グッチとお城

barmariko2005-02-07


ガリバルディ通りのルチャーノとララの古着屋。ここにこんなお宝が潜んでいたとは。ある日店に立ち寄るとルチャーノは不在で、ララが一人でローマから仕入れてきたばかりの商品の整理をしていた。(彼らの店についての前号はこちらをどうぞhttp://d.hatena.ne.jp/barmariko/20050106

彼らの店は本当に狭いがその商品の回転のよさは素晴らしい。そして固定客が非常に多いので新しい商品が入ると同時に馴染み客が一度に訪れる。ちょっと親しくなれば直ぐに割引もしてくれるし、返品やお直しなどもOKである。実はニッポンジン客も大変多い。例えばペルージャのチェントロでJCBカードが使えるのは1店(ブランドの店だった)だけ、4つ星ホテルでも「JCBって何ですか?」とフロントで聞かれてしまうというのに、何とここルチャーノとララの店は「JCB取り扱い店」なのだ。

整理をしながらララはわたくしに新しい商品をいろいろ見せてくれた。「これなんかマリコに似合うわよ。これ全部スパンコールなの。夜遊びに行く時とか可愛いから。」「いやちょっとわたしには・・・これ小さすぎるよね?それに夜遊びに行かないから・・・」「駄目よお、そんなんじゃ老けるの早いわよ。あ、これなんかどう?水着のパレオにもなるのよ」とそこで突如現れたのは、「GUCCI」の文字、それは大判の綿100%の布だった。シルクではない、コットン100%であるからスカーフやショールではない。いわゆる布である。

「え?これ本物のグッチ?」「当たり前でしょ。本物も本物、70年代のグッチの作品よ。これ見てごらんなさい、このタグに入ったグッチのロゴマーク。(写真は次ページ)これは正真正銘グッチ初期マークなのよ。(イタリア語ではprimo marchioプリモ・マルキオと言う)70年代ってことは、グッチが前の奥さんに殺される前の作品ってことよ。」「え?グッチって前妻に殺されたの?!」

「あらやだ、あんた知らなかったの?イタリアでは大スキャンダルだったけどね。初代グッチがフィレンツェに店を出したのが1920年代、その孫に当たるマウリッツィオ・グッチの作品なの、この布は。でもマウリッツィオは1997年に前妻であるパトリツィアに殺されてしまったのよ。グッチ家っていうのは常にスキャンダルが絶えなかったけどあの事件はイタリアを騒然とさせたわよ。まあ今ではグッチはグッチ家を離れて民間人に買い取られたんだけど。全くニホンジンは世界で一番グッチを買う国民だっていうのに、そういうことは何にも知らないのね。こういういわく付きのものやアンティークなものほど価値があるのに。ニッポンではグッチの最新作ばっかりが人気あるんでしょ?」と大笑いだった。


ララの店でグッチの大判布見たのは初めてだったが、常にあるブランドものはサングラスだ。勿論ここは60年代、70年代の商品を扱うので(半分以上は古品だが、中には完全新品もある)グッチやシャネルのサングラスもアンティークで可愛い。半分は正真正銘オリジナル、本物で、半分はイミテーションである。ララはブランドの目利きの才があり、本物かイミテーションかもすぐ見分けてしまう。彼女曰く、よく作られたイミテーションは偽者として悪のレッテルを貼られるのではなく、一つの作品として評価され価値もあるという。絵画と同じである。なので彼女はいつも「本物が欲しければほら、これね。イミテーションが欲しいんならこっち。」と客には全て教えてくれる。

とここで店にやってきたのは、大学の横にあるバール・ミラノのオーナー、アレッサンドラ。毛皮に身を包み金髪の迫力のあるシニョーラである。バール・ミラノはペルージャではいろいろな意味で超有名店である。そしてバール・ミラノは金を持っている、とは皆が知るところである。何十年も続いた朝5時半から営業の伝統的なバール・ミラノを3ヶ月かけて100%新装建て直しし、夜2時まで営業の「バー・ミラノ」として新しく蘇らせたのは昨年2003年末のことだった。

つまりバール・ミラノは家族経営で手堅く上手く商売をし、見事昨年スタートの「バー・ミラノ」への変身を遂げたとして、ペルージャでは今まで以上に有名なのである。それまでも朝7時8時の通勤通学ラッシュ時の店の混雑ぶりはペルージャ一だったが、今後はオープン時間が夜中2時までに伸びた(今までは夕方18時閉店だった)こともあり、そこに食前酒タイム、夜のバータイムの顔が加わるのだろう。とにかくこれからどう変わっていくのかが見ていきたいところではある。

