ペルージャのお家事情

barmariko2005-02-11


ユーロ導入後、イタリアでの物価昂騰は目を見張るものがあり、家賃もその一つである。昨年のニュースでイタリア全土で家賃は平均1.4倍まで上昇したと聞いた。ペルージャはどうか。ローマ、フィレンツェ、ミラノ等の大都市に比べたら勿論家賃は良心的であるが、それでもここ数年の上昇率には誰もが口を揃えて不満を言う。

現在ペルージャのチェントロ(中心地)での平均家賃(月額)は大よそこんな感じである。シングル・ルーム(キッチン・トイレはシェア)で250〜300ユーロ(37000円〜42000円)、ダブル・ルームだと180〜250ユーロ(25000円〜37000円)、さらにワンルームはお値段がグンと増して350〜450ユーロ(50000円〜63000円)。勿論家によって、ガス・水道・電気の公共料金が込みか別途かによっても家賃は変わるし、例外も多々あるのであくまでも目安である。

例えばわたくしの家などはペルージャ外国人大学の真裏に位置し、家の前の長い階段を上り切ればそこはもうチェントロ、噴水のあるペルージャで最も大きな広場へと到着するので立地的には最高だが、何と家賃は月額200ユーロ(28000円)である。3つのシングル・ルームとキッチン、バスルームで構成され、わたくしの他にはイタリア人のロセッラ、ブラジル人のカリーナが住んでいるが彼女たちは基本的に恋人の家で同棲生活なのでこちらの家には殆ど帰ってこない。つまりわたくしは限りなく独り暮しを満喫できる状況で、キッチンも冷蔵庫も殆どわたくしが使用している。立地的にみても、ペルージャの平均家賃を考慮してもただでさえわたくしの家は格安なのに、この環境はマックスに近い恵まれようである。(写真はわたくしの家。アーチの真上、右端の緑の窓がわたくしの部屋)

ニッポンと大きく異なる点は、ペルージャの家は多かれ少なかれ家具が備え付きであるということだ。ベッドやタンス、本棚からキッチン雑貨、皿、カップに至るまでその質の善し悪しは別として、とりあえず揃っている。家賃さえ払えばとりあえず身一つで新しい生活が開始できる。ミラノに住む友人からも、フィレンツェに住む友人からも、勿論ペルージャでも「入居したがベッドがなかった」というのは聞いたことがない。勿論新築や家族向けの大型マンションになれば別だが、ペルージャの場合、個人への賃貸を目的としている建物には必ずといっていいほど家具や雑貨が付属しているのだ。それはやはり外国人大学とイタリア人用大学があり毎日のように到着し出発していく学生の多さがこのスタイルを生んだのであろう。

しかしチェントロの家にはいつも問題がつきまとう。何せ古いのだ。(わたくしの家など中世のペルージャの絵画に残されているほどである。)勿論中は全てリフォームされているのだが、問題はいつも湯水の如く沸き上がる。よく言われるのが「家の中が寒い」。一番の理由は窓枠が全て木でできていることにある。ニッポンのゴム製の窓サッシと違い、木枠というものがどれほど隙間風を誘い込み、冷たい空気を招き入れるものか、ニッポンの皆様には絶対想像がつかないだろう。

ガタがきてきちんと閉まらない上にカーテンなど無い家が多いからその寒さは計り知れない。さらに暖房が(ペルージャは特に酷い)効かない上にガス代が高いときて、一日2、3時間だけしか暖房をつけてはいけないと決められいている家もある。冗談抜きで、学生の中には家の中でマフラーや手袋、上着まで着込んで生活するものもいる。わたくしの友人の一人はニッポンから送ってもらった電気毛布を夜中暖房が切れている間こっそり使用していたという。

