ブレサオラ

barmariko2005-04-03


最近はまっているのがブレサオラである。干した牛肉、見た目は赤い生ハムのようであるが、脂身の非常に少ない引き締まった味である。どことなくビーフ・ジャーキーのような風味がある。とにかくイタリアには数え切れないほどのサラミや生ハム類があり、肉の種類、どの部位かによっても味は千差万別であるが、このブレサオラは最近のお気に入りなのだ。

お値段のほうもしっかりしていて、100gあたり2.8ユーロ前後(約400円)であるが、薄くスライスされるため12,3枚にはなる。このお値段、実は日本でももはや非常にポピュラーな生ハムと同等かむしろ高価なのである。当然生ハムには千も万もの品質があるが、パルマ産高級生ハムですら100gあたり2.3ユーロ(約320円)、さらにノーマルなものだと100gあたり1.8ユーロ前後(約250円)でどのスーパーでも販売されている。

ブレサオラはヴェネト州ロンバルディア州など北イタリアで生産されるのだが、もはやイタリア全土で食される。例えばアンドレアは南イタリアのプーリア出身だが、彼のマンマはこのブレサオラにオリーブオイルとレモン汁を加え、しばらく置いてマリネにする。復活祭のときも前菜として出てきたらしい。そして覚えていらっしゃるだろうか、トーマス家でのディナー。奥さんのイヴァナは北イタリアヴェネト州出身であり、当然ブレサオラが大好きである。彼女が前菜として用意してくれたのは、ほんのちょぴり黒胡椒を挽いてオリーブオイルをたらしただけのブレサオラだった。

ある日いつものようにアンドレア、ジュセッペと夕飯を食べることになった。その日はスペインからバカンスでやってきた彼らの女友達サラもいた。そしてたまたまこのブレサオラを買ってきたアンドレアに「マリコ、悪いけど前菜として盛り合わせてくれない?味付けは好きにやってくれていいよ。」とわたくしは頼まれた。そうして出来上がったのが上の写真である。先に言おう。美味しすぎた。全員「う、うまい!」とため息を漏らすほどの旨さだった。イタリア人には出来ない、ある発明をわたくしはしてしまったのである。
準備は簡単である。5分もあれば出来てしまう。まずブレサオラを皿に盛り合わせ、黒胡椒を挽き、オリーブオイルをひとたらしする。その上に切ったルッコラをたっぷりのせる。コダワリとしてはこのルッコラ、半分は塩一つまみとオリーブオイルでサラダのように和えておく。残りの半分は食べる間際に生でのせる。風味が良いからだ。さらにこの上に、細かく切った「干しトマトのオリーブオイル漬け」を散らす。これがポイントである。何故ならこの「干しトマト」はアンドレアのマンマの手作りだからである。彼は実家へ帰省するたびに大瓶でペルージャへ持って帰ってくる。勿論どのスーパーにも売っているが、やはりマンマの味が一番なのだ。

このアンドレアのマンマが作る「干しトマトのオリーブオイル漬け」は、冗談抜きで言葉を失う美味しさである。夏の暑い日に縦4割にカットして塩をふったトマトを外で干す。干乾びたら瓶につめ、オリーブオイルを加える。このとき地域によって、マンマによって異なってくるのが味付けであり、例えばアンドレアのマンマはそこに唐辛子を加え、少し辛めにする。家庭によってはローズマリーやタイムなどのハーブを加えたり、更にニンニクを入れる場合も多い。当然イタリア全土で知られているが、これはトマトの美味しい南イタリアの家庭の味、マンマの味である。

話を戻そう。このわたくしが作った前菜をみんなで食べたとき、彼らは驚いていた。「美味しすぎる・・・!」「ブレサオラにルッコラはよく合わせるし、削ったパルミジャーノ・チーズをそこへ加えることもあるんだ。北イタリアのどのレストランにいってもこの前菜はお目にかかるよ。でも干しトマトがこんなに合うなんて知らなかった。」「だってルッコラと干しトマトを合わせてブルスケッタの具にしたりするじゃないの。絶対美味しいって確信してたけどな。」とわたくし。「というのもね、ブレサオラは北イタリアの特産品で、干しトマトは南イタリアの特産品だろ?だから単純にイタリア人はこの2つを組み合わせたことがなかったんだよ、きっと。」とアンドレア。

多いに有りうる。これもまた地域色の濃いイタリアの一面である。当然ながら北イタリアの郷土料理に南イタリアの食材は全く関係がないわけで、北イタリアのシェフはブレサオラの前菜に南イタリアの干しトマトを加えようなど考えたことがなかったのだろう。ニッポンではどうか?例えば九州博多で、豚骨ラーメンのスープを北海道産日高昆布でとったりはしないのだろうか?ま、難しく考えることもない。外国人であるからこそ発明したこの前菜、これからはわたくしたちのお気に入り前菜として名を残すことになっただけで、満足というものである。