パネットーネの季節がやってきた

barmariko2005-12-03

PANETTONE

12月ともなると、イタリアのスーパーや商店はのきなみPANETTONE(パネットーネ)を山積みにする。PANETTONEとは、イタリアで古くからクリスマスのドルチェとして愛されてきた、ふわふわの甘いパンのことだ。とにかく大きくてボリュームがあり、見た目はケーキのよう。

この時期、各お菓子メーカーやパスタメーカーはこぞってこのパネットーネを販売し始めるのだが、全くイタリア人というやつは、この大きな代物を何箱も、そりゃあ何箱も買いだめするのである。味もプレーンタイプのものから、ドライフルーツ入り、レーズン入り、チョコレート味、生クリームたっぷりタイプ、イチゴ味、シナモン味・・・と千差万別。値段も1キロタイプでそれこそ500円くらいからあるので、ちょっとしたお土産にも非常に便利だ。また作り方がちょっと繊細で、なかなか上手に仕上げるのは難しいらしく、イタリアでも家庭でマンマが用意することは滅多にない。一般的には、市販品を購入する。

そもそもPNETTONEの語源は何か?実はこれ、北イタリア発祥の自然酵母の名前である。生まれたばかりの子牛が初乳を飲んだ後の腸内物質から取り出した菌を、小麦粉と混ぜて作るものだ。当然ながらこのパネットーネを使って焼いたパン(焼き菓子)に限って、PANETTONEと呼ぶことが許される。この酵母は極めて保水性、防腐性に優れており、その”日持ち”能力は凄まじい。食いしん坊のイタリア人がクリスマスの1ヶ月も前から、しこたま買いだめし始めても、クリスマス当日に依然美味しく食べられるのだから。

イタリア人はクリスマス休暇と称して、12月も半ばになると、どんどん帰省し始める。というわけで帰省前に一度みんなでディナーでも、という非常に自然なノリで、12月半ば〜クリスマスにかけてはホームパーティが頻繁に開催される。そして最後は「BUONA VACANZA!!(よい休暇を!)」「BUON NATALE!!(よいクリスマスを!)」という台詞と頬にダブルで交わされるKISSで締めて、それぞれ実家へと帰省するのである。
このパーティに必ず、いえもう本当に必ず登場するのが、PANETTONEなのだ。5人いれば2人は持参するといっても過言ではない。しかし実はわたくし・・・PANETTONEが苦手なのである。12月中、我が家でご飯を作ってみんなを招待するたびに、必ず誰かがご丁寧にもこのPANETTONEを持ってきてくださる。わたくしは「グラッツィエ!」とそれを笑顔で受け取りながら「ゲ、またかよ・・・」と舌打ちする。

そもそもこの市販のPANETTONE、わたくし的には大味で、パサパサしていて(ふわふわ、がウリらしいが)・・・そもそも大きすぎてこれを毎日食べ続けるのかと思うと、ウンザリしてしまうのである。12月中、わたくしの家のキッチンには、誰かが置いていったPANETTONEが常に2箱くらいは放置してあり、それを目にするたびにストレスを感じてしまうくらい、重荷であった。そんな大げさなと思うでしょうが、そもそもクリスマスの伝統菓子が、工場生産されたものであること自体、ネガティブな感情を抱いてしまうのである。勿論、街中のパン屋さんやお菓子屋さんに、手作りのものが売られていることはある。しかし、イタリア全土で流通しているのは、この工場生産の市販のヤツなのだ。

とはいえ、かわいいなぁと思える、ポジティブな部分もある。この市販品の箱入りPANAETTONEには、付属品として透明ビニール袋と粉砂糖が入っているのだが・・・PANETTONEを箱から取り出したらまずビニール袋に入れ、粉砂糖を加えて口を固く縛る。そして袋ごと縦横自在にふり、砂糖を均一にふらせるわけだ。(から揚げの衣付けのようなものである)この一瞬が、パーティでは結構盛り上がったりする。粉砂糖を均一につけるのが、まるで非常に大事な任務であるかのように、この大役を仰せつかったひとは皆からの注目を浴びる。こういうシーンが、イタリアの喜劇映画を見ているようで、わたくしは好きである。たまにこのビニール袋に穴があいていて、粉砂糖がもれたりするのも、イタリアらしい余興ではないか。

ちなみにわたくしの周囲では、PANETTONEに対して、こんな悲観的な感想を持っているひとはいない。ペルージャに住むニッポンジンの友達たちも、このPANETTONE文化を快く受け入れて、12月は「PANETTONE月間」として毎日のようにこの怪物を食べていたりする。「MOTTAのチョコレート入りのが美味しい」等と評価もさまざま、なかなかどうして楽しんでいるようである。