開け放された窓からは

barmariko2005-04-16

DALLA FINESTRA APERTA...
イタリアにはクーラーがない。というと語弊があるか。ペルージャのような田舎街にはクーラーがない。オフィスにも、図書館にも、バールにも、レストランにも、クーラーがない。当然一般の家になどあるわけがない。そして皆一様にこう言うのだ。「クーラーは体に悪い」ごもっともである。「クーラーにあたるとお腹をこわす」イタリア人も多い。

確かに地中海性気候のイタリアは、ニッポンに比べてはるかに過ごしやすい。夏の暑さもどことなくカラっとしていて、あの東京のジメジメ蒸し蒸しした体に悪い暑さとは全く質が違う。夜になれば涼しい風が吹き、クーラーがなくても未だに灼熱の夜というものを経験したことがない。そのせいもあるだろう。イタリア人は夏の夜はみな外で過ごしたがる。家のベランダに庭にテーブルや椅子を出す。バールやカフェもテラス席を作る。チェントロの聖堂前の階段に座り込んでお喋りする人も明け方まで耐えない。

家にクーラーがないということは、夏の間、少しでも外の風を入れようと窓は全て開け放たれる。その窓からは全てが聞こえてくる。ただでさえ声のトーン、ボリュームの大きいイタリア人、近所迷惑にならないように小さい声で話すなどという考えはさらさらない。そう、夏の間は生活音が全開となるのである。更にペルージャという街は、狭いゾーンに防音などない古くて小さい家がひしめき合っているわけで、そこから聞こえる生活音は確かに大迷惑ではあるが、第三者から見れば時に笑いを生む。

ペルージャ、ペッラス通り119番地、ここに住むわたくしの親友アンドレア、ジュセッペ、ジェラルドの家の階下に、ある家族が住んでいる。ここの母親と娘エレナが繰り広げる壮絶なバトルが毎日全階に響き渡るのだ。

母「エレナー!エレナー!携帯鳴ってるわよ、さっきから!」
娘「オシッコしてんのよー!っるさいのよ!」
母「ドア閉めてオシッコしなさいよ!」
娘「うるさい、プッターナ(”娼婦”という意味の人を罵倒する言葉)!」

エレナは見た目は本当に可愛い女子大生である。そうか、彼女はドアを開けたままで用を足すのか。アンドレア宅の野郎3人は大笑いである。

娘「くそババア、男みたいに口の回りに髭はやしてんじゃないよ!剃れよ!」
母「あんたもワキ剃りな!」

面白すぎる。

娘「このデブオンナ!」
母「若い頃はグリッシーノ(パスタ生地で作った長細い棒状のスナック。前菜として食べる)って言われてたんだよ!うるさいよ!」

わたくしから見れば面白いだけなのだが、アンドレアたちからすれば本当に迷惑なのだ。朝から晩まで大音量で彼女たちはやり合うのだから。マンション入り口で、この可愛らしい仮面を付けたエレナはアンドレアたちに出会う度に「チャオ」とにこやかに挨拶するのだが、もはや彼れらにとってエレナは「ドアを開けたまま用を足すオンナ」である。母親をプッターナ(娼婦、メスブタ)呼ばわりする女子大生なのだ。生活が丸見えのイタリアの1シーンである。