投げるな、お金を!

barmariko2005-08-21


まただ。またお金を投げられた。ここ4ヶ月ニッポンに滞在していたために、こういうイタリアン・シーンに対する免疫力が低下しているのだろう、わたくしにとって衝撃のシーンであった。無償に腹が立つが同時に諦めもある。それはペルージャ駅近く、イタリア国内で比較的大きくチェーン展開している化粧品屋でだった。わたくしは友人へのお土産に、イタリア化粧品メーカー「PUPA」の秋新作コスメパレットを購入しようとレジへ向かったのであるが。

レジの女の子は電話中だった。店の電話を使っているが、超タメ口であるから恐らく私用であろう。わたくしがレジに商品を持っていったにも関わらず、受話器を置くこともしない。肩をあげて頬の間に電話を挟み、手はレジを打ったり商品を袋に入れたりと動いているが、口は休むことを知らない。喋りっぱなしである。そしてなんとお釣りを、投げたのである。ポイっと。わたくしに向かって。さあ、これでわたしの仕事は終わりよ、持ってきなお釣り、と言わんばかりに。チャリン、と転がるセント玉。

お金を投げる人間は大嫌いだ。そもそもニッポンで普通に生活していればそんな光景はなかなか目にするものではないが、悲しいかなイタリアではよく見かける。バールで、パブで、スーパーで。わたくしはバールやパブで働いていたから、店側だけでなくお客側にもいかにそういう人が多いか知っている。「3ユーロ50セントになります」「4ユーロでいい?」チャリーン。転がるセント玉。投げるな、お金を!

自分が馬鹿にされたような、見下されたようなそんな憤りを感じるだけではない。お金を粗末にするな、という一つの教養であることは勿論、ひととして「誠実さ」に欠ける行為であると思ってしまうのだ。

思い出した。今回のバカンスで、ニッポンを出発してローマに着いたとき、入国審査でパスポートチェックのために「EU圏外」窓口に並んでいた。ようやくわたくしの番がきて、窓口へと歩み寄りパスポートを提出すると、係りのお兄ちゃんは加えタバコだった。オイ。煙に目を細めながらわたくしのパスポートをチェックし、そして・・・ぽいっと投げて返したのである。パスポートを。

今までイタリアに住み、どれだけ労働ビザや学生ビザや滞在許可証を取得するのが難しいか、身にしみて分かっている。だからわたくしたちにとってこういった書類というのは、本当に大切なものである。パスポートだって同じ。あのオトコの、タバコをくゆらせながらのあの行為は、本当に屈辱的だった。大袈裟ではなく、自分のアイデンティティを軽視されたような、粗末に扱われたような、そんな気がした。投げて返すってどういうこと?しかも「チャオ(こんにちは)」もなければ「グラッツィエ(ありがとう)」も「プレーゴ(どうぞ)」もなく、まさに一言も発せず無言のままそのパスポートチェックは行われたのだった。

ああ、また思い出してしまった・・・せっかくペルージャの空は青く澄み渡っているというのに。