カリーナの彼氏(後編)

IL RAGAZZO DI CARINA

前編はこちら!id:barmariko:20050903
35歳。イタリア人。学生。ニッポンならギョッとされるが、ここイタリアではいたって普通である。さすがにカリーナの彼氏ロレンツォのように35歳いうのはイタリアでも遅い部類に入るだろうが、「30歳学生」であれば、そこら中にゴロゴロしている。「あら〜、ちょっとノンビリ屋さんだったのねぇ〜」くらいの印象しかもたれない。例えば。親友アンドレアの家は4人の男性が共同生活している。今年30歳が3人、今年31歳が1人。この中で無事社会人であるのは、今年31歳のジュセッペだけである。あとはみな、大学生。それも、遊びまくってチャラチャラしている学生、ではない。ご存知アンドレアは非常に真面目で神経質な人間であるし、他の2人も同様である。毎日毎日勉強している。しかしながら、学生なのである。

というわけで35歳学生のカリーナの彼氏、ロレンツオ。カリーナは23歳で大学を卒業している。ロレンツォはさらに12年費やしても卒業できない。というか卒業する気がないのであろう。大学へは一切行かず、そのままアルバイトでパソコン関係の仕事をしている。しかも大学の事務課で。(せめて卒業できたやつ、雇いなさいよ・・・)月に稼ぐお金はたったの700ユーロ前後(約9万円)、家賃が600ユーロの家を借りているから、それで全て終わってしまう。と思いきや・・・「信じられないのよ、家賃は全部親が払ってるの。勿論光熱費もよ。ロレンツォは請求書が届くと、実家に帰って親を銀行へ行かせるのよ。毎月のアルバイト料は何に使ってるかって?ビリヤードと飲み代、ご飯代。」とカリーナ。おい。というと何か?彼は35歳にもなって、ビリヤード代を稼ぐためにアルバイトしてるっていうのか?

基本的にカリーナはロレンツォの家で寝て、週末だけ我が家に帰ってくる。「ロレンツォは週末になると実家へ帰っちゃうから。」これも、典型的なイタリア人のなせる業である。ロレンツォの実家は、ペルージャから車で30分ほどの美しい古都スポレートにあるが、土日は必ず、実家の母親のもとで過ごす。復活祭のお休みや、クリスマス休暇もしかり。最低10日は帰ってしまうのだ。そんなとき、カリーナは当然我が家に戻ってきて、そして愚痴りだす。

去年のクリスマス前日のことだった。「マリコはクリスマス日本へ帰るのよね?じゃあわたしは一人ぼっち。ロレンツォ?いるわけ無いじゃないの。先週からクリスマス休暇で実家に帰ってるんだから。わたしのファミリーは敬虔なカトリック信者だから、ブラジルでのクリスマスはいつも家族みんな一緒なの。わたし、今まで生きてきてクリスマスを独りで過ごしたことないんだから!今年は本当に寂しい。両親もそれをすごく心配してて・・・クリスマスに独りでご飯食べて独りで眠るなんて、って言ってた。わたしたちにとってクリスマスはやっぱり特別だから。」

何だかんだいっても、カリーナはまだ25歳、遠いブラジルからやってきた身寄りのない外国人である。いくらクリスマスだからって、自分だけさっさと実家に帰りやがって、お前それでも彼氏か?とわたくしはフツフツとロレンツォに対する怒りに燃えた。
そしてある日。というかある明け方。わたくしがダウンタウン(近所のパブ)での仕事を終えて家に戻ってくると、カリーナがトイレで顔を洗いながら泣きじゃくっていた。朝の4時半にである。「どうしたの!?何かあったの?ケンカでもしたの、ロレンツォと?」とわたくし。

「もう信じられない。先週からずっとわたしの両親がペルージャに遊びに来てたでしょ?勿論わたしに会いにだけど、彼らはロレンツォにも会ってみたかったのよ。わたしのファミリーはオープンだし、わたしがロレンツォと付き合ってるのも、毎日彼の家で寝ていることも全部知ってるの。だから挨拶がしたかったの。でも、ロレンツォは忙しいとか、都合がつかないとか、何だかんだいって、結局会ってもくれなかったのよ。10日もあったのに、一度も。ビリヤード行く暇はあるのに!わたしの両親は明日もう帰国するの。彼らの怒り、分かるでしょ、マリコ?そんな男やめちまえ、とかお前は目がくらんでるとか、以前とは打って変わってもうロレンツォのこと言いたい放題。でもそれを本人に言うわけにもいかないし、わたしだけが、間に立ってああでもない、こうでもないって画策して。やってらんない!」

「そんなやつ本当にやめちゃいなよ!最低だよ!誠実さがないじゃないの!あんたは賢くて、一生懸命で、バイタリティがあって、少なくともロレンツォみたいなチンケなイタリア人に比べて本当に真剣に生きてるのよ。ロレンツォより12歳も年下なのに、家賃も生活費も自分で何とかして稼いでる。若さもある。やつなんか、あんたの足元にも及ばないし、はっきり言って不釣合い。やめちゃえ、そんなやつ。」「でも、でも・・・わたし愛してるのよぉ〜。」はー。いつの時代も、どの国にも、こういう話はあるものである。とにかくこの日(というか朝)、わたくしは朝6時までカリーナの話に付き合った。

わたくしはロレンツォが大嫌いだ。ヤツが我が家にくると、わたくしは自分の部屋に引っ込む。以前カリーナがロレンツォから貰ったというバースデープレゼントを見せてくれた。それは1枚のCDだった。ジャケット写真は・・・なんだ、こりゃ。象さんのかわいい刺青じゃないか。「それ、ロレンツォのお腹、おへその近くにある刺青なの。彼ったら、それを自分でデジタル写真にとって修正して、文字を入れてCD用のジャケット写真にしちゃったのよ♪」キモい発想。よく見ると写真の刺青の上に「かわい子ちゃん」と何故かスペイン語で書いてある。まったくこれでは20年前のボーイや氷室恭介の世界である。

言いたいことは、だ。ロレンツォがわたくしの彼氏でなくて本当によかった、ということである。そして、賢い女の子に限って男を見る目がない、というのは万国共通であるということである。