マザコン大国

barmariko2005-04-23

IL PAESE DEI MANMONI...
イタリアはマザコン大国、というのはニッポンでは意外にもそれほど知られていないが、ヨーロッパでは非常に一般的な見解である。以前イタリアの新聞ラ・レプッブリカにこんな記事が載っていた。「EU各国のマザコン度:1位イタリア」マザコン度を数字で裏付ける為に、「平均何歳まで両親の元で暮らすか」を尺度としたものである。1位はイタリア、2位はギリシャ、3位はスペイン。EU内で最も南に位置する、ラテングループだ。のんびりした国風は地中海の風とともに、である。明確に覚えていないのだが、確かイタリアは平均38歳くらいまで実家に残ると書かれていた気がする。

このライターは当然イタリア人で、「何故親元に残るのか」のヒアリング結果をまとめていた。主な理由としては「失業率が高く大学を出ても就職できないため」「家賃高騰によりアパートを借りられない」といった経済的に自立することが難しいイタリアの現状が挙げられていた。しかしこのライターは「経済的に自立しないことが、精神的にも自立しないことへ繋がる」と指摘し、イタリアはマザコンが多いと言われる大きな原因と断言していた。
更に親元にいつまでも残るイタリア人の人格形成に及ぼす影響について、「問題解決能力がない」「もろくナイーブで傷つきやすい」などを挙げていた。

これらは新聞記事の内容である。実際はどうなのか。わたくしの知人(イタリア人)を見てみよう。いる、いる、マザコンが。彼は32歳で仕事もあり、その都合で親元を離れて会社のある都市でひとり暮らしをしているが、毎週末実家へ汚れ物を持って帰省している。母親に汚れた洗濯物を渡し、手料理を堪能し、夜は遊びに繰り出す。日曜日の夜自分の家へ戻るときは、きちんとアイロンをかけられたシャツ、パンツだけでなく、1週間分の食料(レンジでチンすればよいだけになっている)を母親から渡される。毎日マンマから電話がかかってくる別の友人もいる。30歳男性であるが、普通に「チャオ、マンマ。そっちはどう?」と毎回普通に応えている。
見つけた。もう一人大物マザコンを。その名もアルベルト・ロッシ、そうガリバルディ通りのバール・アルベルトの店主である。彼がマザコン上位にランキングされることは間違いない。アルベルトは今年45歳、彼のマンマは確か68歳である。このアルベルト・マンマがまた強烈なのである。わたくしがバールで店番をしていると必ずやってきて「チャオ〜。わたしの息子はどこ?」「さあ・・・30分前くらいに出て行ったけどどこ行ったんでしょう?」「お昼の用意が出来たのに。今日のメニューは豚肉のグリルにサラダ。昨日のパスタが少し重かったというから今日は趣向を変えたのよ」「お昼から豪勢ですね!アルベルトが帰ってこないならわたしが食べたいくらい♪」「見かけたら家に寄るように言って。じゃあ。」(いくらこちらが愛想良く接しても常に無視される)毎日毎日昼も夜もア45歳のアルベルトの為にご飯を一生懸命作る。自分の息子以外のことには全く関心がないため、わたくしなど1年働いても名前すら覚えてもらえず、いつも「シニョリーナ〜!トイレの紙を補充しておいて頂戴」というように万年「シニョリーナ(お嬢さん)」である。

状況を説明すると、アルベルトはバールから50メートルくらい離れたところで独り暮らし、マンマはバールの真上に住んでいる。必然的にご飯もカフェも休憩をとるのも全部マンマの家となり、結果彼は全く自立していない寝に帰るだけの独り暮らしをもう20年も続けているのだ。昨年の夏アルベルトがハチに刺されたときもマンマの尽くしぶりは凄まじかった。「お医者さんに行って聞いてきたわ。はい、これが指定されたお薬。これはアルコール。まずこうやって消毒して。可哀相に、こんなに腫れて・・・」と至れり尽くせり。何度もいうがアルベルトは45歳である。わたくしは言葉を失ったままその母親と息子のシーンに釘付けだった。

「あれほど店のアイスクリームを補充しないさいよ、と言ったのに何にもやってないんだから。昔からそうなのよ、すぐ忘れるのあの子は。」「トイレの掃除はやっぱりわたしがやらなくちゃ駄目ね。」と丸で小学生扱いである。いつまでたっても子供は小さいままなのであろう。そう言えば昨年のクリスマス、わたくしがアルベルトにどこか旅行へでも行くの?と聞いたら「無理だよ。クリスマスにマンマのご飯を食べなかったら殺されるよ!」という返事が返ってきた。「いつまでたっても僕のこと子供扱いするんだから」と愚痴は言うものの、彼の言動はまさに子供であるからどっちもどっち、更に最終的には絶対マンマに従うのだ。

バール・アルベルトの常連客にとって、このアルベルトのマンマは相当強烈なキャラクターであるらしい。とはいえ全員が全員批判的である。教会工事のおじさんたちも煙草屋のシモーネも「ありゃ母ちゃんが息子を駄目にしたんだよ」「母ちゃんの教育の責任だ」「あんなに息子にべったりじゃなあ!」「あそこまでくると病的だよな、息子が生きがいなんだよ」「ハニ〜、今日のランチはぁ・・・」と物真似まで出てくる始末、馬鹿にしっぱなしなのだ。

別にアルベルトの話をするつもりではなかったのだが。しかしアルベルトが典型的なマザコンであることは周知の事実なのである。冒頭を振り返ってみよう。家族依存度の高いマザコンによく見られる性格が「問題解決能力がない」「傷つきやすい」。アルベルトそのものではないか。