パブで観るサッカー

ANDIAMO AL PUB PER VEDERE LA PARTITA!

サッカーのシーズン中、日曜日の夜20時ともなるとTVのあるパブは満員になる。ペルージャ外国人大学のすぐ脇にある、うっかり2年近くカメリエラとして働いてしまったパブ「ダウンタウン」もその例にもれず、毎週日曜日の夜は男の花園と化した。

いつの間にか日曜日のサッカー観戦タイムの仕事はわたくしの役目になっており、前日土曜日に仕事が終わってさあ帰ろうとすると、「明日、サッカーだから。来れる?」とオーナーのステファノに聞かれる。「20時から23時くらいで、いいからさ」わたくしの家はダウンタウンから徒歩1分だし、日曜日はもう一つの仕事場バール・アルベルトも休業であるから、結局いつも引き受けていた。

さて、パブのサッカータイムについて少し説明しよう。イタリアのバールやパブには必ずといっていいほどTVが設置されている。スカイTVがあれば尚よし、国際試合が全て放映されるのだから、サッカーに心を奪われし者はみな集まってくるのだ。開始時間は試合によって異なるが、18時半からもしくは20時半からである。大型TVが設置されているパブでは、普通テーブル予約もできる。

ただワールドカップが開催されるときのニッポンの飲食店やパブを想像してはいけない。あそこまで極端な商業の絡むお祭り騒ぎではない。TVが設置される東京都心のスポーツパブでは、チャージだけで1000円プラス飲み物代、チャージがないところでは「特別ワールドカップ価格」としてビール1杯の値段が最初から高く設定される。商魂逞しい、いやむしろいやらしい。(ま、ローマ法王が亡くなったときローマのパニーノは値上がりしていたというから、同じかもしれない。)
イタリアの場合、「パブやバールでサッカーを観る」ことは、日常風景の1つである。高価なものであってはいけない。従って当然パブに入るだけなら無料、おまけにその時間帯はハッピーアワーを設けているパブが多く、ビール1杯およそ100円引きとなる。というのもサッカーの試合が無ければ、夜20時のパブなんて普通ガラガラなのだ。イタリア人は一般的に夕飯の後、飲みに繰り出すから、パブの客足ピークタイムは夜22時以降となる。そこで早い時間帯の集客を図るため、どのパブでもこぞって夜22時くらいまでの間「ハッピーアワー」を設けるのだ。例えサッカーの試合が行われたとしても、このハッピーアワーは崩れることなく存在する。サッカーの試合をタダで観ることができて、おまけにビールも安い、となればイタリアのサッカー好きは嫌でも集まってくるのである。

サッカー試合があるときの客の行動は分かりやすいほど単純である。20時半、試合が始まるとともにやってきてまず席を確保してからビールを頼む。このとき大半の客がパニーノやハンバーガーやケバブサンドなど、何かしら食べるものも注文する。何故か?イタリアの夕飯タイムは通常20時以降、ニッポンに比べると非常に遅い。従ってサッカーの試合は、夕飯の時間に見事にぶち当たってしまう。というわけで、パブにおける20時半からのサッカー観戦は片手にビール、片手にパニーノで進むのである。(barmariko data:パニーノ注文率80% 但し分母はサッカーを観にパブに集まる男)

その後15分の休憩タイムまで、誰もおかわりをしない。ブラウン管に釘付けなのである。休憩が始まると、客は一気に動く。ビールがほしい者はカウンターへ、タバコを吸いたい者は外へ流れる。(今年の1月から飲食店内はイタリア全土で禁煙であるid:barmariko:20050102)そしてあれほど約束には遅れるイタリア人が、サッカー後半戦には1分も遅れることなく席に着く。

ご想像頂けると思うが、試合中の彼らの怒涛のごとき応援は凄まじい。日本語にはとても訳せない暴言の数々が飛び交う。相手チームへの非難中傷などお手の物である。「セリエBに堕ちろ〜、堕ちろ〜、ケツの穴に入れ〜!」「お前らなんてアフリカに帰れ〜!ここは空気が合わないだろう、帰れ!帰れ!」「クソ豚野郎!」

ちなみにオーナーのステファノは大のサッカー好きであるから、サッカー観戦しながらの仕事は非常に楽しそうである。そもそも昔、ダウンタウンにまだこの大型TVがなかった頃、大事な試合があるときは店のオープンを遅らせていた。本当は20時にオープンさせなければならないのだが、ステファノにとってサッカーの試合は絶対だった(つまり自宅で観戦していた)。ダウンタウンの外の扉には「CI VEDIAMO DOPO LA PARTITA!(試合後に会おう!)」という張り紙がいつもしてあった。試合後、つまり「22時オープン」という意味であるが、その張り紙を見た客は、オープン時間を勝手にコロコロ変えるステファノに誰一人文句を言わず、当たり前のこととして受け入れていたのである。そういう国、である。