ちょっと、まだ飲んでるんだけど!

CHE FAI!!!LO STO ANCORA PRENDENDO!!

バカンスの合間をぬって、1日ローマへやってきたわたくし。それはテルミニ駅近く、とあるバールで起こった。見た目は小奇麗な明るいバール。ショーケースにはパニーノやトラメツィーノ、タルトやクッキーが並ぶ。正面に大きなメニュー表があり、何をどこで注文してよいのか分からない生粋のイタリアンバールというより、ニッポン上陸したセガフレドのようなマニュアル化された店のようである。スタッフは制服を着ているし、恐らくFC展開しているバールだろう。

最近カフェばっかり飲みすぎてどうもいかん、ということで、ホットレモンティーを注文する。レジで会計を済ませ、飲み物ができるのを待つこと2分。ふん、やっぱりイタリアでサービスされる紅茶ってのは、どうせどの店もティーパック。紅茶1杯2ユーロの店だって、1杯10ユーロのヴェネツィアサンマルコ広場のバールだって同じ。紅茶の葉で丁寧に入れてくれる店なんぞ、イタリアではまだまだ少ないのだ。

しかも許せないことに、このローマのバールでは、紅茶のポットすら付いてこなかった。出されたのはお湯と一切れのレモンが入ったカップ。(ただのお湯の中にぷかぷかレモンが浮かんでいるのは、一瞬ギョッとするものである)紅茶ってのは熱湯に注がないと駄目なのに!これじゃ冷めてしまうではないか!大事なのは蓋をして蒸らすことなのに!何も分かっちゃいない、どうせあんたらのコダワリはエスプレッソだけだよ。

ま、分かってて頼んだのだから仕方ない。お湯の中にティーパックを落とす。しかし蓋はないし湯も冷めてるしでなかなか紅茶色に染まってくれないので、ムギュウとスプーンでティーパックを押しつぶす。3分経って待ちきれず一口。やっぱり。思ったとおり。ぬるい・・・

まあ、我慢である。それでも今日はもうカフェは飲みたくないのだから。文庫本を取り出し読みふけること15分。そこへ友人のロセッラから電話がかかってきた。「チャーオ、マリコ!今どこ?いつ帰ってくるの?昨日のチェナ(夕飯)なんだけど・・・」ロセッラは喋り続ける。そこへお盆片手に空いたグラスやカップを片付けている店員がやってきた。わたくしのテーブルにくしゅっと丸められた、ティーパックの紙切れと砂糖の袋を見ると「POSSO?(ポッソ?=これ、もういい?)」と聞いてくる。
つーかあんた、わたくし今電話中なんですが。今捨てなくちゃいけないものなんですかね、そのゴミ。まあこういうのはイタリアでは至って当たり前のことであるため、「Si,prego(スィ、プレーゴ=ええ、どうぞ)」と片手のジェスチャーで伝える。何度も言うが電話中で手と口、離せませんから。

しかしこのオナゴ、何をどう勘違いしたのか、わたくしの飲みかけのカップの中にボチャンとそのゴミを入れ、カップごと下げようとしたのである。「!??????」な、何すんのよ。まだ紅茶入ってるじゃないの!「ASPETTA!LO STO ANCORA PRENDENDO!!!(ちょっと、まだ飲みかけよ!)」わたくしはまだ話中の携帯を思わず口元から離し、訴えた。

そして。なんということか。このオナゴはわたくしに向かって(何よ、この客)と言わんばかりに両手を大きく広げて大きくため息をつくではないか。そして「持っていっていいかって聞いたら、イエスって言ったの、あなたじゃないの!」とこともあろうに抗議してきたのである。「あのね、わたしがイエスって言ったのは、こっち、この紙くずのこと。」「だったらそう言ってちょうだい!」「言わなくてもわかるでしょ、紅茶はまだ飲みかけなんだから!」

オナゴはむっとしていたが、だまってそのゴミが浮いた紅茶のカップを下げると、2分後また新しいカップを持ってやってきた。このとき、もし一言でも謝ってくれたら、「まあこのオナゴも典型的なイタリアンガールってことで大目にみてやるか」と思えたのに。わたくしは驚愕の事実を目にした。オナゴが運んできたのは、カップ1/3のお湯と新しいティーパック。つまり、わたくしが残していた量に相当するお湯を、カップに入れて持ってきやがったのである。

当然、そこには謝罪の言葉もなく。カップを置くとぷいっとどこかへ下がってしまったローマのオナゴ。敵意すら感じられる行為である。そもそも、カップに紅茶が残っている時点で「POSSO?」と聞いてくる、その意味が分からない。駄目にきまってるじゃないか。飲んでるんだから。

わたくしは言いたい。お湯がナンボのもんだというのか。確かにわたくしは半分以上飲んでいたが、それにしてもあちらのミスで嫌な思いをしたわけで。アツアツのお湯を並々と入れてきてくるべきではないのか。あのオナゴ、全然回りが見えていなかった割りには、紅茶がどれくらい残っていたかはしっかり把握しているという、何ともいやらしいヤツである。

全く、カップ1/3の微々たるお湯に、新しいティーパックを注いで、美味しい紅茶が飲めるか。みみっちいママゴトじゃないんだから、そこには紅茶もあったもんじゃない。あのオナゴ、どうせカウンターに戻って「ちょっと、コレ中捨てて新しいお湯入れてくれる?変な東洋人がさぁ、訳わかんないこと言ってんのよ。あっ、駄目よ。お湯は半分以下にして。飲み残ってたのはせいぜい1/3くらいだから。」などとバリスタに頼んでいたのだろう。

間違うことが駄目なのではなく、謝らない、認めない、客を敬わない、そういう態度が嫌いなのだ。あら?いつの間にかイタリア一般論になってきているような・・・まあいろんな人がいるわけで、そりゃあ海を渡った瞬間、ニッポンの常識はもはや常識でなくなるのは当たり前である。しかし。毎度毎度ブログのネタをご提供くださる国民である。