紫外線いらしゃい。

BENVENUTI I RAGGI ULTRAVIOLETTI!

この時期ニッポンでは日傘や帽子(今年も黒が流行っているのだろうか)、体中に塗ったUVケアクリームで紫外線防止に忙しい女性でいっぱいである。わたくしの友人達の中には年齢的に第一子が誕生されたひとも多く、彼女たちは当然赤ちゃんの敏感な肌を紫外線から守るためにも翻弄する。このご時世、これは当然の流れである。オゾン層の破壊から紫外線がわたくしたちに及ぼす害について、どんなに新聞を読まない若者だって知っている。

4月にもなれば殆どのインターネットポータルサイトに「紫外線防止」の文字が見られ、女性誌にも健康雑誌にも多種多様な特集が組まれる。デパートの化粧品売り場へ行けば、この時期各メーカーは「UVケア・美白」に力を注ぎ、売上げの鍵を握るのは当然これらの商品による集客力である。

しかしイタリアでは状況が全く異なる。「ねえ、あのテーブルの彼、格好よくない?」「昨日食べたパスタが美味しくって」「あたしのアモーレがね」「このピアス可愛い〜、どこで買ったのぉ?」「わたし決めたわ、今日からダイエットよ。今年の夏はスペインでバカンスなんだから!水着が似合うオンナになる!」こんな普通の20代30代女性の会話の中に、「紫外線」の一言は絶対出てこない。わたくしのイタリア生活において、ただの1回も聞いたことがないのだ。

むしろ、イタリア人は4月も過ぎると「プレンディアーモ・イル・ソーレ!(日光浴をしよう!」と老いも若きもこぞって外へ出る。公園やチェントロの聖堂前には裸で体を焼くひとで溢れかえる。当然肌には何も塗らずに、素のままで直射日光を浴び続けるのである。勿論適度な日光浴は体にもいいが、紫外線、ちょっと大丈夫なの?といくらなんでも心配になってしまう。イタリア人は「太陽」に驚くほど反応し、それだけで気分がハイになるといっても過言ではないほど、この時期「太陽」に執着するのだ。

ペルージャにやってきたばかりの頃、ルームメイトのイタリア人男性エミリアーノにこう聞いた。「何でイタリア人は紫外線防止とかしないの?オゾン層問題とか知らないの?現代の直射日光は危険だよ?皮膚癌を引き起こしたりもするんだよ」わたくしは非常に分かりやすく恐怖を伝えたかっただけなのだが、彼はこう切り替えしてきた。「癌?そんなの聞いたことないよ。じゃあ毎日太陽を浴びてるアフリカ人には皮膚癌が多いとでも言うの?彼ら、UVケアとかしてるわけ?そんなの有り得ないね。ニッポンジンは商業戦略にだまされてるだけだよ。クリスマスと一緒」あまりに悲しい答えではないか。
イタリア人女性は年齢とともに蝕む「シミ・シワ」を愚痴り、「ニッポンジンはシワがなくて本当に若く見えていいわよね!遺伝子の問題よ、きっと」と諦めた顔をされる。紫外線がこの「シミ・シワ」にどれだけ悪影響を及ぼしているのか、彼女達はさっぱり分かっていない。努力もせずに羨ましがるとは言語道断である。

同居人のロセッラ(イタリア人女性31歳)の考えはまた少し変わっていた。ある日彼女は我が家のベランダに椅子を出し、ペルージャのチェントロを眺めながらくわえ煙草で日光浴をしていた。「マリコもおいでよ!」「いや、ここでいいよ。ここでも太陽感じるし。直射日光あんまり浴びたくない」とわたしはべランダのすぐ手前で踏みとどまった。「紫外線防止とかしないの、ロセッラ?ニッポンは今大変だよ。いやニッポンだけじゃないな。アメリカもオーストラリアもだよ。シワやシミも増えるよ?」「そんなの気にしてたらキリが無いじゃないの。誰だって歳はとるんだし、防止したって50歳の肌は50歳、80歳の肌は80歳よ」そんな根本的なことをおっしゃられては何も言えない。

この紫外線に対する無防備さは、イタリアだけに言えるのではない。スペインもギリシャポルトガルも、それこそドイツも、みんなその傾向がある。2年前にスペインにバカンスへ行ったとき、スペイン人たちと毎日毎日海で過ごした。わたくしは顔にも体にもUVカットクリームをたっぷり塗り、少々びびりながら砂浜にいたのだが、スペイン人の友達はわたくしのクリームを見てこう叫んだ。「ちょっと!SPF50なんて体に悪いわよ!マリコやめなさいよ、こんなの。ほら、これくらいが肌を傷めないでちょうどいいのよ。これかしてあげるから」そういってわたくしに見せてくれたのはSPF10のクリームだった。

とにかく彼らにとって「夏は真っ黒」というのが格好いい。夏は黒くなければならない。夏のバカンスから帰ってきたイタリア人の第一発目の会話は「いい色に焼けたね〜」「どこで焼いたの?」とこの「黒さ」のアピールで始まる。ニッポンには日傘があるんだよと、わたくしがまだ一度もイタリアで使ったことのない黄色い小花の刺繍の入った日傘を見せると、心底驚かれる。「えええ?太陽をシャットダウンしてしまうの?そんな、勿体ない!」せっかく持参した日傘であるが、イタリアで日の目を見ることはない。ペルージャで真夏の太陽の下日傘で歩いたら、多分「コッリエッレ・ディ・ウンブリア」(ウンブリア州の地方紙)から取材がくるだろう。