漢字ってそんなにいいの?

KANJI è COSI BELLO?
予想以上に「外国で見た漢字」について盛り上がったので(5/25のコメント枠にて)今回はその勢いでイタリアにおける「漢字」について書いてみる。

ダウンタウンでカメリエラとして働いているとき、客からの質問で本当に多かったのは「フランチェスカって日本語で書いてくれない?」「シモーネって書いて!」である。彼氏や彼女の名前をどうしても日本語で刺青にしたいらしい。しかしこの場合「日本語で書いて」=「漢字」である。素直に「フランチェスカ」とカタカナで書くと彼らは全く満足せず「もっとアーティスティックなのがあるでしょ?中国語みたいな、あれよ。あれで書いて!」とねだるのだ。更に「それぞれの文字には意味があるんでしょ?!それも教えて!」と余計なことを何故かご存知なのである。

例えば「フランチェスカ」は「富蘭知恵素華」と書き、一文字ごとに意味を説明する。「心が豊かで(もしかしたら生活も豊かになるかも)頭が良くて、華のある人間ってことよ」等と適当に説明を加えなければならない。かといって相手はイタリア人、適当な漢字を当てはめたところで、例えば「腐乱血餌棲火」と書いたところで問題はない。「CHE BELLO!(何て美しい!!)」で感動を巻き起こすだけである。しかしそこはわたくしも真面目なニッポンジン、業務中にも関わらず一生懸命考えてしまうのである。

それにしても恋人の名前を漢字で入れるというのは(やはり若者に多い発想であるが)、どう考えても無謀過ぎる。楽しい時代が過ぎ、二人に別れが訪れようとも、相変わらず「マルコ」とか「アレッサンドラ」等という刺青が手首や肩やお腹や足首に、変わらぬ存在感で光を放ち続けるのだ。鬱陶しいに決まってるじゃないか。若者よ、よく考えなさい。
さてイタリアでよく見かける「漢字」はやはりTシャツのロゴであろう。あまりに沢山見たので不覚にも覚えていないのだが、衝撃的だったのは「アイフル」。何故「アイフル」。ショップのショーウィンドウに堂々と飾られていたし、実際それを着ているイタリア人を何度か見かけた。更にわたくしのハートを摑んだのは5/25のコメントでyukikoさんがおっしゃっていた「水虫」。誰が好んで「水虫Tシャツ」をお召しになるのだろう。

昨年の冬は「侍」という文字と、韓国とニッポンを足して2で割ったようなオリジナリティー溢れる国旗がバックにプリントされたド派手なダウンジャケットが出回っていた。いくらアラン・ドロンのような男に結婚を申し込まれたとしても、彼のワードロープにもしこのダウンジャケットがあったら、それで何もかもが終わってしまうような、それくらいマイナス度の高い代物である。

ある日友達に誘われてペルージャのチェントロにある「チナスティック」というワインバーに行った。そこのオーナーはペルージャ出身の兄弟だが、仕事のあとわたくしの働いていたダウンタウンに一杯ひっかけにやってくるので、顔見知りだった。扉をくぐると「イラッシャイマセ!!」はぁ?見れば腰に巻いた「商売繁盛!」の大きな文字入りエプロン。いや、エプロンというよりも、魚屋さんや八百屋さんが使っているような長い紺色の商人風前掛けを想像して頂ければ一番正確だ。ニッポンへ旅行へ行き、一目惚れで入手したのだそうだ。まあこんなのは可愛いというか、理解できることなのだが。しかしイタリアでワインを飲みに行っって「商売繁盛」のエプロン姿で1万円のバローロを開けられても、何だか感動が薄いような気がしないでもない。

こんなこともあった。バール・アルベルトでいつものように不味いカフェをいれていると、隣のタバコ屋でアルバイトをしていた女の子がトビッキリの笑顔でやってきた。「マリコ!見せたいものがあるの!ほらこれ、見て!きれいでしょう?彼氏がプレゼントしてくれたの。”アモーレ(愛)”っていう意味なんでしょ?」見れば「愛」と(当然漢字で)かたどられたシルバーのペンダントである。し、しかし・・・「いや、これ漢字間違ってるよ。」「え?!」言わなかったほうが良かったのかもしれない。直ぐに後悔した。だって彼女の顔はみるみるうちに悲壮感で一杯になってしまったのだ。わたくしは本当に何も考えずに本能的につい指摘してしまったのである。「本当に間違ってるの?そんなの信じたくない!なんて不吉なの!”愛”の文字が間違ってるなんて!!」「ねえ、でも彼には言わないほうがいいと思うよ。ガッカリするじゃないの。ね?彼のせいじゃないんだから」一応フォローしたのだが後の祭りとはこのことである。

他にも諸外国で頑張っておられる「漢字」を見かけた方は、どしどしご応募ください。