ルム・エ・ペラで乾杯!

ニッポンにいた頃、ラム酒と言われてもピンとこなかった。あくまでお菓子を焼く時に風味漬けとして一滴たらすもの、くらいのイメージしか持っていなかった。それがここイタリアではバールやパブで非常によく飲まれる、ごく当たり前のアルコールである。

わたくしが働いていたダウンタウンに常備されていたのは、パンペロ、パンペロ・アニバーサリー、ハバナクラブ7年、マツサレム等である。なかでも価格が手頃で味もまずまずのパンペロは一番人気であり、ショットでロックでと楽しみ方は色々である。またラム酒コカ・コーラを加えたカクテル、ラム・コーク(通称キューバ・リブレ)はどの店にも必ずある飲み方である。但し、お酒を愛するラム酒好きからは敬遠されているが。ペルージャの平均価格としては、パンペロのショットが2ユーロ(280円)、グラスが4ユーロ(560円)、コカ・コーラを足してキューバ・リブレにすると5ユーロ(700円)といったところだろうか。

ダウンタウンで働き出して2、3日目には嫌でも覚えたのが、「ルム・エ・ペラ(ラム酒と洋ナシ)」というラム酒の飲み方である。小さいショットグラスに30CCから40CCほど注がれたラム酒。そして横に並ぶのは同じくショットグラスに注がれた洋ナシのジュース。ラム酒のショットを一口で飲みほし、続けざまに洋ナシジュースのショットを飲み干す。1、2秒ほどの早業である。この洋ナシのジュースがニッポンではまずお目にかからないクセになる味である。とにかく濃い。イタリアの100%洋ナシジュースは昔ニッポンで流行ったネクタリンよりも更にドロッとした、ジュースというよりはソースのような液体なのである。このコクのある甘みが、口の中に残る先に飲んだラム酒の味と絶妙なハーモニーを生む。

更に、ラム酒だけのショットでも2ユーロ、「ルム・エ・ペラ」として洋ナシジュースのショットをプラスしても2ユーロ、と値段は変わらないことが多い。従って「ルム・エ・ペラ」は非常にポピュラーな飲み方として、年齢問わず人気である。決してチビチビ飲むものではなく、ぐいっと一飲みにするあくまでもショットなので、景気付けに誰かと乾杯したいときや、パブで散々飲んで帰り際にカウンターでくいっと閉めの一杯として飲まれることが多い。

例えば「やっと今日試験が終わったよ。今日からようやく自由の身だ!」「じゃあ乾杯しよう!」の流れでルム・エ・ペラ。「明日から復活祭のバカンスでシチリアに帰省するよ。」「そうか、じゃあ会うのは2週間後だね。僕も帰省するから。じゃあ乾杯だ!」「ボン・ビアッジョ(よい旅を)!」の流れでルム・エ・ペラ。「今日誕生日だったんだ。」「そうなの?知らなかったよ。じゃあショットで乾杯しよう!」という流れでルム・エ・ペラ。とそのシーンは千差万別であるが、値段が2ユーロ前後と安いこともあり、ちょっと乾杯とかちょっと奢りたい、という時に非常に便利な飲み方なのである。奢る方も奢られる方も気楽なのだ。

それから店側が常連に何か奢るときにもよく使われる。例えばレジでお会計をする。普通イタリアのパブやバールは前会計なのだが、常連客は必ず後会計、つまり帰り際にまとめて払う。この会計がすむと、自動的にポンと空のショットグラスがおかれ、オーナーは「さあ、何にする?」と中にいれるアルコールを聞いてくるのだ。会計の後であるから、自動的にこれは店のおごりというわけである。そんな時にもルム・エ・ペラを選ぶ客は非常に多い。

簡単な飲み方であるのに、この洋ナシのジュースがないと絶対に成り立たない。これを発案した人に拍手を送りたい。