トイレの音

IL SUONO NEL BAGNO
イタリアで(というよりニッポン以外の国ではどこでも、同じ反応が返ってくるだろうが)「ニッポンの女性トイレには音消しボタンがあるんだよ。”音姫”っていうの。小川のセセラギの音がするんだよ」と言うと、100%皆さん言葉を失う。わたくしは既に数え切れないくらい、このニッポン文化が生み出したヘンテコなものについて説明しているので、外国人の反応については実証済みであり、確かである。ちなみに”音姫”をイタリア語で説明するとき、わたくしはいつも素直に直訳するのでこうなる。「音=suono(スウォーノ)」「姫=principessa(プリンチペッサ)」すると彼らはこう聞いてくる。「で?音と姫とどう関係があるの?」

この先わたくしは詰まってしまう。名前の話にまで触れなきゃよかったと後悔する。「la principessa di suono」つまり「音の姫」なのか、単語を入れ替えて「il suono di principessa」つまり「姫の音」なのか。どっちが本当なんだ?漢字で書けば、何となく目でみて意味を理解する、というか感じることができるのだが、イタリア語で説明するとなると勝手が違ってくる。文法的に正しく意味づけされなければ彼らは理解してくれない。
「だからさ、お姫様はオシッコなんかしない、って思いたいでしょ。(思ってないかもしれないが)美しいお姫様がトイレに入って、ジャーって音がしてきたら、何だか理想が壊れるでしょ。お姫様のオシッコの音はまるで小川のせせらぎのようでなくちゃいけないのよ。だからあの音はお姫様の音なの。」自分で説明していて意味が分からなくなってくる。物すごくいい加減なことを言っているかも、とさすがに罪悪感を感じる。「どうでもいいんだって。とりあえず、ニッポンの女性トイレに入ってごらんよ。小川のセセラギが、あっちからもこっちからも聞こえてくるんだよ。」「へぇぇぇぇぇぇ!!」

「でも何で音を消すの?」ほらきた。はいきた。予想通りの質問である。「恥ずかしいから」「恥ずかしいって・・・人間として当たり前のことじゃないか!」「それは確かにそうなんだけど、ニッポンの場合、トイレで音をたてることが、”恥”みたいに思われてるんだよ。それが進化して一つの”マナー”にまでなってるんだから。ボタンがないトイレだとね、多くの女性は2度流したりするんだよ。1回目は音消し目的、2回目は本流し。まあその節水の意味もあってボタン式が生まれたんだけど」「・・・・。」

今まで色んな国の子と同居生活をしたが、確かにトイレの音を気遣う国民はニッポンだけである。中国、韓国はどうなのだろう?アジアはやはりその傾向にあるのだろうか?2年前にスペインへ行ったとき、スペイン人のオンナ友達カルメンの家に居候していたのだが、何が驚いたって、そりゃトイレである。もはや音など問題ではない。丸見えなのである。勿論トイレにドアはあるのだが、誰も閉めない。お母さんも、妹も、わたくしの友達も。(スペイン人がみなそうなのではない。別の友達は几帳面に鍵まで閉めていたから)

カルメンのお友達も皆そうだった。わたしたちは海辺に別荘を持つお友達の家に泊まりにいったのだが、わたくしが洗面所を使っていると、ズカズカとその子が入ってきて隣でパンツを下ろすのである。そしてジャーッとやる。あちらのトイレと洗面所は大抵一緒になっていて広めである。ニッポンのようにトイレだけが独立している形は殆どない。だからといって、あなた、わたくしが洗面所を使っているときに何もトイレを使わなくたって。確かそのときは女の子が4人ほどいたのだが、2人が化粧、1人が歯磨き、1人がオシッコ中、というようなニッポンでは考えられない状況だった。

ところ変われば、である。しかし世界に照準を合わせると、「ニッポンジンのほうが奇異」と見られることが多いかもしれない。