更にこの建物古さのためにわたくしたちを煩わす問題が「修復工事」。少なくともチェントロに住むわたくしにとっては大問題だ。現にこれを書いている今も、わたくしの家の外壁は足場を組まれて修復中である。朝8時から足場を組むのに大騒音を放ちそれが何の予告も無く突然始まるのがイタリアである。ペルージャのチェントロの家は石造りで、修復をしないことにはいつガラガラくずれてくるか分からないし、石と石の隙間から水がもれていることもあるし、外壁がすっかり剥げてしまって何百年も放置されたみすぼらしい教会のようになってしまうのだ。


ところで今さっき、わたくしの家の外壁の修復工事をしているおじさんが、キッチンの窓を物凄い力でたたいた。何事かと思って窓をあけると「すまないが、このフライパン家の中にいれてもらえないか。邪魔で仕方ない。」と言うではないか。見れば昨日唐揚げを作った後に油を冷まそうと窓の外に出しておいたフライパンである。「はい」といえばそれで済むことなのだろうが正直ムッとしてしまう。勝手に工事を始めておいてそのいい草はなんだ。

ついつい「いつまでこの工事続くの?大家から何も聞いてないもんだから」と聞くと「明日までだよ」とのこと。しかも、ああこういうことは本当は書きたくないのだが、国で人を差別するなんてとんでもないことなのだが、でも正直に言ってしまおう。彼らはアルバニア人だった。昔の悪夢が走馬灯のように蘇るアルバニア訛りのイタリア語、一言話すだけですぐ分かる。全く朝から気分が非常に重いとはこのことだ。教会や聖堂の修復工事となるとイタリア人が直接行うことが多いが、一般家になると専ら外国人労働者が総動員する。

昨年末11月もわたくしたちの家の上の階で大工事があった。ある朝突然の電動ノコギリや瓦礫を運ぶ騒音で目覚め、シェアメイトのカリーナとともに「何が起こってるの?!」「何、何、カリーナ、聞こえない!!」同じ家の中でも話ができないくらい有り得ない爆音がなんと3週間も続いたのである。何度も言うようだが、ペルージャのチェントロの家は古い。何百年も昔の建物である。防音等全くされていない上に薄い壁は、全ての音を筒抜けにする。わたくしたちの家の真上で行われる工事は、わたくしたちの家でなされるのと同じかエコーがかかるだけにそれ以上の騒音をもたらすのである。

酷いのはこういった工事が全く予告無しに行われることだ。ニッポンだったら「工事のお知らせ」が日程とお詫びとともにポストに入れてあるのが普通である。イタリアでは有り得ない。少なくともペルージャでは。大体工事のお知らせなどしたところで2日の工事が平気で20日に延びたりするわけだから意味がないのだろう。

さらに、ペルージャの街は勿論車社会用に作られた近代都市ではない。ローマ帝国時代よりもっと昔、エトルリア人がやってきて作った街なのだから当然だが、道という道が入り組んでいてそれはさながら迷路のようであり、殆どの道が一方通行である。よくもまあこんな細い路地をバスが通るものだ、という情景はよく目にするし、バスやトラックが通るとき歩道を歩く人間はみな商店の軒下に一時避難しなければならないことも多い。大型車は平気で歩道に乗り上げながら走行する為危険なのだ。修復工事の際は勿論大型トラックが何よりも優先されて家の前に横付けされるわけで、それをよけてバスが通り、人が歩く。ここから生まれる交通渋滞は計り知れない。

次によく耳にする問題がやはり「水回り」だろう。お湯が出ない、シャワーを使うとどこからともなく水が溢れ床がプールのように水浸しになる・・・これらは全てやはり家が古いことによるものだろうが、この修理は家を借りている私たちが払わねばならないというのが何とペルージャの法律で決められている。我が家のロセッラなど、びた一文でもとられてたまるかと、バスルームの水が溢れる度にハンマーやら何やら持ち出して自力で何とか直している。