前置きはともかく、このシニョーラ・アレッサンドラが「今度わたしの誕生日パーティを盛大にやるのよ。で、衣装に合わせたサングラス探してるんだけど、何かいいのない?」とやってきたのである。そこで彼女も当然このグッチの大判布を発見した。「あら??これグッチじゃないの。これ売り物?それともララ、あなたの私物?これって70年代ものでしょう。」さすが、目の利く方々は違う。「勿論売り物よ。今マリコに話してたのよ、これは初代グッチの作品で彼は奥さんに殺されたって。ニッポンじゃ知られてないらしいのよ」「へえ、ニッポンジンはグッチ好きなのにね。」とこれまたララと同じことをおっしゃるのだ。

そこでわたくしは提案してみた。「でもララ、これってもしかしてもしかしてだけどニッポンでも売れるかもよ。ニッポンジンは珍しいもの好きだから」「でもみんなの好きな最新グッチじゃないわよ。70年代ものよ。まあ売れるなら勿論わたしは嬉しいけど」「インターネットで、ってことだよ。今日本では海外の物も普通にインターネット上で売れるしオークションもポピュラーだから。ここで、ペルージャのこの店で売ろうと思ったらやっぱり難しいでしょ。だってこの店にくる人の数には限度があるから。でも例えばオークションに出せばペルージャに住んでない、東京の人、北海道の人、沖縄の人、みんながこの70年代グッチを見ることができるから。絶対数が限りなく増えるんだよ。」

彼女たちの顔がキラキラしてきたのをわたくしは見逃さなかった。そしてこのグッチが、海を超えてインターネット上でニッポンジンに購入されるかもしれない、という響きが素敵だったのだ。そこでわたくしはこの大判の布は例えばどのように使うものなのか、彼女たちに意見を求めた。「やはり水着のパレオでしょ。ほら、こういう風に」といってアレッサンドラが毛皮の上から布を体に巻き付け、「しかもこのグッチという文字が前にくるのよ、これは凄いお洒落よ」と言った。正直これは派手好きなイタリア人の好みだと思うのだが。

「ソファーの上に敷いても素敵よ。色が暖色だから皮のソファーにはとても合うし。」とララが言うと「グッチの上に毎日座るのよ、リッチな気分にもなるってもんよねえ。」とアレッサンドラ。それから二人とも「これは壁に飾ると絶対いい。」と主張した。そのまま剥き出しでもいいし、額に入れればまた正統派な別の雰囲気になるという。模様は大柄であるのに色合いがシックだから、部屋が上品になるというのだ。「で、夏に海に行く時は壁からはずして持っていけばいいのよ」とアレッサンドラは何としてでもパレオにして使いたいらしい。

とここでアレッサンドラがとんでもないことを言い出した。「ねえマリコ、ニッポンではこうやって誰でもオークションに参加できるんでしょ。わたしも一つ、売りたくて仕方ないものがあるのよ。」「なに?」「お城」「は?」

「本当なのよ。スポレート(ペルージャから車で50分のウンブリアの古街)にある代々のお城なんだけどもう誰も使わないし。手入れは行き届いてるし概観も全ての部屋の写真も全部コンピュータに入れてあるから直ぐ見せられるわよ。ペルージャの不動産屋に持っていこうと思ってたからその辺の準備はバッチリなの。」「ってあの城?あれ手放すの?」とララ。どうやら行ったことがあるらしい。「いやでも幾らニッポンジンでも、お城というのはちょっと・・・ほらテレビを買うとかパソコン買うとかのノリじゃないでしょう。お城をインターネット上でポンと購入するひとなんていないでしょ?購入前に現地へ何度も赴いて実際目で見て、やっと判断するものでしょう?無理だよ、無理。」「そう・・・でも誰か物凄いリッチなニッポンジン知ってたら教えて」「シニョーラ、それをわたしに聞くのは間違いよ」


こんな成り行きで、ララは昨日ローマで仕入れてきたばかりのこのグッチを、オークションに出すことに決めたのである。
ところで、オークションで城の売買は認められているのだろうか。(売り手はノリノリなのだが。)誰か教えてください。