、本気でダイエットする気あんの?)

マリコももっと食べて!ほら!ニッポンじゃなかなか食べられないでしょ?」「あ、ありがとう。でもわたし、大好きなレンズ豆のためにお腹を残しておきたいから・・・」そういってやんわり断る。一口目は美味しい。しかし後がなかなか続かない。まあわたくしはプロではないから、こうも好き勝手いえるのだろうが、それにしてもこの手の料理を「重く」感じさせずに作るのがプロの仕事なのだろう。プロってすごい・・・と別のところでついつい感動しているわたくし。

レンズ豆はとても美味しかった。どこか懐かしい味である。「ボニッシモ!(美味しすぎる!)コクが出てるけど、肉っぽいもの何か入れた?」「パンチェッタの端っこが残ってたからね、砕いて入れたんだ」「やっぱり!ほんと、美味しくできてるよ。ブラボー!」もうこれ以上入らないってときに、思い出してしまった。わたくしたちが持参してきた手土産のドルチェを。(しまった・・・あんな生クリームたっぷりのケーキを持ってくるんじゃなかった・・・せめてジェラートにすべきだった!)

それほど甘いものを食べる習慣がないわたくしにとって、このドルチェだけでもかなりの迫力である。ましてやその前にラザニアやらレンズ豆やらをたらふく食べたのだから、もうこれ以上お腹には何も入れられません、というわけでわたくしはウン・ペッツォ(一切れ)だけ頂くことにした。「ジュセッペ、ゴローゾ(甘いもの好き)なアンタのために買ってきたのよ。さあ、遠慮しないでどんどん食べて!」


そりゃ、そう言いますとも。一応。しかし目の前で、この2人のオトコたちが、あのランチの後、こうも簡単にこの重い重い重いケーキをパクつくのを見ると、一瞬言葉を失う。(胃腸の仕組みが違う)と納得する。だからなのだ。例えば「ピーマンは重い」というイタリアの迷信のようなものが、わたくしにはどうにもインチキくさく響いてしまうのは。「重い」ってそういうレヴェルじゃないでしょ。そんなヤワな体じゃないでしょ。「重い」もの、食べ慣れてるはずでしょ。

アンドレアもジュセッペも、この大きなドルチェを1個半ずつ平らげた。それでもまだたくさん余っている。「ジュセッペ、これ全部置いてくから。今日の夜また食べて、明日の朝ご飯に食べたらもう無くなるでしょ?ね、食べてね。」「いや、チョコレート系は遠慮しておくよ。チョコレートはどうもね・・・重くて。クリーム系はあり難くもらうけど、チョコレート系はマリコが持って帰って。」

ジュセッペを凝視するアンドレア。「へぇぇぇぇ。お前がチョコレート食べられないなんて、もう付き合って随分経つけど、今初めて知ったよ。いつから?」目が完全に面白がっている。「いや、いつからっていうか・・・最近ちょっとね・・・チョコレートはどうもね・・・」言葉を濁すジュセッペ。大した理由はないのだろう。「僕ら一緒に住んでたとき、お前よくチョコレート買ってたよなぁ?今回のチョコレート嫌いはいつまで続くの?」

アンドレアがからかうのも分かる。思えば一昨年の冬。アンドレアが実家に帰省したとき、彼のマンマは「いつもあなたがお世話になっている、チョコレート好きなジュセッペに、これを渡して」といって、チョコレートケーキを1ホール焼いたことがある。もちろん、ジュセッペはあっという間に平らげた。

「ところでさ、エスプレッソ飲む?僕は飲まないけど、カフェッティエラ(手動のエスプレッソポット)あるから、淹れるよ?」と話を変えたがるジュセッペ。「おお、まさに体が欲してるとこだよ!でもお前エスプレッソ飲まないのに、何でカフェッティエラ持ってるの?エレナ(嫁)は飲むんだっけ?」「いや、彼女も飲まない。僕らは2人そろって”タバコ””アルコール””カフェイン”を摂らない、出来すぎたカップルなんだ。まあ確かに僕らはエスプレッソ飲まないけど、こうやって友達を招いたりする以上、カフェッティエラは必要だろ?9割のイタリアジンはエスプレッソ漬けなんだから」

見ればちゃんと、エスプレッソ用のタッツァ(カップ)も揃っている。本当に出来たヤツである。「おい、ジュセッペ!お前このカフェッティエラ、最後に使ったのいつ!?」エスプレッソを一口含んだアンドレアが叫ぶ。「えーっと・・・いつかな?ニコラが来たときかな?」「・・・分かったよ。つまり覚えてないくらい、前ってことだな。不味すぎるよ、これ。鉄の味がするよ!あのさ、毎日使わないんだったら、カフェの粉は詰めたままにしなくちゃ。洗っちゃ駄目なんだ、カフェッティエラの金属的な臭いが染み付いちゃうから。全く、さっきのワインといいカフェといい・・・お前ほんとにイタリアジンか(笑)?」

ジュセッペはいつもこうなのだ。愛すべき、キャラである。