ニッポンのポルコ(豚野郎)たち

barmariko2005-04-11


ある晩、わたくしの家で夕食会をした。この日は、ニッポンからペルージャに着いたばかりのフレッシュなニッポンジン女性と、既に6年に渡ってペルージャに暮らすわたくしの友人Sのほかに、イタリア人が3人、わたくしのルームメイト・ブラジル人のカリーナ、という総勢7名のディナーだった。イタリア人のうち2人はお馴染みわたくしの親友アンドレアとジュセッペ、残る1人はシルビアというジュセッペの元同僚で現在ウンブリア考古学博物館で働く女性だ。(写真左がシルビア、右がカリーナ)

そのシルビアがディナーの最中に突然とんでもない質問をしてきた。「わたし、あなたたちニッポンジンに聞きたいことがあったのよ!今朝ラジオで聞いたんだけど、ニッポンには女性専用列車があるって本当?性的犯罪者から身を守るために作られたって言ってたけど、そうなの?」男性人の目が点になったのは言うまでもない。

それはJR埼京線のことだろう。いつだったか詳しくは覚えていないが、まさにわたくしが恵比寿でOLになったばかりの頃、JR埼京線で「朝のラッシュ時に限り一部車両女性のみ」という政策が実行された。というのも埼京線はわたくしたち女性の間では「痴漢電車」として有名だったからである。現在ほかのラインにもこの女性専用車両は存在するのだろうか。

というわけでわたくしたちニッポンジンチームは彼らイタリア人3人+ブラジル人1人に、ニッポンの痴漢がどういうものなのか、何故電車の中で起こるのかを説明しなければならない状況に陥ったのである。まず東京の朝のラッシュがどんなに酷いがを知ってもらわねばならない。あれだけは経験した者にしか分からないだろう。朝ホームに溢れ返る人の山を無理矢理力ずくで電車の中に押し込む仕事が存在することなど、イタリア人にとっては非現実的でしかない。
わたくしが東京で電車通勤をしていた頃は、今思い返すだけでも腕や足に痛みを感じるほど、酷い目にあった。イヤリングは2回無くした。押し寄せる人の波にもまれてどこかへ持っていかれてしまったのだ。ブレスレットはラッシュ時には絶対しなくなった。小さな飾りが自分の手首にささるからだ。あの痛みといったら。更に他人の傘の柄が背中に押し付けられたときの骨が折れそうな激痛。うっかりドアの近くに身を寄せてしまった日には、腕がもぎ取られそうだった。高校生の頃、JR武蔵野線で通学していたがあのラインも凄まじい。後ろから押されて座席に座っている人の上に倒れたことも2回ある。更にこのラインは痴漢電車としても有名だった。女子高生がたくさん乗っているからだ。これを全部説明するだけでも、イタリア人である彼らは驚いていた。

「で、具体的に何をするの、そいつらは?」「いろいろ。電車という限られたスペースで極限まで試すんだから。」「じゃあ毎朝電車の中で大騒動が起きるだろう?」「起きないのがニッポンなのよ。被害者女性は恥ずかしがって何も言わないことが多いから。黙って我慢して、次の駅がきたら自ら降りたりするし。」「ニッポンジン的だなあ。イタリアの女の子なら顔ひっぱたいて、大声で叫んで公衆の面前につまみ出して、ってとこだ。そんな被害にあって何も言わないなんて有り得ないよ」

確かに電車内での痴漢行為はニッポンだからこそ大問題に発展したのだろう。イタリアでは突然話しかけたり、軟派したりという会話から始まる直接的コミュニケーション比率はニッポンに比べはるかに高くなるが、コソコソと電車の中でお尻を触るような行為は見られない。ニッポンジンは欧米人と比べるととにかく消極的で控えめで、といわれるがその反面問題となる痴漢行為や風俗通い、変質行為、それはイタリアの比ではない。現代病としてのコミュニケーション能力欠落者が増加すればするほど悲しいかなこのポルコ・メイド・イン・ジャパンも増えていくのだろう。
「男ってのはさ、持ってる欲望は世界共通なんだよ。イタリアもニッポンも関係ない。ただその表現の仕方と処理手段が国によって大きく違ってくるんだよな。」とイタリア人である彼らは言った。

ところでわたくしのニッポンの男友達はよくこう言っていた。「朝のラッシュ時はとにかく腕を組むとかして、自分の両手は腰より上の位置にあることを明らかにするんだ。下手に両手を下げてると、うっかり痴漢と間違われたりするから」これにはイタリア人は大爆笑だった。意味もなく両手を上にあげて電車に乗っているニッポンジン男性の姿を想像してしまったらしい。

更に彼らはこんなことを言い出した。「その女性専用車両の存在は誰がみても明らかなの?うっかり男性が間違えてこの車両に乗り込んでしまって、気づいたらオンナばっかりってこともあるんじゃないの?」「・・・ってことは逆に、女性専用のパラダイス車両にお邪魔できる可能性もあるってこと?」「俺たち外国人だしさ、どうせこの女性専用車両の案内なんて日本語でしか書いてないんだろうから、うっかり乗り込んでしまいましたで済むんじゃないの?」「おおお、東京のパラダイス電車!」

イタリア人にとって東京の「痴漢電車→女性専用車両」という流れはいろんな意味で面白すぎるらしい。