神様に謝れ!事件

VAI A CHIEDERE SCUSA A DIO!!
インターネットで何気なくレシピを見ていたら(日本語で)、ふととんでもないものを発見した。「フレッシュトマト、ツナ、バジル、アンチョビー、カッテージチーズのパスタ」どうやらニッポンでTV放映されたばかりの、とあるニッポンジン講師のオリジナルレシピらしい。

瞬間的に2年半前の、友人クリスティアン宅での珍騒動を思い出した。キッチンに集まっていたのはミラノ出身のクリスティアン、親友で南イタリアプーリア州出身のジョヴァンニ、そしてわたくし。ジョヴァンニが、お腹を空かせたわたくしたちのために、何か簡単なパスタを作ろうと冷蔵庫の中をあれこれ探していた。「玉ねぎはあるな。トマト缶は買い置きしてあるし。よし、マリコと僕はツナとトマトのパスタね。クリスティアンはトマトとナスのパスタ。」とジョバンニ。ベジタリアンであるクリスティアンは、ツナを食べることができない。その彼用に別の小鍋でわざわざ一人前のナス入りパスタを作るジョバンニ、君は素晴らしい。今時のオトコはそうでなくちゃいけない。

鍋を2つ並べ、1つにはツナを1つにはナスを入れ、手際よく作り始める。ものの15分で美味しそうな湯気をたてて、それは出来上がった。「マリコ、冷蔵庫からパルミジャーノチーズとって!」とクリスティアンベジタリアンである彼は、彼用のナス入りトマトパスタにたっぷりのパルミジャーノチーズをふりかける。うーん、美味しそうである。「クリスティアン、あんた本当にチーズ好きだよねぇ」「まあね。肉も野菜も食べないからね。乳製品はたくさん食べるんだ」クリスティアンと喋りながら、何も考えずわたくしは自分のツナのパスタにもパルミジャーノチーズをふりかける。

と、そこで空気が凍った。「・・・・・!!!」わたくしの手元を凝視する二人。「え?!何なに?!どうしたの?」慌てふためくわたくし。「君は一体何をしたんだ!?今!」「何ってなに?!何なの?」「見ろよ!君は今チーズを、こともあろうにツナのパスタにかけたんだぞ!」あれ?あ、そうだ。クリスティアンが美味しそうにたっぷりとパルミジャーノをかけるのを見て、ついつい無意識で自分のパスタにも振りかけてしまったのだ。

「ナスのパスタにチーズは勿論OKだ。でも君は、君は・・・ツナにチーズをかけたんだぞ!」「ご、ごめんなさい〜!」そう、イタリアで魚介類にチーズはスーパーNGなのである。ツナは魚介類の原型はとどめていないものの、その原料は紛れも無くマグロであるから、当然ながらチーズと出会うことは断じて許されないのである。

「神様に謝れ!」何だよ、神様って何の神様?パスタの神様か?チーズの神様か?聖フランチェスコか?「ごめんなさい。もう二度とツナのパスタにチーズはかけません。」「はい、分かったらその皿かして。」「え?どうするの?」「こんなもの絶対食べちゃだめだ。マリコには新しいのよそうから。」「え、じゃこれ捨てるってこと?勿体無い!」「捨てない。こうする。」そう言ってジョヴァンニとクリスティアンはチーズがたっぷりかかったツナのパスタの皿を、ラップをかけて冷蔵庫に閉まった。

「そろそろアントニオが帰ってくるんだ。冷蔵庫をあけて、ツナ入りの美味しそうなパスタが1皿余ってたら絶対温めて食べるから。でさ、食べてびっくり、なんとチーズ入り!ってね」そう言ってニヤニヤいたずら心を起こす二人。この国ではなんだ、チーズ入りのツナパスタというのが、その日を一瞬で不幸にするような大ハズレくじに成り得るのか。

そんな出来事を、思い出したのである。ニッポンでTV放映されたという「フレッシュトマト、ツナ、バジル、アンチョビー、カッテージチーズのパスタ」を見て。これはイタリア的に言うと、地獄行きものだ。パルミジャーノを、食べる前にちょっとふりかけるどころの騒ぎではない。材料の1つとして、カッテージチーズという名前が堂々と挙がっているではないか。更に。アンチョビーというのは紛れも無く魚である。ツナにチーズが駄目なら、当然アンチョビーにチーズも×である。そう、このレシピには、スーパーNG材料が既に2つも入っているのである。ああ、恐ろしい。

ジョヴァンニとクリスティアンがいたら、TV局に間違いなく抗議するだろう。