カラオケパブ

皆様、お久しぶりでございます。2週間もブログが更新できずに大変申し訳ございません。何だか多忙な毎日で、帰宅してからPCを開く暇もなく・・・今週末こそは!と思いきや、もう日曜日となってしまいました。忙しさを理由にするようでは、まだまだ大人になっていない証拠ですね。

さて、今回はイタリアの、いやペルージャの(もしかしたらペルージャという田舎町だけの事実かもしれない)カラオケパブがどんなものなのか、ご説明したい。去年の今頃、いつものようにバール・アルベルトで店番をしていると、隣のタバコ屋シモーネがやってきた。「おい、マリコ。今日の夜は暇かい?仕事の後予定あるか?教会工事の奴らとカラオケパブに行くんだけどよ、一緒に行かねぇか?」「カラオケパブ?ペルージャにそんなものあるの?行く行くー!」わたくしはノリノリで返事をした。

そもそも「カラオケ」という言葉は、イタリアでも日本語そのまま「カラオケ」である。昔ペルージャに来たばかりの頃、スペイン料理屋で「カラオケ・パーティ」というのがあり、興味本位で覗くと、店の中央には20年くらい昔の黒々とした「カラオケ・マシーン」が置かれていた。これがイタリアでのカラオケとの最初の出会いである。とはいえ、ニッポンのように何千曲とインプットされているわけもなく、相当メジャーなイタリア語曲か英語曲(しかもROCK中心)であるため、楽しむには限度がある。とういわけで、今回のシモーネ隊長によるカラオケパブツアーも、「ま、皆で行けば楽しいし」くらいの軽い気持ちで、期待などこれっぽちもしていなかった。

・・・のはずが。とんでもなかった。まずシステムが違うのだ。ニッポンのようにカラオケボックスは存在しない。小部屋に分かれている様子は微塵もない。仕切りすらない。店内に入るとそこは一見普通のパブなのだ。テーブルが10席ほど並び、ビールやらワインやら、食後酒やらを楽しむ客で賑わっている。客層は、若者から熟年層まで幅広い。40代、50代もちらほら見える。上を見上げると、カラオケボックスに置かれるTVモニターが四方に並ぶ。そして・・・店内一番奥に備えられた、何だありゃ?DJブース?

このとても異質なDJブースに、でんと構えるのは本日のDJマッシモ。「ねえ、何でカラオケパブにDJがいるの?彼は何をするひとなの?」シモーネが得意げに答える。「何ってあいつが今夜のカラオケパフォーマンスをするDJなんだよ。実はマッシモは俺の同級生でよ、すげぇブラボーなんだよ!」そう言うや否や、大声で声援を送る。「ブラボーーーーー!マッシモーーー!」

何かが変である。DJマッシモは客の声援にいちいち挨拶をしながら、イタリアの70年代ロックを歌い続ける。これってディナーショーのノリじゃないか?TVモニターには、それらしきクリップが流れる。客は大騒ぎ、マイクが各テーブルを回り・・・え?よく見ると、客席を3本のマイクが自在に回り、歌いたい人が勝手にマッシモそっちのけで歌っているのだ。
我々の席には、何とマイクどころか冊子まで回ってきた。あれだ、カラオケボックスにある歌謡曲全集の冊子である。コードをひろって歌を登録するための、あの冊子である。おおお、イタリアにもあるのか、と感動している場合ではない。冊子を手にした客は、当然ながら好きな歌を調べる。そこに規律もマナーもあったものではなく、10席以上あるテーブルから、どんどんリクエストが入るのだ。

しかも凄いのは、ニッポンのような登録用リモコンなど存在しない。客は冊子を見てリクエストしたい曲のコードと名前を紙に書き、ウエイトレスに渡し、それがDJに伝えられるのだ。超アナログである。そのリクエストを見たDJは得意気にマシンをいじって登録する。彼だけの特権というやつだ。勿論DJの知らない曲をリクエストする客もいるのだが、そうなると不幸なことにその曲はスキップされる。「俺、知らねーんだよ」で終わりである。運がよければ「じゃあ、お前歌いな」とその客がメインで歌うことを許されたりもする。

「冊子をこっちへよこせー!」「マイクはどこだー!」テーブル間で繰り広げられる合戦。
店内にマイクはあと3本あるから、DJと声を合わせて歌うことができるのは、マックス3人まで、その大騒ぎぶりはご想像頂けるであろう。

ニッポンのカラオケはボックスごと、つまりグループごとに楽しむものであるが、ここペルージャでは、店全体が一丸となって楽しむスーパー大掛かりなイヴェントなのである。いやしかし・・・この模様はどこかで見たことがある。結婚式の2次会で酔っ払った親戚のオヤジたちが、各テーブルを回って歌い続ける、あの風景そのものなのだ。

ニッポンジンがカラオケへ行くと、相当酔っ払って皆で大合唱ということにならない限り、多くの人は技を競いたがる。誰かが熱唱しているときは、皆はそれを聴く義務があり、勿論デュエットも存在するが基本的に個人戦である。イタリア(ペルージャ?)の場合、そのルールは完全に覆される。店全体の大きなイヴェントがカラオケであり、その日のDJがその歌唱力でもって盛り上げ、客はテーブルに回ってくる冊子とマイクで参加するのである。完全に団体戦だ。誰にも分からないようなマイナーな歌を登録する客は皆からブーイングされ、ヴァスコ・ロッシなどの超メジャーな歌を選曲するものが褒め称えられる。なぜって、客は歌いたいのだ。いやむしろ、合唱したいのだ。

この日DJマッシモは夜の21時から明け方3時まで歌い続けたそうだ。そこらのディナーショーより体力勝負である。