しかしペルージャで家に関する一番の問題は「大家」であることは間違いない。ペルージャで家賃収入だけで生きている金に汚い大家たちよ。このストロンツォ。ロンピ・コリオーネ。シニョール・ポルコ。ヴァッファン・クーロ!!!チェントロの家は古いのではない、アンティークなのではない、ボロボロなのだ。放置されているのだ。何故ならチェントロに住む人の殆どはイタリア人学生、外国人学生だから。ペルージャ人たち、世帯所持者はどこに住むのか?駅寄りの新しいマンション群、車で10分も走れば現れる新興住宅ゾーン。防音もされ防寒ガラスの入った窓、広々として水回りも整備された住む人を考えた家に彼らはお住まいだったりするわけだ。しかし車を持たない学生や外国人はやはり何かと便の良いチェントロに住むしかない。

さらに大家にとって学生や外国人は「家を汚す」だけの対象、どうせ3ヶ月だけの滞在、となりそんな奴等のためにバス・ルームを改装しようとか、キッチンに棚をつけようとか、そういう発想はない。それどころかベッドのマットに穴が開いていてスプリングが完全にいかれているのに、そのまま放置されていたりする。誰も好き好んで壊れたベッドに寝たくはないがどうせ1ヶ月や2ヶ月の滞在だし我慢する、そしてそのベッドはまたそこへ放置され、次の学生が入ってくる。彼もまた3ヶ月だからこのベッドに耐え・・・つまりこうやって壊れたものが壊れたままで放置されている光景はよく見かける。勿論普通だったら家具や雑貨等一切ないところに一応何でも揃っているわけだからあまり文句は言えないかもしれないが。

しかし窓枠に隙間があるから部屋が寒いとか、水回りがすぐ故障するとか、お湯が出ないとか、そういうことは全て大家の責任ではないか。というよりこれらを直さず部屋を貸す、これで成り立っているのがペルージャチェントロの現状である。「イタリアの家は寒い」と言うとアンドレアが「イタリア、って言うのは違うよ。ペルージャがだよ。僕の田舎のプーリアだって窓はちゃんと防寒ガラス使ってるしペルージャのチェントロは特別だよ」と反論した。更に言えば予告なしに突然の騒音で始まる修復工事だって、大家が住人のことを全く考えていないからだ。

大家との揉め事はこれ以外にも非常によく耳にする。例えば光熱費込みで300ユーロの家に住むとする。あくまでも光熱費込みであるから、水道・ガス・電気は別途に払う必要がない。にも関わらず家賃を払いに大家をたずねると「今月はガス代が大目にきてるから、余分に20ユーロ払って」等と突然言われたりする。これでは光熱費込みの家に住む意味がない。しかしイタリア語がままならない外国人だったりスーパー謙虚で教養の高すぎるニッポンジンだったりすると「ハイ」とお金を渡してしまう。

そもそも光熱費の明細を見せない大家もいるし、光熱費は同じペルージャでも家によって見事に異なるから一体何が正しいのか分からない。わたくしのペルージャでの一番最初の家は、暖房は夜20時から23時までの3時間しか使用していなかったにも関わらず一人あたり毎月65ユーロの光熱費が請求されていた。今の家など暖房は一日中つけているが請求はその半分以下である。

だがしかし、大家にも問題がなく恵まれた環境で良い家もある。わたくしの家のように。ここでは自分が認める家を納得のいくまで探し続けることだ。荷物なんてたかがしれてるし、街の中での小さな引越しになるわけだから、億劫がらずに積極的に家を探すべきだ。(って誰に言ってるんだ?)家と男は縁である。

ところで今気付いたが、わたくしの家に朝から作られた足場のせいで我が家の雨戸が全く閉められなくなっている。確か明日までと言っていたが、ということは夜中雨戸は開け放しなのか?この寒いというのに。文句を言えば足場を組み直してくれるのかもしれないが、そうなるとまた工事が延びてゆくのだろう。(写真は足場を組まれて修復中のわたくしの家のテラスから望むチェントロ)