ある夏の日のヒッタクリ事件Ⅰ

barmariko2005-05-20

LO SCIPPO DEL GIORNO DELL'ESTATE Ⅰ!"

イタリアといえばスリ多発国、ローマのテルミニ駅に着いたら駆け寄ってくるジプシーたちにはくれぐれも気を付けて、とはよく言われることだ。そしてその獲物の多くがニッポンジンであるということも。実際ローマ大使館に毎日届けられる「パスポート紛失届」や警察へ提出される「スリ被害届」の数はニッポンジンのそれが最も高いと言われており、相変わらず旅行者たちを悩ませる問題である。いや、旅行者だけではない、イタリア在住の外国人にとってもそれは同じであろう。

ペルージャに着いて約10ヶ月経ったころ、今でもハッキリ覚えているが8月2日の午後18時過ぎ、わたくしはペルージャ外国人大学のすぐ脇の通りをテクテク歩いていた。18時とはいえ、ヨーロッパの夏は日が長い。まだまだ明るく太陽がギラギラと照っていた。土曜日だったため学生の姿は殆どなかったが、街頭にはお喋りに余念がない近所のおばさんや外国人たちの姿があった。要するに普通の真夏の午後だったのである。

と、突然後ろから殴りつけられるような痛み。一体何が起こったのか全く分からずに呆然と立ち尽くしてしまったのだが、それはその場にいたおばさん達も同じだった。ポカンとわたくしを見つめる彼女たち。そう、わたしは一瞬の隙にヒッタクリにあったのだ。

ソイツは後方からスクーターを飛ばしてやってきた。しかもその道は一方通行で、わたくしの後方から車やスクーターがやってくるなんて、有り得ないはずだった。しかしお腹を空かせたソイツに、そんな道路交通法など見えるはずがない。わたくしは布製の白いカバンを肩にかけていたのだが、手は肩の上にあり無意識のうちにしっかりカバンを押さえながら歩いていた。にもかかわらずソイツはスクーターで走り抜けざまカバンを捥ぎ取ったのだ。

恥ずかしながら、咄嗟のことでスクーターのナンバーを見る余裕なんてなかった。あっという間にソイツは走り去り、後に残ったのは肩と腕の鈍痛だけだった。見る見るうちに二の腕に大きなアザが浮かび上がった。ソイツはちょっと減速しただけでスクーターを止めることなく無理矢理カバンを剥ぎ取ったので、その摩擦によって出来たに違いなかった。

そのとき不幸にもカバンに入っていたもの。

  • 財布
  • 現金250ユーロ(約3万5000円)
  • キーケース
  • 買ったばかりのサングラス
  • 買ったばかりのランコムのファンデーション

家賃を払うために250ユーロ銀行からおろしたばかりだったが、全て持って行かれてしまった。最悪なことに10日後わたくしはバカンスでスペインに旅立つ予定だったのに、お金もクレジットカードも銀行カードも全て無くなってしまった。しかもファンデーション、この夏用に奮発して買ったばかりなのに、あと100日は顔に塗ることができたのに、どうしてくれよう。咄嗟に考えたことはこんなことくらいだった。

様子を見ていたおばちゃんたちが走り寄ってきた。「あんたでもよかったわよ、引きずられなくて。アイツ、スクーターで走り抜けざまに奪い取っていったからね。あんたがカバン直ぐに手放したのは不幸中の幸いよ。ああいう奴は上手く肩からカバンを抜き取ろうなんて考えてないのよ、力ずくでとにかく腕も捥ぎ取ってしまえくらいの勢いでやるんだから。」

た、確かにそうかもしれない。あ、そうだ顔、おばちゃんたちアイツの顔見たんだろうか?「ヘルメット目深にかぶってたからよく見えなかったけど、顔色はくすんだ感じだったわ。きっとマロッキーノ(モロッコ人)よ。とにかく北アフリカ系か、アラブ系。顔色からしアルバニアじゃないと思う。」